16―学園対抗戦―.デットエンドはお休みで、ピエロは冷静に冷徹。相手はブラックユーモラスNo.2!陰を知った男の命を賭けた闘い
第41話 ちょっとだけ褒めてやる。俺をやる気にさせたことを
火神が戦闘モードに入った。
発せられる灼熱を両の腕に纏っている。熱で後ろの大気が歪んで見えやがる。
冬なのに肌に当たる空気が生温かい。俺の顔がその灯りに照らされる。
俺はただ静かにそれを見る――表情を殺し、淡々と。
「ここからが本番か……」
強の決勝までに間に合うのか……それよりも生きて帰れるのか。
まぁ、やる前から勝敗のことなど考えてもしょうがない。
もう戦うことは決定しているのだから。
ただ勝つためにどうするのかだけに集中すればいい。それが正しい。
俺の知ってる戦いって云うのはそういうものだ。
——さぁ、始めようか……
デスゲームの開始だ――。
——俺たちのデスゲームを。
一抹の不安など見せずに俺は静かに足を開く。腰落として拳を軽く握る。炎構えた相手に対して冷静に構えを取りおえる。
「上等だ! やる気満々じゃねぇかあぁああ!!」
息を巻いてるバカ。直情バカの典型例だな、コイツは。
俺はお前とは違う――。
一歩踏み込み、俺は火神に向かって攻撃をしかける。
初手は情報を得るためだ。コイツが炎術系の能力使いだってことはもうとっくに知ってる。それ以外の情報があるのか。俺は距離を縮め回し蹴りを放つ。
火神が蹴りを迎え撃つ。
さすがはといったところか。余裕でそれをガード。
「どうだ――」
炎を纏った腕で――。
「アチイか~?」
片目を歪めて楽しそうに愉悦の表情を浮かべてる相手。脚から制服と皮膚が焦げる匂いが鼻をつく。だが、俺はそれと引き換えに情報を得た。
蹴った足を引いて後ろにステップを踏み、相手を見据える。
一旦距離を取った。足は焼かれて痛みはあるが動く。
別段問題ない。千切れわけでも神経が切られたわけでもない。
得た情報をまとめるのが先だ。
わずかに触れて得た情報は俺が望んで得ようとした情報。
「そういうことか……」
脚には炎症を負ったがそれと同等程度の情報は得た。
「オマエ、その程度か……?」
攻撃を仕掛けてこない俺に眉を顰めている。
挑発的な態度をバカは取りやすい。
コイツも例外ではない。
俺は挑発を聞き流しながら、地面に叩きつけてやられた脚の確認する。
「こんな程度の攻撃だけで俺を倒すつもりだったのかって聞いてんだ!!」
炎症の痛みで遅れを取ることはなさそうだ。制服による防御性能が高いこともあるだろう。一撃で焼かれてなくなっちまったけど。さすがに敵と言えども一人で喋らせていると可哀そうなので言葉を返す。
「はぁ~、火神さんはおしゃべり大好きっすね……」
それは同情だけではない。
「戦闘中にあまりしゃべると舌噛んで死にますよ」
火神と同じく、挑発。
挑発っていうのは戦闘に於いて決まればデカい。
相手から冷静さを奪う手段の一つ。
これで戦闘を操っているヤツもいる。
情報を引き出させたり話術として使うものもいる。
ただ俺の場合は前者。相手の動きを操るものでしかない。
「調子乗りすぎだぁ――」
火神は怒りの表情を浮かべ両腕に炎を纏い俺に向かってきた。俺の予測は炎を纏った腕での振り払い。これは意外と炎術系が好む。打撃プラス炎症も負わせられる。
攻撃として理にはかなってる。
「テメェエエエエエエエエエエエ!!」
火神が大きく右腕を横なぎに払うのを見計らい、
俺はバックステップで距離を取り、それを躱す。
避けるだけで反撃はしない。
ただ、また冷静に相手を見つめる。
表情を変えずにただ冷静に相手を見据え続ける。一挙手一投足を見逃さないように。体から表情から出る動きや変化の情報を見落とさないように。
「テメェ……やっぱりおかしいな……」
追撃がこない。チックショウ……挑発の効果が無くなり始めてやがる。
怪訝そうに出す声でわかる。別の意味で俺に興味を持ち始めたみたいだ。
「可笑しすぎる……身のこなしが戦いなれてやがる」
「そうですか、最近の学生ならこれくらい普通っすよ」
たった二回の攻防でわかっちまうもんかねー。まぁ相手が相手だから俺も手は抜けないけど。一撃も攻撃を入れてないんですけど。さっきの三年相手みたいに気を抜いてられるわけでもないか。
