第42話 人の陰を知りて生の陽を知りその道へ辿り着く、ピエロ奥の手!! 

 眼前に広がるのは十数個のオレンジの炎の塊。


 学園対抗戦で見たものとはスケールが違いすぎる。一つ一つがデカイ。俺は火神の火球を前に回避の選択を取らざる得ない。もう情報搾取タイムは終わってしまったようだ。


 ——もう冷静になっちまいやがった。


 改めて認識する。厄介な敵だ。


 今の俺のステータスではアレを食らえばダメージがデカい。


「全部避けられるもんなら、避けてみろよ学生」


 火神が手を振ると指揮をとられたように火球が俺に向けて襲い掛かってきた。俺は冷静に避け距離を開けていくことしかできなかった。段々と遠ざかっていく敵。


 近づいていくには無理がある。くぐろうにも数が多すぎる。


 二、三個飛んでくる火球の後ろで新たな火球が生成されていく。


 あれだけの規模の能力を行使しているのに生成スピード迄ありやがる。


 この場所を選んで正解だった……野球場であれば燃えやすいものが少ない。


 もし、これが公園のど真ん中だったら樹木が燃え、


 俺の行動の妨げになることを想定していた。


 一瞬の迷いが負けに繋がる。気を抜いたら死ぬ。


 だからこそ俺は野球場を選択した。


 広いグラウンドは遮蔽物しゃへいぶつがないから大きく動き回れる。


 俺は飛び交う火球に注意を払いつつ距離を広げ、


 スタンドの観客席へ跳ね上がる。


「さっき迄の威勢はどうした?」


 火神の火球は収まりを見せない。


 それもそのはず、ブラックユーモラスNo.2の炎術使い。


 これは日本一の炎術使いと言って過言はない。


 先程のお遊戯会とは違い威力も速度も度を越している。嫌になるぜ。しかもあいつのマインドゼロはほぼない。そんな淡い期待に身を任せれば身を滅ぼす。


「いつまでちょこまか逃げてやがる!?」


 ―—当たり前だッ! 火の玉が迫ってくれば誰でも逃げるつーの!


「チッ!」


 勝ち誇っている野次に軽く舌打ちが自然と出ちまう。


 このままやられ続けてるわけにもいかない。


 ―—反撃の準備をしなきゃな。


 直線の動きでは捉えられるのが目に見えてる。俺は動きに緩急や変化を付けながら上の座席下の座席とジグザグに移動を繰り返していく。俺の通ったあとのすぐ後ろでけたたましい爆音が俺を追い詰めてくるのが分かる。


 アイツは冷静さを取り戻してきてる。


 ―—骨が折れる……今日は使いそうだ。


 俺は胸に手を当てる。


 ——まったく……作るの大変なんだぞ、


 俺の手持ちのカード。


 出し惜しみ出来る状況ではない。先程の肉弾戦は火神が様子見だからこそ、打ち込めた。普通の状態で俺が相手出来るレベルではない。手札を出し惜しみできる状況はもうとっくに終わっちまった。


 俺は扇状せんじょうになっている観客席を縦横無尽に移動をしながら、


もく生命めいを育て、めいしょうず」


 言霊ことだまを外に吐き出す。


 右手の人差し指と中指を直線に合わせ、空に線を引いていく。


 線を頂点から左下へ引き、


 ひとつひとつの意味と呪力じゅりょくを込めていく。


悪鬼羅刹あっきらせつを滅し、しょうず」


 線を右上方へ45度に上げていく。俺が走り抜けた後を追うようにプラスチック製の椅子が焼けていく匂いがする。コンクリートは赤光しゃっこうを発しながら溶けて朽ちて落ちていく。小さいマグマが出来上がっている。後ろに引き返すことが出来ない状況が徐々に作られていく。段々と選択肢を狭められていっている。


は大地を築き、しきを変えこんしょうず」


 線を横に引く。攻撃は激しさを増していく。


 俺に向けて放つ火球の数は徐々に増えつつある。火神の攻撃は緩急まで付け出しおまけに直線だけではなく曲線でのオートホーミング機能まで付け出している。


 俺を試す様に徐々に徐々に手を増やしている。


 イヤらしいやり方だ。


 獲物を弱らせていくような狩りの仕方。


 確実に追い込まれていくのがわかる。逃げ道の選択が減っていってる。


じきまといてすいしょうず――」


 焦りが僅かばかり生まれる。


 あの馬鹿は際限なく作り出せそうだ……。


 早く終わらせねぇとな――!

