7.デットエンドが冥土に送り、ピエロがメイドを仕る。そして秋だよ死刑囚共。監獄祭!!

第22話 よう死刑囚共、地獄の監獄祭!!

 秋も終わりに近づき学園祭が行われていた。俺は体操着姿で校門を前に立ち尽くす。アーチ型の木造に内職された造花をのりで張り付け校門にデカデカと飾っている。


 上を見上げる。


『ようこそマカダミアキャッツ高校へ』


 用も何もない。そもそも書き方が違う。


『よう、死刑囚共。地獄の監獄学校へ収監してやる!』


 こっちが正解だろうな。


「学園祭だね!」


 そんなことを考えていたら、俺のわき腹に手が差し込まれた。


 二の腕に当てつけられる脂肪の塊。


「楽しみだね、強ちゃん♪」


 横にはいつもの笑顔の幼馴染がいた。




 話はホームルームの時まで遡る。


 ありきたりな出し物が書かれ、黒板の前には選抜を間違えた学級委員が立たされていた。片言の不良品ロボと言葉を失った眼鏡少女。


「………」


 もはや、あの眼鏡女子の言葉は無音に近い。何も聞こえん。地獄耳を持つ俺でも聞き取れん。口が動いてるだけなのは見て取れる。努力しているが才能がない。学級委員の才能が皆無だ。


「デハ、クラスノダシモノヲキメマス」


 ロボ語の方が人語より聞き取りやすいというのは間違っている。


 どちらも聞き取りづらいという本質からは逃れることができない。


 俺は聞く気もない。


 学校行事など一ミリも興味がわかない。


 なぜこんなことをするのか理解できん。学校の名を売る為に学生を非正規非雇用で奴隷のように使う制度に納得がいかん。バイトすれば時給が発生するが、学校行事は単位と言うものを担保にして脅して無償の人材をこき使う。

 

 あー、ヒドイ世の中だ。


 俺は残酷な現実から目を逸らすように机に伏せ夢の中へ飛び立つことにした。


 だから、この後何が起きたかも知らないし、


 クラスの出し物が何にきまったかもしらない。


 我、関せず。


 その後は準備を手伝うフリをしてピエロと遊んでいただけだった。というか、ピエロの個人的出し物の用意を手伝っていた。机を動かし紫色の布を集めたり意外と忙しかったような気がする。


 櫻井曰く、


 何をするのかは、当日のお楽しみということ。




 そして――


 今に戻るわけである。


「さぁ、強ちゃん!」


 銀杏いちょうの木の下で銀杏ぎんなんの種という鼻をつく腐臭を放つ異物が転がる校門に鼻をつまんで立っている。俺のわき腹から手を回して、もう一方の片腕を上げる玉藻。


「一緒にクラスの出し物頑張ろう!!」

「……俺も頑張るの?」

「いくよ、一緒に。エイエイー」


 相変わらず人の話を聞かない、この女。


「……」

「オー!!」


 乳を押し付けもう片方の手を天高くつきあげ元気に飛び跳ねる。


 いつも通り俺のやる気は無視され話は聞かずじまいである。


 無邪気だから。ただ腕に当たる無邪気なオッパイの感触は存外悪くはない。


「エイエイオー!」


 何度もぶつかる感触。ぷにぷにふよよとしている。


 悪いものではなく良いものかもしれない……。


「何する気だ……うちのクラス?」


 玉藻と教室に移動するといつもの配置とは変わっていた。四つの机を組み合わせて上にテーブルクロスを敷き、座布団が椅子の上に敷かれ、綺麗な花瓶が置いてある。


 櫻井の席に花瓶が置いてあると不幸が臨界突破して、


 ――まじ笑えないではなく、


 ピエロが遂に死んだかと思ってしまいそうになる。


 ――マジ笑える!


 笑い終え、


 教室の細部を見渡すとカーテンで仕切られた衣裳部屋らしきものもあり、


 簡易的な厨房もある。


 意外と準備が凝っている。どこからキッチンが出てきたのか分からんが、魔法もあるので別にあっても気にしない。というか、こいつ等は俺が暴れた夏の戦いの復旧作業をこなした奴らなので、あそこから元に戻せるならこれぐらい造作もないだろう。

 

 ――それにしてもだ……。


「これは?」


 ――なんだ?