「さっきまで見てたクソガキ共のお遊戯とは違げぇな……」
どこのクソガキだよ。使えねぇクソガキ共だ。
「お前が対抗戦に出てないのも疑問だ!」
奴は俺をより一層睨み付けて言い放った。実力的に確かにあそこに出てもおかしくはない。それでも俺は出るつもりもない。出来れば実力は隠しておきたいが、今回はそうはいかないことはわかってる。
コイツ相手に手札を隠しておけるほどの余裕なんてない。
手札を出すタイミングだけしか選べないのだろう。
だからこそ、火神の手札が俺は知りたい。
最高のタイミングで自分の手札を切る為に。
「それといけ好かねぇその目だ――」
俺の眼をサングラス越しに睨むような威圧に、
「目ですか……綺麗なおめ目だと思うんですけど?」
俺は冷静な顔のままおちゃらけて答えを返す。
「どこまでも、ふざけた野郎だ――ッ」
これぞ挑発。相手が冷静になる前に油を注ぐ。
こちらの手札を見られるわけにはいかない。
それでも出来ればもう少しだけ情報を欲しい。
まだ『ある』としか分かっていない情報の断片。触れなきゃいけない。
警戒心を相手に与える前にこちらの情報を整えたい。
「てめぇえええええええはッ!!」
火神がまた飛び込んでくる。俺は思考を加速させる。
さっきと同じように避けると対処をされる。
戦闘の学習能力は高そうだ。おそらく追い打ちがあるだろう。
―—だから、今回は。
俺も火神に向かって飛び込んでいった。
——迎え撃つッ!!
ダッキングするように下から拳を構える。
「あめぇ」
火神はそれを見計らい打ち下ろすような左拳を放つ――が、
「どっちが」
それを俺は受け止め、逆の手で拳を返す。
空気を切り裂くようなジャブの音が鳴った。
拳にある僅かな感触――。
「チッ……」
火神が鼻血をわずかに垂らして俺をにらみつけていた。
鼻先をかすめることしかできなかったようだ。触れる時間が短すぎる。
炎に気を取られているせいで攻防が短い。これじゃあ情報が足りない。
炎を無視して飛び込んでいくような無謀になりすぎてはいけない。
制服のガードが利いてるうちにどうにかしなきゃな。
コイツが本気を出す前にカタをつけたい。慢心して手加減をしている内に。
◆ ◆ ◆ ◆
火神はわずかに流れた鼻血をふき取り冷静さを取り戻す。
目の前に立っている男を睨みつけながら――火神は考えていた。
炎症を与えてるのは間違いない。ガードしようがダメージがないわけがなかった。彼の能力を身に纏い攻撃をしかけていたから。僅かに焦げるような匂いもしている。
だが、目の前の男は涼しげな顔で立ち構えを取っている。
足を庇う動作もない。
制服が焼け焦げ赤く腫れあがった脚に痛みがないはずがない。
学生風情と思っていたが少しずつ異常を感じ取っていた。
「——行きますよ」
火神の考えをまとめさせないようにピエロは攻撃を自ら仕掛け攻防を繰り広げる。一直線に出される拳。手が交わり瞬時に攻守を変える。火神の指から銃弾のように火炎弾がピエロの顔に向けて放たれる。それをわずかに首を横にずらして避けてから裏拳を見舞う。それを身を屈めて躱し腕の炎の火力を上げる。
攻撃範囲を増やすために。
範囲を広げた攻撃の拳が真っすぐピエロに向けて放たれる。
目の前に迫る炎の熱。火神は先を考える。
首を横にして躱そうものなら追撃に横に払う。
逃げるのであれば先程と同じく指先から火炎弾掃射する。
刹那の戦闘で迫られる選択肢。
出された拳を握って受け止める。手のひらを焼かれるというピエロの選択肢。
追撃を封じるようにその手は握られている。火神の表情が歪む。
恐怖に打ち勝つのとは違う。自ら飛び込むような思考。
わずかなスキを突くようにピエロの拳が打ち上げられる。
それは火神に躱された。
すぐさま受けては避けて攻撃を放ち躱す。
火神の攻撃を受けピエロは次の攻撃の情報を得て反撃を繰り出す。それは銀翔とのトレーニング似ている。目まぐるしく変わる攻防。お互いの間合いで逃げずに打ち合う。一撃は防御される。防御後に一撃が放たれる。
思考を加速させ相手を追い詰めていく。
