4.デットエンドの類友ピエロは、どれだけ傷ついても立ち上がる!
第12話 死ぬための仕事はまっぴらゴメンです
ピエロの朝は早い。
「朝か……」
彼は五時には目を覚まし冷蔵庫から作っておいたプロテインを取り出し飲み干す。部屋にはシンプルに机とソファーが置かれている。机上には分厚い
「行くか」
流し場に空のボトルを置き彼はトレーニングウェアに着替え外の世界に旅立つ。フードを被って顔を隠しながら外の世界を息を切らしながら走る。
誰もいない道を一人で駆け抜けていく。
彼の頭にはどこのルートを
ピエロは息を切らしてひた走る。
己が体を痛めつける為に。
「ふぅー」
100キロ程度のランニングをこなし部屋に戻りシャワーを浴びる。前髪が水の重さに耐えきれず目元に届く。静かに佇めば誰もがうらやむ
ブラウンの綺麗な目。
水晶のように輝き黒というよりは茶色に近い目。
鼻立ちも整っており、顔立ちがハッキリ整っている。周りの高校生と比べて大人びた雰囲気も持つ。
誰よりも数々の修羅場をくぐり抜けてきたが故に精神が成長している。
「………………」
一人で家にいるときの櫻井は学校生活からは想像がつかないほど大人しい。
「………………」
もの静かに黙々と体を洗っていく。髪は露を帯び綺麗に輝く。
浴室から出ると下だけ
「ふぃー……」
頭の水分をバスタオルで拭きとりながら、ソファーに腰かけテレビをつけた。
『本日の天気はくもりのち晴れ。お出掛けるされるには絶好の日和となりました。どうぞ皆さま良き休日をお過ごしください!』
テレビから朝の始まりだと言わんばかりに元気なキャスターの声が聞こえてくる。テレビを見ながら彼はバスタオルをぶら下げ首にダンベルを両手に取る。
体を鍛えるためにダンベルを掲げる。
何度も振りかざしては振り下ろし己が筋肉を
「三百五十五……三百五十六――」
数を数えながら繰り返し繰り返し。
ただ黙々と痛みを求めるように。
それが終わるとトレーニングウェア一式を袋に詰めた。
外用の服に着替えバッグを持ってある場所へと出かける。
自分の罪を忘れるようにひたすら体を苛め抜くために――
◆ ◆ ◆ ◆
男二人の息遣いが交差する。
俺は都内某所にある地下施設で銀髪の男とトレーニングに励む。
そこは学園対抗戦用リングのモデルケースとして作られた場所。シェルターみたいな部屋の中に、白い岩石を加工したタイルが敷かれている。タイルには特殊な力が付与されている。
その中央で拳を交えあう。
男の打撃を身を
男の下段蹴りを小さく飛び越え、右手で触れようとするがはじかれる。
その瞬間に――
【左フック】
俺は次の攻撃の情報を得る。
相手が狙ってくるのは着地と同時に右上段への左フック。
俺はガードし、触れた先からさらに先の情報を読み込む。
【右のジャブ、そして動きを止めたところを左のハイキック】
ガードをしながら情報を読み取っていく。脳内に一瞬で相手のイメージが流れ込んでくる。それを正確に捉え情報を得る為に攻撃を受ける。
触れればわかる――
それが俺の能力だから。
「うまい、うまい♪」
激しいスピードの戦闘でも男は余裕の笑みを浮かべ笑いながら、俺に攻撃を続ける。横に移動するような足運びで攻撃を交わしながら入れかわるように攻撃をし返す。
「そりゃどうもです」
何の気なしの返事を返しながら、
「これはどうかな?」
俺はその男に
相手は現ブラックユーモラスのリーダ。
『
戦闘ランクでいえば間違いなくトリプルS。
強とだって、オロチとだって、引けをとらない。
この人を俺如きが相手にするのは骨が折れる。
三回攻撃を受けては一回返すのがやっとだ。
おまけにそれはガードされることもなく避けられることがほとんど。
「やば――ッ!」
余計な思考による一瞬の対応の遅れ――
「ボゥッ――!」
呼吸が止まる。
男は蹴り足を上げたまま、
「ごめん……やりすぎた?」
俺に心配そうに語り掛ける。
俺はわき腹を手で抑えながら痛みの軽減をはかって、
「ダイジョブ……っす!」
歯を食いしばり強がりを返す。
――超痛い……マジ痛い、糞イタィイイ!!