 

「金水は浄化の力を持ちて、清めて静め明鏡止水となる」


 線を右下の頂点を目指し引き、


 最初の頂点につなげ俺の準備はギリギリ整った。


 五芒星を描き終わった。あとはぶち込むだけだッ!!


 準備が終わり隙が出来た瞬間。


「べェっ――!」


 避けたはずの火球が目の前で方向を急激に変え襲い掛かる。俺は首だけを動かし微かに避ける。髪が燃えて焼けた音と焦げた匂いがする。あと一歩遅れてれば首から上が爆発してそうだった。


 逃げ道は二手に絞られていた。


 右側のスタンドにある非常階段ルートと火神に向かう直線。


「なら――」


 俺は迷わず選択する。


「コッチだッ!」


 スタンドから飛び降り移動方向を火神に変える。普通では選ばない選択。


 死地へ飛び込んでいくような愚かな選択。


 だからこそそこに活路を見出す。


 選択を嘲笑うような、


「あっちゃ……ぁ――」


 目の前にある光景に顔が引きつった。火神は火球に力を込めていままでのとは比べ物にならならいデカイ球体を作り上げていた。俺ぐらいの人間をスッポリ飲み込みそうな巨大なものを。


 それは辺りの大気を巻き込むように吸収してさらに巨大化を続ける。


 どうやら二択は正解だったらしい。


 非常階段に逃げ込めばあの強大な火球を非常階段口に撃ち込まれてそのまま蒸し焼きでジエンドだった。広いフィールドだからこそまだやりようはある。囮に使われる火球を避け続けながら俺はタイミングを見計らう。


 間に合うか――!?


五行創成ごぎょうそうせい!!」


 わずかな生成の遅れ。


 特大の火球を創るための想像の遅延。


 ソコを突くように、


 胸元のポケットから九枚の護符を、


 自分の前に広げ宙に並べる――


「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在――」


 それを前に俺は最後の言霊を告げ手で印を組む。


 祈りを込めるように、願いを込めるように、


 命を賭けるように文字を唱える。


 宙に浮き整列した呪符は反応を返す。


 俺の印と共に左から黒字が金色の光を発していく。


ゼェンンンン!」


 全ての符が点灯した瞬間――


 足を開き刀に手を掛けるように、


 拳を腰に引きつける。





喼急如律令オーダァアアアア――」





 俺の願いをかき消すようにヤツの準備が完了した。





「終わりだぁあああああああああああ!!」





 火神がデカい火球を止まっている俺に放つ。それは俺と火神の間の視界を遮り、徐々に巨大な球となって近づいてくる。そうだ――逃げるのはもう終わりだ。


 テメェをぶっ飛ばすためにな。


 火球が俺に迫ってくる。視界はすべてオレンジ色に染まっていく。


 俺の中での選択は決まってる。


 逃げるのでもなく避けるのでもなく拳を握って構える。


 その護符を横一線に右腕で強く薙ぎ払い、力強くめいを告げる。


 準備は完了した――これが俺の対類友用デットエンド対策。





呪装式九字護身法じゅそうしきくじごしんほうッ!!」





 そして、後天的に磨いてきたもう一つの能力。


 戦うと決めている。我ながら自分の頭の悪さが嫌になる。強に感化されているようなアホな選択だ。炎の前に俺は表情を取り戻し闘志をむき出しにする。


 やることは決まった。


 ―—素手でぶっとばすッ!!


「おッらァアア――!!」


 拳で火球を殴っている感触。巨大な火炎岩を殴っているような感触。熱と呪力がぶつかり合いはじけ飛ぶ。俺が思いっきり殴って火球の方向を変えた。勢いを全て殺し切れずに横に反れる。後ろのスタンドが爆音を響かせた。