 クラス前の看板を見に俺は戻る。


 教室の前に張られたクラスの出し物を主張する看板。


『2年C組 メイド喫茶』


 俺は溜息を吐き、あまりの普通過ぎる出し物に両手をホームドラマの外人のように広げ、やれやれといったポーズを俺は取る。ありきたりだ。ありきたりすぎる。発想が貧困でジプシーである。


 何のセンスもひねりもなく、ナンセンスだ。


 どこにでもあるような陳腐な出し物。


 まぁ、普通っぽいちゃーぽいっが、それを陳腐という。


「発想が死んどるな」

「強ちゃん♪」

「ん?」


 そこに登場、黒メイド服巨乳。


 学校イベントの定番のような輩。


「な、な、な――」


 だがしかし、その破壊力が高い格好に俺の口は空回りする。



 黒い上に白のエプロンみたいなシルエット。頭に白いカチューシャ。ミニスカートまでは許せる。胸部に白と黒以外の色が見える。肌色の部分。


 ――なぜ、うわ乳の肌が見えている!!


 ――もはや、ちょっと衣装との兼ね合いでおっぱいが怒った眼つきにすら見えるよ!!


 ――おっぱいの神さまが怒ってる!?


「なんつうぅうう、」


 ちゃうちゃう、おっぱいの神さまってなんやねん!とおっぱいと睨めっこしている場合ではないと首を振り、テンパりながらも現状を再確認する。


「破廉恥な格好してるんだあぁああ、玉藻ォオオオ!!」

「えっ?」


 俺は思わず叫んでしまった。しかし玉藻は不思議そうにしている。


 ――俺がおかしいのか。これがデフォルトなのか?


 ――頭おかしいのか?

 

 ――高校生に不健全な格好をさせるとPTAが飛びついてい来るぞ。早くなんとかせねば!!


「えぇー……そんなに変かな……」


 怒っている俺を前に玉藻は自分の衣装を訝しげに見ながらスカートの裾を持ち上げフリフリとしていた。スカートを見ているけどそこじゃないんだよね! もっと強調している部分が自分で見えないの!?


「強ちゃん、普通のメイド服だよ?」

「普通じゃねぇだろうッ!」

「どこが?」


 ――上乳がだッ!!


「お前にこれ以上説明するは面倒だ! くそっ、どこかに!?」


 俺はあたりを見渡し緊急用で役立つ人物を見つける。


「ふぅー」


 タキシードを一丁前に着こなした男。


 髪型をバッチリキメ手首の辺りのボタンいじくっている。


「オイ、櫻井!」

「なんだよ、強。そんなに血相変えて?」


 そう、困った時のピエロ頼みである。


「というかお前もそろそろ着替えろよ。もうすぐ始まるから時間あまり無いぞ」


 俺の着替えとかどうでもいい。玉藻の上乳PTA問題を解決するほうが先だ。


「お前が玉藻の代わりにアレを着ろ、櫻井!」

「あれって……っ!?」


 玉藻を見て櫻井が慌て出した。


「ななん、なんで俺がメイド服を!! どこに需要がある!?」


 時間がないんだろうが……。


 先程の発言はキッチリインプットしている。コイツが言い出したのだ。もうすぐ開店する破廉恥上乳メイド喫茶。断固阻止せねば!