先手を予測し手を封じ自分の攻撃に転ずる。
派手さなどない――大技を繰り出す暇を与えない。
相手の思考より一歩先へと。相手の動きより早く動けと。
幾重にも重なる分岐を読み解くように自分の手持ちの攻撃を繰り出していく。
そして先を読んだものが勝敗を握る。
「チッ…………」
又、ピエロの一撃が火神の顔面をとらえた。
だが、それはダメージというには軽すぎる。
たった一撃でしかない。拳が頬に当たった感触はある。
それでも足りないことは分かっている。相手が誰だということも。
「サングラス外した方がいいですよ……目に入ると危ないんで」
そして、ピエロは挑発を送る。
火神はそれに言葉を返さなかった。挑発には乗らなかった。彼の中で異常が明確になっていった。攻防を繰り返しただの学生ではないという疑惑が彼の中で整理され始めた。
火神にとって防御自体も攻撃に入る。
なぜなら、彼の炎に触れるからだ。
彼が出す炎自体が通常の物ではない。異例のものである。
温度などは地球の炎などとは別物である。それは能力で作られたものだ。
物理など無視している。現にマカダミアの制服を燃やしている。
制服には各魔法耐性や属性耐性が付与されている。
それを超えるほどの灼熱。
魔物の戦闘を意識して作られた防具。
その防具を簡単に焼く炎であり、それ程の炎で炎症を受けダメージを負う。
なのに、恐怖も無く素手でそれを握ってくる――
通常であれば多少表情を歪ませる。
なのに、目の前の相手は表情一つ変えずに――
眉ひとつ動かさずにそれを気にせず平然と攻防をしてくる。
「やっぱり、そうだな……」
火神は確信する。
「テメェは……おかしい」
やはりコイツは――異常だと。
「普通じゃねぇ」
通常では知りえない情報を知り、学生相手だから手加減をしているとはいえブラックユーモラスNo.2の自分と肉弾戦を数手も互角にやりとりをするこの男。
そして、いまだに能力を見せていないという――その異常に。
火神の思惑は正しい。ピエロの能力は通常では発動自体が悟られない。知ればなんていうことはない能力である。しかし、逆に言えば知り得なければわからない。
それが《心読術》である。
さらにピエロは戦闘において、必要な能力を異世界で得ている。
それは異能力ではない。
彼が炎症によるダメージでも表情を一つ変えずに対処できているのは、
その為である。
彼は命のやりとりを学んできた。
騙し合いの中で生き抜いた。感情一つ表情一つが戦いの中で情報となることを知っている。僅かに見せる弱み。自然に出てしまう挙動。それらを読み取らせない能力が彼には備わっていた。
絶望のデスゲームによって――。
何もかもを失った異世界の経験で望まずに手に入れた彼の力。そして、それが不気味さとなり火神に色々な思考を働かせる。それになりより目である。櫻井の目が気になる。
『それといけ好かねぇその目だ』
無表情のままただこちらを見てくる。戦闘に興奮も高揚することもなく、苦痛に歪むこともない。冷静に冷たく感情の色を見せずただこちらを真っ直ぐ見ている。攻撃する時も避けるときも観察するように――何かを見透かすように。
こちらを覗いてくる。
それがいま火神の動きを止めている。
その間にピエロも思考を加速させる。
何手も躱したことにより新たに情報を得ていた。そして、彼は常に能力について情報を求め続けた。火神がこれから出す手を先読みするために。思考が完結しぽつりと言葉をこぼす。
「ここからが正念場か……」
分かっている。火神がもうすでに冷静になっていることも挑発に意味がなくなったことも。火神は首を慣らし火球を無数に作り上げる。それが彼が考えついた最上の一手だ。迂闊に敵に能力を発動させられてはいけない。
そして、肉弾戦では長引くと――。
「ちょっとだけ褒めてやる――」
火神も冷静さを取り戻していた。もはや櫻井の事をただの学生とは認識していない。得体の知れない敵だと認識を改めた。お前のサービスタイムは終わりだと告げるように。
「俺をヤル気にさせたことを」
≪つづく≫
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