 後方で火花がチリチリと音を立て舞い上がっているのがわかる。


 スタンドの三分の一はゆうに消失している。


「な、てめぇ本当に何もんだ……っ」


 目を見開いたの奴だった。俺は静かな顔で返す。


「——学生です」


 自慢の一撃がぶっ飛ばされた衝撃もあっただろうが俺の姿にヤツは驚きを見せている。金色の光が俺を包み込んでいた。その姿に火神の動きが止まっている。


陰陽道おんみょうどう


 陰陽道は元来よりこの世界に魔と戦うために残された人間の能力ちから。人間の闇となるかげをしり、生というひかりを知った先にある呪法じゅほう


 ――ソレが陰陽術おんみょうじゅつ


 俺は恩人の心を読んだとっかかりからコイツを調べあげ完成させた。どうしても力が欲しかった。どうにか手持ちのカードが欲しかった。


 俺の戦闘ステータスは限界に近かったから。


 ステータスは戦闘において圧倒的アドバンテージになる。


 その中で強と戦うことを想定した場合――


 その差はどこまでも残酷で届くはずもない領域だった。


 俺が持っている手段だけでは追いつかない。どれだけの戦略や智謀、罠を用意しようと勝てるはずがない。どれだけのトレーニングや鍛錬を繰り返そうと無理なものは無理だった。


 俺にはトリプルSランクとSランクの溝を埋めるほどのなどない。

 

 足りないのだ――持って生まれた素質も力量も才能も、肉体でさえも。


 ステータスが必須だった。これが高いか低いかだけで大分戦闘に支障をきたす。だからこそ求めた。純粋な強さを。炎や氷、光や闇などの属性ではなくただシンプルな答えを――圧倒的な力という強さを欲した。


《身体能力強化》


 上の闘いに行けば行くほどこれだけの代物になる。いや必然とそうならざる得ない。大技だけではない。単純な攻撃、ダメージを受けない防御力、攻撃の被弾を抑えるための回避。基本的なことだが基本以上に必要なことなんてない。


 高度な戦略や技術を超えた先にある勝敗の鍵。


 俺の『呪装式九字護身法』は、


 田中の『竜人変化』と似ている。


 違いがあるとすれば、アイツが異世界で得た力で俺が異世界から帰ってきてから身に着けただけのこと。ヤツはマナを、俺は呪詛を体に纏いステータスを飛躍的に跳ね上げる。


「それがテメェの能力かッ!」


 強を殺すためだけに求め続けた先のシンプルな強さ。


 だがそれも皮肉なもんだ。


 いま違う相手に使うことになっている、


 アイツの為に。


「反撃の時間ですよ――」


 ブラックユーモラスNo.2を相手に。


 ただ目の前にいるこいつを許せねぇ。


 地につく足に力を込めていく。


 金色こんじきの光は生命の輝き。


「バカ神さんッ!!」


 俺の眼光に慌てて緊張を最大限にする火神に向かって力を解き放ち前に走り出す。さっきとは比べようもないぐらいに加速が上がっているのに火神の顔が引きつる。


 だが、俺は加速を止めない。


 お前を許せねぇ理由は3つある――。


 俺は火神に向かって一直線に向かっていく。


 一つ目は俺の恩人銀翔さんに迷惑をかけようとしたこと。


 二つ目は美咲ちゃんにまで手を出そうとしたこと。


 火神のは演技だった。ヤツは薄気味悪い笑みを浮かべる。


 多少は速度の向上に面を喰らっていたのかもしれない。


 ただ俺という存在をヤツはしたたかに警戒し続けていたから、


 身体強化程度では怯むはずもない。


 俺の移動をヤツはしっかり目に捉えている。


 ヤツはすぐに笑みを浮かべ指を鳴らし告げる。


 

「――バカがかかりやがったな」



 火神が指を鳴らした瞬間、



「なッ――多重能力たじゅうアビリティだと!?」



 氷の箱が俺を包み込むように完成していく。


 目に見えない薄い氷。不可視の氷壁。動いている地面の土埃でようやく姿を現す。四角く十メートルの氷の壁が上空を含めた五方向から徐々に出来上がっていく。ようもこんなデカいもん作りやがる。


 火神の能力の凄さ、火球をまた作り直し始める姿に俺は驚いた姿を見せる。


「ジ・エンドだ!」


 火神はそれに胸糞悪い薄ら笑いを浮かべる。


「バカ学生ェエエエエエエエエ!!」


 愉悦の表情を浮かべる相手に驚いた俺は、


 心で返す。


 バカはお前だ――火神。


「知ってるんだよ……」


 俺のも演技だ。最初の素手での攻防。


 俺はお前から情報をたくさんとっている。


 お前が肉弾戦の最中に余計な気を使ってい事も。俺を生け捕りにして情報を吐き出させようと考えていたことも。俺に殴られながらもその準備をしていたことも。


「テメェだけが特別なわけねぇだろ……」


 お前の『能力』が炎だけじゃない情報も、


 ここにトラップを仕掛けていたことも!!


