第2話 デットエンドだ

 妹との楽しい朝食のひと時が終わってしまった。


 この世で一番美しくも尊い兄妹の愛情に勝るものはないと胸に刻んで


 学校へ向かおうと、


 玄関をあけると――。


「美咲ちゃん、強ちゃん」


 間の抜けたアホな声が俺たちを出迎えた。


「おっはよう~♪」


 満面の笑みを浮かべた苦手なやつ。あっけらかんとニコニコしている。


「玉藻ちゃん、おはよう♪」


 久々の再会にも関わらず何もなかったかのように接してくるコイツは


 鈴木玉藻すずきたまも。俺の幼馴染だ。


 一年と二ヵ月会うことがなかった、幼馴染。


「玉藻……おはよう……」


 普通は一年二ヵ月も会わなかったのだから何か一言あってもいいと思う。土産で菓子折りの一つぐらい持参しても問題ない。手ぶらで「おはよう」とか世間知らずも華々しい。頭お花畑である。


 ちなみに手ぶらと言ってもブラジャーの方ではない勘違いするな。


 そんな夢のようなシチュエーションは存在してはいけない。


 人の家の玄関で手ブラとか幼馴染が逮捕される事案である。


 ちゃんと制服を着ている。腰まである青がかった黒髪ロングで目はデカい。肉付きのいい太もも。そして、胸もでかい。おそらくEカップぐらいではなかろうか。


 まぁ、やはり男としてはCカップあたりが一番好みとなるであろう。デカすぎても嫌だしちょうどいいくらいの大きさも欲しい。それに胸がデカすぎるのも問題が多い。


 肩が凝るとか揺れて催眠術をかけてくるとか。


「どうしたの、強ちゃん? 何か考えごと?」


 幼馴染が俺の顔を下から覗くように腰を下げるとたわわな果実がふるんと揺れた。俺は刺激の強さに眼を強く瞑る。


 男を前かがみにする催眠術――巨乳催眠きょにゅうさいみん


 大きなおっぱいを前に男は降伏こうふくの敬礼をしならければならない。


 これは『幸福こうふくの敬礼』と呼ばれるものだ。


 幸福の敬礼とは上半身と下半身が120~150度の角度を作る体勢のこと。男性諸君ならわかるだろうが、授業中寝て起きたときに終業の挨拶するときの角度である。女性諸君は授業中寝て起きた男子を注視してくれればわかると思う。


 おっぱいのせいで話がれた。本筋に戻そう。


「何か、私についてる?」


 大きなおっぱいが二つもついてるよッ!


 動くたびに揺れて発揮される催眠効果。危うく敬礼を余儀なくされる一歩手前。


 俺がこいつを苦手とする最たるところはとにかく元気で明るい。人を振り回す性格の主たるものである。オッパイをも振り回す無邪気な明るさというのは人として、一番迷惑をかける性格。


 ただ、人様の迷惑など自覚しない。


 だって、無邪気なのだから。


 無なのだから。


 悪気や悪意など一ミリもないのだから。頭がからっぽなのだから。


「二人とも学校へ行こう♪」


 だから、まともに相手をしてもしょうがない。


 仕方なく玉藻の楽しそうな声を機に一同学校へ歩き出す。


 コンクリート塀から顔をだす紫陽花あじさいを目に捉えながら、閑静かんせいな住宅街の通学路を通り抜けていく。雨が降らない六月の陽気は春の陽気に近く蝶々が楽しそうに飛んでいる。


「そうなんだねー」「そうなんですよ!」


 久々の幼馴染との再会で楽しそうに花を咲かせる美咲ちゃん。玉藻もニコニコと微笑んで適当な相槌を打っている。そんな玉藻の少し後ろを歩き、無言で俺は晴れた空を見上げる。