「口答えせずにつべこべいわず、お前がきろぉおおおおお!!」


 俺の有無を言わさぬ怒涛の口撃にピエロがメイド服を着て狂気を醸し出すことになる。玉藻は残念そうに「えー」と言いながらも俺の要望を受け入れ男性用衣装に着替える。


 そして、俺も急いで男性用のウェイトレス衣装に着替えをすました。


「ったく……」


 着替え終わり、乾いた喉を潤すために販売用のお茶を椅子に座り毒見する。


 どうにか間に合ってよかった。危うく職員会議ものだ。


「うぅううう……なんで……俺だけいつもこんな目に……」


 横にはメイド服を着たピエロが泣きながら体育座りしている。


「他の奴はメイド姿のヒロインとイチャコラしてるのに……」


 確かに櫻井の言う通りにクラス中がタキシード姿とメイドのカップルで溢れている。ご主人様とか言われ、漢たちがまんざらでもない反応を示している。


 それと比べて俺はどうだ。


「なぜ俺だけ奴隷メイドプレイをさせられているの。旦那様?」


 その姿はもはや変態。俺の近くに泣いた変態がいるだけだ。


「それはお前が変態だからだ。櫻井」

「旦那様、変態は罪なのですか?」

「七つの先を行く大罪だ」


 七つの大罪とはキリスト教だかの七つの悪しき感情・欲望を指す言葉。


「傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲の」


 それがお前だと俺は櫻井を侮蔑の眼で見る。


「七つが揃っても勝てない人間が犯すなかで最悪の罪」


 それは不幸とかではない。


「すべての先を行くのが変態だ」


 俺は旦那様風に偉そうに答えを教えてやった。変態メイドピエロに。


「不幸だァアアアアアアアアア!」


 その男の名は櫻井。


 学園祭が始まりお店に客がどっと押し寄せる。あちこちでクラスメイト達が動き回る。まだオープンしたてということもあり、みな慣れてなさからか上手く回転していない。


 あそこの席の注文誰もいってなくね?


「しょうがない」


 俺も一応気だるそうに注文をとることにした。


 席に着くと紙とペンを出してお客様に丁寧に問いかける。


「ご注文はお決まりですか~、キサマ?」

「えっ? あれ……メイドさんは……?」


 とぼけた顔をする学生。全く俺を見てそれを注文してしまうなんて、


 なんということでしょう。俺は指をポキポキし注文を再確認する。


「ご注文は冥土めいどに行きたいのでよろしいですか?」


 死にたいと注文するなんて。殺してくれって言ってるようなもんだ。


 何も答えずにプルプルする相手に俺はめんどくさそうに注文の確認を続ける。

 

「そうですか~、メニューにはないので特別料金となり有り金全部になりますが、あの世に行く覚悟と鎮魂ちんこんの準備はよろしいですか?」


 気の聞く俺は全世界共通言語も交える。




「アーユーレディ。アンダスタン?」




 眼球をむき出しにして覚悟を問う。


「す、すいません、一番高いやつを!!」

「かしこまり~」


 俺が厨房に戻っていくと同時に「ぼったくりだ……」というつぶやきが聞こえたが、正解なのでほっとく。


 そう、ここは――


『ぼったくり冥土喫茶メイドきっさ一号店』


 これは流行るな。きっと。


「一番高いのから順に全部くれだって」


 俺は厨房にいき玉藻にオーダーを告げた。


「強ちゃん、接客上手! すごい!! いっぱい注文取ってくるね♪」

「まぁ、俺の手に掛かれば楽勝だ」


 幼馴染が笑顔で俺の功績を喜んでいた。おそらくこれが天職だろう。


 そしてアイツも天職を見つけたみたいだ。


「あの病んでるメイドさんをお願いします!」

「あぁ、はじめちゃんですね。はじめちゃんご指名よ~」

「は~い……ご主人様いま行きます……」


 お客様のいうとおり病んでますよ、その子。


「この病んでる感じが堪らない! オムライスにおまじないオプションお願いします!」


 それにしても変わった客もいたものだ。メンヘラ女装男子好きなんてアイツも罪深い変態だ。櫻井が席に着くとハァハァと息を荒げている。


 ピエロメイドは物凄く嫌そうな顔でおまじないを唱え始める。


『オムライス、おいしくな~れ♪』と可愛く唱えるのではなく、


「ご主人様は不幸になーれー、」


 凄まじいくらい感情がのっていない声。


 棒読みというかボーカロイドの音声みたい。


 さらに『萌え、萌え、キュン』ではなく、


「死ねー死ねークソ」


 暴言をはく。ゴミを見るような目ですさまじいくらいの嫌悪を感じる。


「最高だよ、はじめちゃん!」

「キタねぇ呼び方するな、デスゲームすんぞ」

「ゲームを追加でお願いします!」


 しかし、これがウケているのかヤンデレメイドピエロも一部のマニアのハートをがっちりつかんでいた。女装男子好きの変態に好かれる、変態ピエロ。


 それが櫻井。


 しばらく接客を頑張る俺たちの三人。忙しいせいかい時間はあっという間に過ぎていった。接客時間が終わり交代の番が来る。眼鏡優等生から指示が出る。


 そう指示を出すのだ。無口な奴が。


 俺は眼鏡優等生を半目で見ていた。


「…」


 聞こえない。口の動きも少ない。点の数も心なしか減ってきている。聞こえないのをいい事にコイツが先に諦めだした。おそらく出し物を決めてるときも口を動かしただけだな。


 声帯せいたいが活動を自粛している!?