 お前だけが二つ能力を持っているわけじゃねぇッ!!


「まだ、終わって――」


 俺はスピードを緩めず加速を上げていく。壁ができる前に通り抜けれればこっちの勝ちだ。閉じ込められたら一巻の終わりだ。この中で蒸し焼きにするつもりらしいからな。迫りくる壁と恐怖。歩みを止めれば負ける。迷えば死ぬ。


「ネェエエエエンダヨォオオ!」


 活路は前にしかない――ただ走り続けろ。


 あと少しで壁を通り抜けられる。そこを抜けてからも勝負は続く。しかし、ココで捕まれば勝敗は決まる。この氷は見た目に反して固いとわかっている。


 あと少しで抜けられる。


 間に合え……ッ。


 アイツの思惑より先に。


 アイツの表情が歪む。


 俺の足が速く通り抜ける。


 氷の檻が完成するよりわずかに、


 速く先へと――


 その気が緩んだ瞬間だった。


「イッツ――ッ!!」


 足に激痛が走った。


 戦闘が始まって以来初めて苦痛に顔が歪んだ。予想外の攻撃だった。


 ——何されたッ!?


 通り抜けた後に形状変化し壁から、


 氷柱つららが突き出し俺の足を貫いている。


 ―—腐ってもNo2ってことか……土壇場で変化をつけてきやがった!!


 一瞬の迷いもなく発動に時間をかけない。


 どれだけイレギュラーがあっても対処してきやがる。


 挑発も二度成功したぐらいで終わりを迎えた。戦闘経験の多さなのか見た目はあんな癖に対応が早い。突き刺さった先から徐々に周りを凍らす様に広がっていく。冷気が足を覆って凍らせていく。


 ——この程度の痛み、あの時に比べたら……ッ


 歯を食いしばり体を前に倒す。止まるなと意思を表す。


 捕まってるわけにはいかない。目の前で火球を構えている。


 ほっといてもここで他の氷柱で貫かれる。


 足が凍ってるのにかまけてる暇はねぇ。一秒でも早く前に。


ネェン……ッ!」


 俺は氷に対して五行の力を借り火で氷を弱める。氷の強度を下げる。足に火が付く。貫かれている足を力で動かす。氷の強度に負けて傷口が広がっていく。傷口に焼かれる痛みと凍傷の痛みがごちゃ混ぜに襲い来る。


 ――彼女アイツを殺した痛みに比べたら。


 けど、俺は痛みには強い。


 痛みを堪えよろける体を全力で前に傾ける。貫かれていない方の足で大地を蹴り前へと――無理矢理にでも力を込めて足を貫通した氷柱つららをへし折って前に進む。折れない意志を糧に火神に向かって走り続ける。


 ——屁でもねぇええ!


「なっ!?」


 さすがにそれには火神も本当に驚いていたようだった。ただ前にと進んでくる姿に。傷を広げるような泥臭い戦い方に。慌てて指先を振るうと火球が迫ってくる。双方向から近づくと距離が無くなっていく。


「ナッッ――!」


 体に火球が直撃すると声が上がった。それはさらに動揺したような声だった。


 火球が飛んで来ようとも関係ねぇ。


 俺は体に被弾しようとも迷わずただ前へと走っていく。


 傷口から血が出ようとも、足が焼かれようとも、


 爆発で衝撃を受けようとも、ただ前に。


 分かっていた――火神相手に俺の実力が足りてないことは。


「くッ――アァアアアア!」


 痛みなど歯を食いしばってやり過せ。迷わずにただ前に。


 止まるぐらいなら死んでも構わない。幾重にも被弾を繰り返す愚行を重ねる。


 ダメージは覚悟している。普通にやっちゃダメだとわかっている。


 その玉砕覚悟の特攻に火神の顔が動揺に歪んでいるのがわかる。


 お前は狂っていると言わん目で見ている。


 ――そうさ、俺は狂ってる――。


 これでいい。お前から冷静を引きはがす。


 お前の能力に俺の能力が足りないっていうなら、


 俺は全てを持ってテメェぶっ飛ばしに行くだけだからッ!