あくまでも強がりは強がりでしかない。蹴られた箇所が火を上げるようにヒリヒリとしている。内部にずしんと響いて消えない鈍痛。内臓が悲鳴を上げてギュルギュルと泣いている。
モロにリバーに突き刺さるようなナイスミドル!
転がった態勢のままでいる俺にその男は優しく笑いかけてから、
「今日はここまでにしよっか」
隣の地べたに座り、水が入ったペットボトルを差し出してきた。
「はい」
俺はそれを受け取り、
「どうもっす………」
キャップを勢いよく外して水分を補充する。
ゴクゴクと一気に流しこんでいく。疲れた体に水が染みわたる。
あぁ生き返る。そういえば、朝プロテイン飲んだきりだった。
ペットボトルを勢いよくへこまし音を出しながら水を飲み込む俺を見守るような優しい目。俺を見ながら、その男は話しかけてきた。
「はじめ、大分戦いがうまくなってきたね」
社交辞令のように褒められる。
「次の攻撃を予測して良く対処できてる」
「限界は……ありますけどね」
だが、それを真に受けることもない。俺の能力は便利なものではない。鈴木さんは羨んでいたが回復魔法のほうがよっぽど戦闘に於いて有用だ。個人で戦いながら回復も出来たら戦闘の幅が広がる。
とっかえて欲しいぐらいなもの。
自分で自分のダメージを回復できる方がまだいい。
俺のは思考を読むだけ。それしか出来ない。
おまけに高速戦闘中に余計な思考が流れ込むのを処理しなければならない。
自分の考えを固めてる最中にいきなり声が割り込んでくるのが意外とキツイ。それに別に先を読んでるという代物でもない。未来予知であればレア度が高いが、考えを読むというのはあくまで次の行動への対処でしかない。
おまけに触れなければいけないという条件付き。
だからこそ、出来ることは攻撃されてからその次に準備することが精々だ。俺の持つ《心読術》は戦闘と言う意味において、どちらかというと、大分使いづらい部類の能力に当たる。
「今ぐらいの実力なら学園対抗戦にでれば優勝できるかもよ」
「対抗戦でないっすよ。俺」
「えっ!!」
男は驚いた顔で俺を見つめた。言わんとしてることが分からないわけでもない。俺の戦闘ランクはシングルS。別に先日の発言は出たかったわけでもない。
オロチと強のやり取りに割り込んだのは一触即発の空気を変えるためでしかなかった。
まぁ俺の実力的に普通にやれば、強に次いであの学園では2位には入れるだろう。しかし、俺は監視と言う仕事の都合上大っぴらに力を使うことを止めている。
強すぎると在らぬ疑いをもたれる可能性が上がることを懸念してだ。
だからこそ、学園対抗戦などという大行事にでるつもりなど皆無なのである。
「もったいないよ……はじめなら文句ないのに」
それなのに雇い主は口を尖らせて残念そうな声で話し続けた。
「いつでもブラックユーモラスは歓迎するよ。はじめの入隊を」
ブラックユーモラスとか異世界転生者の頂点に近い。そんな大それたものを求めてなどいない。だから俺は困ったように返す。
「勘弁して下さい。俺のこれは明日食うための仕事です」
俺の仕事は違う。俺の仕事は魔物と戦うことではない。
涼宮強を監視するという立場だ。
「死ぬための仕事はまっぴらゴメンです」
「死ぬのはごめんか……」
男は何かを思い出したように静かに笑い優しい目で見つめていた。
俺もそれに微笑んで返す。
《つづく》
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