 休憩でいいのかと聞き返すとコクと頷いたので、俺達はどこへ行くか話し合いひとまず接客着のまま学園祭で変わった校舎を歩いて見て回ることにした。


 三人で風船が飾られた廊下を歩いているとメイド櫻井が訳のわからんことをほざく。


「俺ちょっと野暮用があるから途中で抜けるわ」

「なんだよ用って?」

「お仕事だ」


 以前もこんなことがあったような……無職の癖に強がっちゃって。手に職がないことが不安に思えてしょうがないのだろう。正にニートのような野郎だ。


 よっ、ニートピエロ! 


「構わん」


 平静を保ち俺は眼鏡優等生を見習い、口数を少なく返してみた。


 学校内は保護者などで賑わっており、それぞれのクラスがありきたりなお店を展示している。玉藻はありきたりなものに目を奪われやすい。


「わぁあー」


 あっちこっちをキョロキョロしている、ミーハー巨乳。何がそんなに物珍しいのだろう。まぁ今年初めてみるマカダミアの学園祭だからか。


 回復の水喫茶。ナイトカフェ。魔法の館。


 バトルレストラン。炎術系ランチサーカスショー。


 どれもこれもありきたりな一般的な出店である。見る価値もない。


 ん?


 何か一つが俺の中で引っかかって櫻井を見る。


 ハッと分かったが故に育ての親のような眼でピエロを見つめた。


「どうしたそんな潤んだ瞳で俺を見つめて、強?」

「いや……遂にデビューだなと思って」


 そうか、サーカスか。それで用事があるんだな。


 そうだよな、そうだよな。遂にサーカスに呼ばれたのか。


「何デビューだよ……」

「ピエロデビュー」

「とっくのとうにもうしとるわ」


 いやだ……泣きそう。


 この子ったら本当に根っからのピエロなんだから全く!


 櫻井のインディーズデビューを心待ちにしながらグラウンドに出て、


 出店を回り、俺は焼きそばとたこ焼きを購入しベンチに座りひと休憩する。


「強ちゃん、どれいく? どこにいく?」


 横で目を輝かせてワクワク顔の玉藻。俺は割り箸を口にくわえ綺麗に二つに割る。櫻井はキョロキョロして「人の流れは?」ということをブツブツ呟いていた。行きたいところなんてひとつしか俺にはない。


「美咲ちゃんのクラスだけ行ければ、俺はどうでもいい」


 それ以外にやることがない。


「妹の活躍を見るのは兄の役目だからな」

「それいいね、強ちゃん!!」

「こう来るから……あそこでばらけば……」


 何故かベンチの俺たちに痛い視線が集まってる。


「なにあれ……」「ちょっと、あのメイドさん気合入りすぎじゃない」「両性類かな?」「なんだろう男の子みたいに見えるけど、顔キレイ」「けど、なんかちょっと雰囲気がおかしくない?」


 俺はその原因を見つめた。変態のせいである。変態ピエロ。


 ヤンデレメイド服高校生櫻井。


 こいつの順応性は高い。もはやメイド服を着ていることが当たり前の様に過ごしている。これが一流ピエロの証。恥ずかしいことなど何もない。羞恥心のかけらもない。


「じゃあ、美咲ちゃんのクラスに行くぞ」


 痛い視線から逃れるように俺達は美咲ちゃんのクラスを目指して歩き始める。


 目的の場所につくと、隣のクラスまで続くような大行列ができていた。


「美咲様がいるクラス♪」「美咲様がお出迎えとか胸アツだぜぇい」「あー、なでなでしてぇー!」「超絶可愛いからな、美咲さんは」「マカダミアが誇るロリ聖母マリアだからな」


 ところどころうちの妹の名前を呼ぶ声が聞こえたので、


「あん! うちの妹になんか用かッこらぁああ!」「スイマセン……なんでもないっす」「言ってたの僕等じゃなくてアイツらです……!」「アァン、お前かッ!」「ち、違います!!」「さてはお前だな!」「俺じゃないっす!」


 俺は右左縦横無尽に首を振りガンを飛ばして歩いていく。


「強ちゃん、大繁盛だね!!」

「すげぇ人だな~、なんだ? 何やればこんなに儲かるんだ?」


 ガンを飛ばしている俺の横で櫻井が商売に興味を持ち始めた、マズイ。お前の職業選択制限が発動する。お前がなれる職業はピエロ以外ありえない。


 俺は両手をポケットにしまい込み中腰で下からなめる様に


「ア――ンンッ!!」


 櫻井にもガンをつけた。


「強、なんか悪いことしたっけ? 俺……」


 悪いことしてるだろう!