「今はそういうこともあるんだね」「そういうこともあります!」


 ――雲ひとつない青空、あぁ平和だ。


 行きたくないとか嫌だとか思っていてもその時間は必ずやってくる。


「これとかって、どうなってるの?」「これはこうなってるんですよ!」


 ――こんな平和な日は学校に行きたくない……俺は普通じゃないから……。


 端的に言えば、俺は学校が嫌いだ。何が楽しくて春の陽気溢れるこの気持ちのいい日に学校などという社会の縮図に赴くのか。


 春はあけぼの、夏は武蔵丸むさしまる


 秋は小錦こにしき冬白鵬はくほう


 有名な誰かが書物を書いてたはずだ。


「玉藻ちゃんの行った場所はどうだったの?」

「なんか緑がいっぱいなところでスゴイ綺麗な滝とかがあってね!」

「えぇー、いいなー!」

「透き通ったエメラルドグリーンの海とかもあったの!」

「私もそういうところに行きたかったです!」


 春は曙だから休んでハワイに行けよってことだよ。たしか、むらさきジュゴンというペンネームの女だったかな? いかにもハワイとか好きそうな名前だ。あれ、清少ちちぶだっけか?


「……着いてしまったか」


 俺が憂鬱な気持ちのまま歩いていたら学校に着いてしまった。


「お兄ちゃん、只でさえ馬鹿なんだから、しっかり授業を受けてね!」


 ——バカとか……ひどい。


 俺はこの高校生活に多大なる不快感を抱えている。


 けして、バカだからとかじゃない。


 理由はもっと他にある。

 

 玉藻は職員室に挨拶があるとかでいなくなり、俺一人で廊下を歩き教室に入っていく。教室はどこぞの劇団の楽屋のように剣とか槍とかが教室の端においてある。粗末に布で包まれた危険な小道具。


 学校指定の制服を着ているが小道具持参がOKな学校。


 さらに集団の塊がある。スクールカースト制度とか言うやつだ。


 日本語で言えばいいのに、教室奴隷制度きょうしつどれいせいどと。


 オブラートに包みながら本質を隠している邪な言葉。奴隷制度は世界的に禁止されてるはずなのに人間はいつの時代も変わらない。人間、上下関係大好き!


 要は集団がボッチをイジメてもいいよねという悪しき風習。


 だって、お前ボッチだろ的なノリの制度。あとはリア充が貴族みたいな感じで平民たちに「うぃーす」とか、「おぃーす」とかちょっかいを出せるみたいな感じだろうか。『おはようございます』すら、まともに言えない人間に明日を生きる価値はない。


 しかしながら、リア充の前に並ぶ大小さまざまなおっぱい。


 やつらは特権階級の貴族さながら特等席の最前列でパイオツを見れる権利がある。高校生なのに卑猥な連中だ。まるで売春宿の巣窟のような陽キャの固まり。横目で見て通り過ぎるが、けして羨ましいとか妬ましいとかそういう感情はない。


 だって、この学校の奴隷制度は俺という人間によって


 一度は粉々に破壊されているのだから。


 まぁ学校なんてくだらない社会のミニチュア版みたいなやつに他ならない。


 だから楽しくもなんともないのだ。社会に出た大人を見てればわかる。皆くたびれた顔をしている。生きるの辛い、お仕事辛い、と悲愴な面に出ている。


 それが大人の階段を昇るということなのだろうか。


 シンデレラの魔法がきれる人生の十二時には、コッチが死んでれらってことか?


「ハァ……つまらん」


 怠そうに俺が窓際の席に着席し『何故、俺はこの学校へ来てしまったのか?』と憂鬱に飲み込まれながらため息をこぼしていると、


「もう俺はダメだ、耐えられないっ……!」


 廊下側の席から独り身の男が、絶望の表情で歩み寄ってきた。


「この教室、この空気に、この歪んだ世界に……っっ」


 俺と同じように絶望を抱えている普通じゃない人物。


「櫻井、お前がいろいろ大変だったのはわかる……」

「あの過酷なを生き残ったのになんで、俺だけッ!!」


 人の机を激しく拳で何度も叩き落ち込む男。


 はた迷惑なその男を優しい目で見つめ、


「よく頑張ったな。俺はお前を尊敬する……」


 そっと肩を叩き慰めてやった。


「クッソォオオオオオオッ!!」


 この男の名は、櫻井さくらいはじめ。


 俺には劣るがまぁまぁイケメン。身長178㎝体重58キロ。男性の理想形にも近いフォルムを持ち髪型は茶髪でウルフカット。足がすらっと長く顔立ちも整っている。どことなく清潔感もあるのだが、残念なことに悲壮感がぬぐい切れない男。