 あと少しでテメェの間合いを超えるッ!


「最初に会った時からなァ――」


 ――三つ目は最初見た時から思ってたんだ。


 走った勢いそのままに殺意を込めて火神に飛びかかる。火神の目が驚いたように見開く。動揺で能力の発動が遅れている、能力はイメージだ。


 ——初めてテメェのツラを拝んだ時から、


 ソレを狂わせれば発動は出来ない。


 ――ムカツイたんだよ……。


 飛びかかる勢いそのままに体を旋回させ足を脱力しムチの様にしならせる。背中に隠す様にして出処を悟らせないように力を込める。怒りを乗せていくように。


 それはある奴から何度も受けてきた攻撃。


 狙うは人体の急所――コメカミ。


「そのサングラスが危ないって、」


 ――そのサングラスかけた、


 喰らえオロチ直伝じきでん体罰殺法たいばつさっぽう


「何度も言ってんだろうがぁあああああ!!」


 バカ面がぁあああああああああ!! 


 意識を刈り取る飛び回し蹴り《ジェノサイドカッター》!!

 

 俺は貫かれた右足に思いっきり全速力で全体重を乗せ火神のこめかみにぶち込んだ。火神の体が勢いよく後方に吹っ飛びサングラスが宙を舞う。今までのお返しと言わんばかりの強攻撃に地面をバウンドして吹っ飛んでいく。


「やっぱ、目つきがワリィな……」


 火神の眼が見えた感想。俺は足からグラウンドに血を垂れ流しながら、倒れた相手に表情を取り戻し構えを取る。怒りを捨て冷静に見据える。確実に攻撃が決まった手応えはあった。






「あー、油断しちまった……」


 だが、相手は火神。


「学生相手にダウンなんてよー…………」


 予想通りやつは生きている。


「情けなくて……笑えてくるぜ…………ハッ」


 寝そべって額に手をあてて空に唾を吐くように言葉を吐きだしている。


「モロだぜ、モロに入ってんだ」


 だが、その言葉はどこか余裕が込められている。


「言い訳のしようもないくらい」


 未だに立ち上がってくる気配がない。自信を持って放った渾身の一撃だったが、一撃で終わらせられる程甘い相手ではないと分かっている。言葉からまだ本気を出していない口ぶりが伝わってくる。


 それに俺は苦笑いが浮かぶ。


 ――こっちはもう手札は全部切っちまってるんだけどな。


 逃げ出したくなる気持ちが襲った。ヤツは地面に手をつき立ち上がってくる。


 そして服についた汚れを丁寧に払い俺を冷たい眼光で睨んできた。


 俺の肌が焼け付くように緊張を告げてくる。


「糞学生、神に祈るとかすんなよ。無駄だから」


 おう……どうやらこれは本気らしい。


 さっきまでとは違い殺気が出てやがる。


 捕まえるのは止めて俺を殺す気らしい。


 情報とかもうどうでもいいってこと……か。


「遊びは終わりだ――」


 ―—ガチギレだ……目がマジだ。いっちゃってやがる…………。


 さっきのは油断を着いただけの一撃。相手が学生だと舐めながら戦闘した相手に隙をついて一撃をぶち込んだだけってことが立証されてしまった。あの氷のボックスも俺を捉えてから痛めつける為に配慮があった攻撃。


 完全にブチ切れた顔をして立ち上がると火球を作り出す。


「テメェは死刑確定だ!」


 だが以前のモノとは違う。それは白を帯びた火球。


 ——地球上のモンじゃねぇな……。


 明らかに異常な色で異質な異形の――


 周囲の温度を変えるほどの炎。


「跡形もなく……」


 離れた位置にいても汗が蒸発して皮膚が焼かれていくような温度を感じる。


「燃やし殺してやるよ!!」


 この白い炎は触れたらダメなヤツだ。普通じゃねえ。直感がそう告げている。


 コイツは宣言通り本気で俺を跡形もなく殺す気だ。


 俺はもう手札は全部切っちまったのに勝負を終わりに出来ないようだ。


 ―—本当にツイてねぇ……不幸だぁ……。


 ため息をつきたくなるのを堪えて俺は構えをとり直す。


「正当防衛成立です……」


 本当のデスゲームの開始に気合を入れて返す。




「殴り殺させてもらいます!」




≪つづく≫

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