「さっきまでのピエロ根性はどこやったんだッ!!」

「……なんか……すまん」


 教室から次々と客が呼ばれていく。出ていく客は満足そうな顔して出ていく。中々の回転率と顧客満足度がうかがえる。一体うちの妹君は何をやっているのか……まぁ美咲ちゃんが料理を作ろうものなら一流有名店を軽く凌ぐのは間違いない。


 もしそんな店が出来ようものなら、お兄ちゃん通いつめちゃうしッ!


「あっ、師匠! いらっしゃいませにゃん♪」


 そういうことを考えていたら俺たちの番が来た。


 ちんちくりんが元気よくお出迎えした。こいつはどうでもいい。メイド服の赤髪ポニーテールの上に猫耳カチューシャか。猫っぽい感じがしっくりくる。自由気ままで神出鬼没なところ。


 いつも気づくと呼んでないのに参加してくる感じが猫っぽい。


「……いらっしゃいませ」


 赤髪に失望している横からか細い恥ずかしがった声が耳をつく。


 ――なにこの声……


 なんて慎ましやかで澄んでいて透き通るような癒しのソプラノボイス。


 ――美しい……。


 聞きなれた声。


 ――耳がぴょんぴょんしちゃう!


「……にゃん」


 うちの妹がスカートの裾を掴んで恥ずかしそうに兄を出迎えた。


 猫耳メイド姿で!


 オウ シット!! ガッデム!!


 もはや心が崩壊しそうになる。


 正気を保つことが出来ない。可愛すぎてヤバイ。マジかわゆす!


 クレオパトラッシュゥウウウウウウウウウウウ!


「美咲ちゃん、良く似合ってる!! マジエンジェル!!」



 ちっちゃい黒猫を表すような衣装と体系。ほんのり黒い耳の中にピンクがあるのもよし。マジエンジェル。何これ。かわゆすですよ。かわゆすなー。もうほっぺが落ちちゃいそう。借りてきた猫の様に可愛い。


「お兄ちゃんきたの……恥ずかしいよ……」


 顔を真っ赤にして体を小刻みに揺らして恥ずかしがっている点も奥ゆかしさがあり花まる満点。やはり妹が世界一可愛い!


 美咲ちゃん、世界一きゃわわわわ!!


 赤いのなどどうでもいいッ!!


「よく似合ってるよ♪ 美咲ちゃん♪」

「ありがとう……玉藻ちゃん」


 恥ずかしそうに下を向いてスカートの裾をギュっとしていた妹だが、


「……かわいい」

「えっ!?」


 静かに呟いた変態を視界に捉えた。


「……えっ?」


 その風貌をマジマジと上から下に視線を移し見て顔色が変わっていく。


「櫻井先輩……なんですか、その恰好は!?」

「えっ?」

「変態だ! 変態さんがいるー!! アシャシャッシャ」


 赤髪は爆笑し腹を抱え笑い転げている。その反応が正解だろう。直視するにはあまりに痛すぎるピエロ。それが櫻井。櫻井も順応していたが一気に現実に引き戻されたようだ。


 奴隷ヤンデレメイド衣装を身にまとっていることに気が付いたようだ。


「俺、だってな――」


 櫻井がプルプル震えている。


「俺だってなぁあ――」


 尿意だろうか?





「好きでやってるわけじゃねぇんだぁああああ!!」


「あっ……」




 櫻井は涙を流し叫びながら走り去っていった。いつもアイツは学校では泣きながら消えていく。マカダミアキャッツのデフォルト設定に近くなってきている光景。


「櫻井先輩……」


 美咲ちゃんは片手を遠く離れていく櫻井の方に伸ばしたがその者は姿を消した。きっと『二フラム』と唱えたかったのだろう。大丈夫。唱える前に消えた。弱い存在は。櫻井が一緒に並んだ時間も無にしたがな。


MPエムピーの無駄遣いせずにすんだね♪」

「何を言ってるの……お兄ちゃん?」


 櫻井逃亡後に美咲ちゃんから案内してもらって俺と玉藻は席につき、紅茶とケーキを頂く。間違いなく妹の手料理の味であり一級品である。食べたものは皆笑顔になり満足して教室をあとにしていく。