 要約すると愉快な男である。


 ただ俺は櫻井を尊敬してる。


 唯一コイツだけはこのクラスで認めている。こんなに不幸なやつは中々いない。

 

 哀れな男と書いて――櫻井。


 けど、哀れだろうが同情はしない。俺はお前を見ていると救われるんだ。お前が泣き言を零すと笑いが零れるんだ。自分より不幸な奴を目の当たりにすると人は幸せな気分になる。


 人の不幸は蜜の味――世の常識。


 そして、櫻井に期待することはいつも一つ!


 さぁ、俺の前で今日もピエロを演じてくれ、親友。お前の不幸によって俺の食事が進む!


「お前ら全員席につけ~」

「……」


 いいところで壇上の男の声が教室に響いた。それを機に生徒達は自席にすぐに戻っていった。櫻井もしょうがねぇと悪態をついて素に戻って帰っていった。


 櫻井とのたわむれを遮るように、


「連絡事項を伝えていく」


 朝一発目のチャイムが鳴りホームルームが始まる。


 壇上にたって朝の朝礼を始める担任教師。教師というにはあまりに不似合いな男。左目に黒い眼帯をして出席簿を片手に気だるそうに頭をかいてる。


 ボサボサの髪、ワイシャツの第二ボタンまで全開、片目に眼帯。


「うちのクラスに転入生がくる、みんな仲良くやれよ」


 隻眼せきがんの担任――山田やまだのオロチ。


 いけ好かないヤツ。


 コイツについては後日説明をしよう。


 理由は俺がコイツを嫌いだから。


「それじゃあ、出席取るぞ~」


 中年オヤジのホームルームなどという退屈な行事に興味はなく俺は暇つぶしにクラスを見渡す。クラスには金髪ドリルツインテールの巨乳やキモオタのデブ。無口な眼鏡美女優等生、金髪高身長のイケメン野郎、半身が機械でできたやつ。


 多種多様な様々なやつがいる。アニメやファンタジーびっくり顔負けの教室。


 しかし、俺より『普通』なやつら。


 おまけに教室内ではカップリングが決まっており、男と女は『90%』が彼氏彼女の関係だ。キモオタに至ってはかわいい女の子に囲まれて日々ハーレムをしている始末。そいつは「でゅふふふ」って笑うんだぞ……俺から見れば超キモイんですけど!!


 なんでアレがいいのッ!?


 理由はわかってる。そうだ、あいつらは


 俺にはない体験をしてきたんだ。


 だからモテるんだ……。


 そんなことを考えていたら、俺の目から一筋の塩水がこぼれ出る。


 頬を冷たいものが流れ落ちていく。


 ――今日は晴れているのに俺のところだけ雨か……


「強ちゃん♪」

「なんだ……玉藻?」


 いつの間にかホームルームが終わっており、泣いている俺に近づき無邪気な笑顔を浮かべている玉藻。無邪気な子供のように大きな目をくりくりさせ、満面の華でも咲いたかのような笑顔。


「もしかして!」


 あと、おっぱいでかい。


「泣いてるの……大丈夫?」


 見つめ合いながら静寂の時間が流れた。


「強ちゃん、まさか――」


 そうだよな……玉藻……小さい時から一緒にいたんだもんな……お前は泣いてる俺を心配して慰めてくれるんだよな?


「いつのまにそんな高等テクを!?」

 

 何が高等なの?


「演技が上達したんだね!」


 淡い期待は露と消える。俺の涙は無意味に流れる。この女に期待したのが間違いだった。この女は俺の苦手な奴だった。本当にうれしそうにヤツは夢物語を語る。


「涙を流せたら一流の役者になれるよッ! 強ちゃんの学芸会の岩とか本当に岩にしか見えなかったし、才能が溢れ出しちゃったんだね! さすが強ちゃん!」


 こいつのこういうところが苦手なんだッ!!