「おいしいね、強ちゃん♪」

「当たり前だ……ふん!」


 汚らわしい。


「ぎゃぁあああああああああ! 目が目が!!」


 うちの妹を撮影しようとカメラ小僧がいたので、


 『あっちむいて死ね』でレンズを貫いてやった。



 美咲ちゃんの活躍を無事見届け終え、俺と玉藻は二人きりで学校内を回る。


「強ちゃん、次はどこにいく?」

「どこでもいいよ、もう」


 美咲ちゃんの手料理に満足し休みたかったが巨乳がそれを阻止して俺を連れまわしていた。仕方なく俺も学校内を歩き回る形である。そこらかしこでフォーチュンクッキーを持ったやつが目に付いた。


 どうもどこかでクッキーを配っているらしく、味は好評みたいだ。


 ただ、食べ終えたやつの表情は一変する。


 中の紙を見た瞬間顔が青ざめる。廊下には紙が落ちている。


『食べてしまったね。これは猛毒入りだよ❤ 解毒剤が欲しければ体育倉庫まで!』


 どこかで見たことがある字だ。うん。間違いない。


 これはピエロ文字。ハートマークが何よりそれっぽい。


 一部では『占いの館』という恐ろしいアトラクションが開始されていた。お互いの浮気を疑わぬカップルがその館に入った後、涙を流しヒロインが走りさっていく。その占い師は触るとすべての答えを見通す能力の使い手らしい。


 俺も知っている人物であろう。


 浮気以外のすべても暴かれる。


 カップルの仲を完膚なきまでに引き裂くという恐ろしい館――

 

『不幸の館』


 もう、人の不幸を願うアイツしかいない。


 数十分もつかどうか……


 オロチに見つかるのは時間の問題だろう。


「強ちゃん、これやろう!!」

「あん?」


 玉藻がある教室で足を止めた。


 俺は看板を見た。『お化け屋敷』。


 秋だぜ、秋なのにだ、なんだ、このチョイスは。


 季節外れだし、よよ良くない、良くないよ。


 こ、こ、こんな子供騙し。ちょいと、汗をかいてきたぜ!


「もしかして怖いの?」


 純粋な眼が俺を試す。くりくりとした瞳で人をみちゃいけません!


「怖くなんてあるか!」


 俺が、お、お、お化けなんて非科学的なもの信じるわけがないだろう。


 下から覗き込んでくる玉藻に答えを返すと笑顔になり、


「じゃあ出発進行!!」

「ちょ、ちょ!!」


 俺は無理矢理巨乳に手を掴まれ薄暗い教室の中を歩く。


 中は暗幕が囲われており外の光が一切入り込んでこない。


「く、暗すぎだろう!!」


 暗闇の中を転ばない様に恐る恐る進んでいく。足元が良く見えないし、視界が悪い。おまけに何か空気が籠っていたこんにゃくクサイ。俺は鼻を顰めて眼に力を入れる。足元をそっとだしていく。あくまで転ばない様にだ。


 決して怖いとかそういうのではない!


「怖いな♪ 強ちゃん♪」


 全然、お声が楽しそうなんですけど!!


 楽しげな声で俺に抱き着く巨乳。暗闇おっぱいの感触に周りの雰囲気のせいで集中できない。ちょっと暗所恐怖症の俺にはこれはきつい。早くでたい。


 というか出せ!!


「べろべろば~」


 そう思った瞬間、俺の前に何かが立ちふさがった。


「ぎゃああああああああああああああ!!」


 身にかかる火の粉に俺は自己防衛機能を発動し、


「悪霊」


 拳を繰り出す。


「退散!!」

「ぶばぁるううううううう!!」


 何かを殴った感触と振動がある。コンクリートが消し飛んでいる。壁に人型の穴が開き光が差し込んでいた。やっと明るくなった。出口という看板がハッキリ見えるぜ。


「強ちゃん、出口が見えるね!」

「あぁ、あそこが出口だ」


 これで平和だ。何か人をぶっ飛ばした気がしたがきっと気のせいだろう。


 霊体を殴れるのであれば、俺にはがあるということか。


 俺は


 突然のポルターガイスト現象でも起きたのだろう。


 俺と玉藻は明るい教室を出口に向かって歩いて行った。



 こうして学園祭は幕を閉じたのだった。


 余談だが、ピエロは無事に悪行が暴かれ懲罰房へ連れていかれ、学園祭の途中からピエロの姿を見たものは誰一人としていなかった。



≪つづく≫



====================================

『不幸の館』は・・・・・・いずれサイドエピソードで語られます。お楽しみに

====================================



≪つづく≫

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