 涙流すだけでいいなら目薬だけで一流の役者になれるわ!


「レッドカーペットを日本人で初めて歩くのは強ちゃんしかいない!」


 どうしていつも空気を読まない、コイツ! おまけにレッドカーペットは日本人初じゃねぇからッ!! もう歩いてる奴がいるからぁああ!


「アカデミー賞、受賞待ったなしだねっ! ハリウッドデビューも間近!」


 自然と涙が止まった。怒りで体が震える。


 このKYどうにかならないかなッ!?


 俺が泣いているのに笑顔で、この――ッッ


「善は急げだから、今度ハリウッドの応募用紙を貰ってくるよ!!」


 空気を読めない天然幼馴染に思わず、


 俺は心の中で力いっぱい咆哮した。



ほん泣きだぁああああああ!!」



 腐れ中古ビッチがぁぁあああああああ!!



 気がつけば思わず心ではなく口でも叫んでいた。無邪気おそるべし。そのせいで俺の大声に教室中の生徒達が肩をビクっと震わせた。いつも静かな俺が叫んだのだから無理もないことなので、しょうがない。



 しかし、それだけで事件は


 終わらなかった――



 

「玉藻ちゃん、今日こそいいかな?」

「えっ……」

「世界を救う旅も終わったことだし、」



 一方的なイジメを受けていた俺の元に


 玉藻を腐れビッチに


「僕の彼女になるOKの返事を聞かせて欲しいのだけれど」


 変えた元凶が現れた。


 何がOKの返事だ。決まりきった質問をするな。返事がOKしか言えないのはガッツ石松くらいだ。アイツでも牧場がついてくる。


「それはあの~、えっと……」


 ビジュアル系の最先端を走っているような男が玉藻に話しかけている。金髪で制服がラメでも塗ったかのようにキラキラしている。同じ制服なのに輝きが違うというのはどういうことなのだろう?


「なんというか……」


 何かが違うそいつは櫻井とは対称の存在。


「玉藻ちゃん!!」

「ハイッ! いや……その……」


 親友の反対は――悪党あくとうである。


 玉藻を問い詰め急かすような声を出す。発狂するビジュアル系に玉藻は恥ずかしそうにしている。公衆の面前で公開告白とか痛すぎるだろう。


 周り見てみろよ。


 みんな、こっち見てんだろう。


 ささ邪魔者は退散だ。


「えっと……」

「玉藻ちゃん!」

「ハイ……なんと言いますか……」


 ここは俺の席だから、


 お前らがどこかけよな!


 二人でランデブーに出かけず、俺に見せつけるように玉藻はビジュアル系の方を向いてモジモジしている。両手でゴマでもする様にアライグマの如き動きでモミモミしている。


 あぁわかってるよ、玉藻。


 お前はそいつと楽しいラブラブライフを過ごしたんだよな、去年1年間も。


「玉藻ちゃん!」


 正確に言うと1年2か月だ。知ってるよ、俺は。


「強ちゃん、どうしよう!?」


 俺の机に勢いよくバンと両手を叩きつけてきた。ビジュアル系に答えを言わず、玉藻が素早く振り向いた。今日、俺の机は良く叩かれる。きっと、机くんは今日一番のアンラッキーな星座だったに違いない。


 何もしていないのに人様からよう叩かれる、俺と同じ星座か?


「あのな……玉藻……」


 俺は困り顔の玉藻を困り顔で見返す。


「強ちゃん……」


 不安げな表情を浮かべ見つめてくる幼馴染。居た堪れない俺は静かに視線を逸らした。クラス中のやつらが俺に注目しているのもなんかイタイ。いきなりの無茶ぶり。巻き込まれ事故。


 それに困るんですよ。


 俺に聞かれても……困るんだよ、玉藻ちゃん。貴方の未来なのよ。人にゆだねてはいけません。部外者である俺を巻き込まないでくれ!


 それにさっきまでモジモジしていただろう?





 それが答えだろ。俺の答えは『沈黙ちんもく』だ。





「涼宮君、ちょっとぉ、アッチでいいかな~ッ?」


 突如ビジュアル系が歯に物が詰まったような物言いで何故か睨らんでくる。顔を拝むとこめかみ辺りに十字の血管が浮かび上がりピクピクと痙攣している。器用なやつだ。


 それにアッチってどこだよ?


 なんで俺が自席から動かなきゃいけないの?


 お前ら二人の問題だろうがよッ!


 やるせないため息を吐いた後で、俺は相手の顔に目を見開き俺が出した答えを、ハッキリ告げる。口を出来るだけ大げさに動かして意志をこれでもかと睨んでくる畜生に見せつける。


「イィ、ヤァ、だア!!」


 それが癪にさわったのか俺の答えに応じて


「玉藻ちゃンッッ!」


 ビジュアル系は俺を激しく指さしながら、


「こんな魔法も使えなくて世界も救えない男と付き合うのはやめた方がいい! そもそもこの男がナァーゼェこの学校にいるのかも不明だ!」


 玉藻に向かって真実を語った。また教室でクラスメートがビクっとなった。見慣れない二人組が俺に絡んでいるのが怖いのだろう。ヒソヒソとこちらを見ながら話している。


 しかしヤツのいう通りだ。ほぼ納得。


 魔法も使えんし世界も救えん。


 ただし人のことを指さす奴はどうかと思う……教育がなっていない。


 ——そういうことかッ!?


 そこで俺は重要なことに気づいた。このビジュアルと態度を見落とすところだった。メガネキャラだったら思わずクイっとしちゃうよ。


 挨拶が出来ないビジュアル系。


 はは~ん、さては小奴こやつリア充だな?


 朝の挨拶が出来ない系の人種ですね!


「不審者みたいな男だ。凶悪な面をしているし、オマケに息も臭い!!」

「なっ!」


 俺は驚きに包まれた。教育どころの騒ぎではなかった。


 一旦、手を口元にあて息を遮って嗅いでみる。


 うん、臭くない!


 俺は事実確認をしてからそのビジュアル系を睨みつける。


 やろう……ッ!


 ビジュアル系の歌詞に使えないような汚い言葉吐きましたよね。実はビジュアル系ラッパーっていう新しい人種なの。俺をdisディスってきてますよね、完全に? だって、オレ口臭臭くないし!!


 自己防衛機能を発動しなければ。


 有事の際には防衛を持って対応するのが日本国の習わしだ。あぁ平和主義のこの俺様になんてことを。これは宣戦布告でよろしいですよね? 


 はい、承りました。


 防衛機能が発動し、俺は気だるい気持ちを抱え席を立ちあがる。またクラス一同がビクっと肩を震わせる。玉藻は立ち上がった俺とビジュアル系の間でオロオロと困っていた。


「玉藻――」


 関係者には状況説明しないと可哀かわいそうなので一言残しとくか。優しい俺は玉藻の左肩を右手で引いてやり分かりやすい状況説明を入れることにした。


「ちょっと、彼と連れションに行って歯磨きしてくる」


 二人で場所を変えて話し合わねばならぬ。戦争を始める前に確認をしなければ。


「何か俺を誤解しているみたいだ、彼は」

「うん♪ 仲直り頑張って、強ちゃん!」


 相変わらず無邪気に間違えてやがる……そもそも喧嘩にもならないし。まぁいっか。見当違いに応援してくる玉藻をほって置くとしよう。


 俺はビジュアル系の肩に自然と腕を回し、


「行こうかビジュアル系……アッ!?」


 親友の様に教室から連れ出すことにしたが、ふと思い出したように俺は語る。


「近くで話すと口臭いからごめんね~。あとで薬用石鹸せっけんミューズで歯磨きするから、確認よろしく!」


 最後の


「それまでは許して――ッ!!」


 『ねェッ!!』で俺の口角は憎しみで吊り上がってしまった。


 その表情を見逃さなかった親友の櫻井は、





「デッエンドだ……」





 頬杖ほおづえをつきながらひと言ぽつりと呟いた。



≪つづく≫

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