第3話 とんでもねぇチートだな、オイ!

「ここらへんでいいだろう」 


 誰もいない校舎裏に連れ出し、


「離れろ、ビジュアル系」


 連れション相手の掴んでいた肩を押しやって距離をとった。肩を押された反動でヤツは後ろによろめきながらも俺を強い目つきで見据えてきた。


「君がいるから玉藻ちゃんが僕と付き合えない!」


 何か俺に恨みでもあるかのように強い眼差しを向けている。


「邪魔な存在だ、君は!!」

「ん?」


 コイツは何を言ってるんだ? 


 そもそもお前と玉藻アイツは、


 主人公ヒーローヒロインの関係だろう。


 主人公と嫁は結ばれる関係にある。


 おまけに異世界で一年という時を一緒に過ごしたんだ。そして異世界を救って帰ってきた。俺が行きたいと望んでる異世界にコイツは行っている。


 やつらは街頭インタビューでいう。


「異世界転生はどうでした?」と聞かれたら誰もが口をそろえる。


『女神さまからいきなりチート貰ったので楽勝ですよ。魔王とかもチートでイチコロです。おまけにモテモテですからね! 異世界サイコ―、ひゃっほー!!』


 羨ましい。おまけに隣には美女が必ずいる。


 それが奴らの彼女だったり嫁だったり、


 ヒロインと呼ばれる存在。


 異世界転生で見つけてきたヒロイン。


 必ずしも主人公はイケメンではない。


 むしろオタク系のヤツの方が手に負えない始末。

 

『だいたい最初に貰ったスキルとチートでどうにでもなりますね。数字がゼロだったりしたら表示できる限界超えてるだけとか、細かいルールさえ覚えちゃえば楽勝ですよ。ゲーム攻略に近いものがありますけど、初期レベルが99みたいなもんですから。魔王とかマジゴミ扱いです』

『サイト様、早くしないと初回限定生産が売り切れてしまいますよ!』

『サイト、早くいくわよー!』


 そういうヤツに限ってハーレム状態で様々な女を連れている始末、羨ましい。


 羨ましいと何度も言うが、この世界ではほとんどのやつが異世界に行っている。


 どいつもこいつも異世界経験済。


 魔法や剣にチート武器、ロボ、様々な能力を得て、おまけにヒロイン付きでこの世界に帰ってきている。この学校はそんな異世界転生エリート達が関東からかき集められた学校。


 マカダミアキャッツ高校。


 武器とかの小道具及び時代を先取りした最先端な高道具こうどうぐまで持ち込みOKな学校。なぜ無能力で異世界童貞である俺が呼ばれたかはいまだに不明である。


 むしろ俺の方が世界で、


 『普通』じゃない扱いを受けている。


「――――決着をつけよう」


 ビジュアル系が右手を横に伸ばすと、何もない所に丸型のブラックホールのような異空間が突如現れた。黒い渦に手を伸ばし引き抜くと赤く輝く金属。どうやら小道具≪ソード≫を取り出し、狂気の笑顔で俺に視線を向けている。


 どこでも四次元ポケットか……そんなチートいいなー。


 俺の住んでる時代はドラエモ〇の一歩前まで来ているのかもしれない。


 いや、追い越しているかも。腹にカッコ悪いポッケ要らないから。あれはポシェットでいいのではと思うのは俺だけではないはず。


 羨望せんぼうの眼差しを送る俺に腰を落とし剣の尖った先っぽが向けられた。


 うおっ、眩しい!


 ピカピカに磨き上げられた剣は光を反射し、油断していた俺に目つぶし攻撃をしてくる。俺は閉じそうになるまぶたこらえた。


「武器は出さなくていいのかい?」


 薄眼から見える相手は両手で剣を構え俺に向けて突っ立っている。


 常識がわからなくなってくる……オ~イ、刃物は人に向けちゃいけないんだよ。子供の時にお父さんお母さんに習ったはずだぞ。


「武器など誰が使うかッ!!」


 異世界ではそれがOKなのッ!?


「OK、ここで君を倒すよ!」


 OKじゃねぇッッ!!


 どうやら俺は魔物認定されたらしい。


 小奴は世界を救ってきたはずなのにっ……


 俺を悪党認定するなんて……


「だぁああああああああ!!」


 まったく――



「めんどくせぇぇえええ!!」



 ヒドイ悪党ダァアアアアアアアアアッ!!



 俺はこみ上げてくる気持ちを腹から出した。



魔装まそうォオオォオオオオオ!」



 俺に呼応するように同じく叫ぶと同時に、ビジュアル系っぽく輝かしい金色の光に包まれどこからともなく出現した鎧を身に纏った。何かの変身をするようだ。やつの隠された変身が解き放たれた。


「な、に……魔装だとッ!」


 またピカピカしている目に優しくない装備を。


 光ものフル装備。驚愕に体が震える。


 なんてやつだ信じられんッ!


 どこまで重装備なんだ。俺は生身なまみなのに、


 なんだよ剣とか鎧とかって……


 勘弁してくれ。生身の一般人相手に武装しすぎだろ!



 しかも≪魔装≫ってなんだよ……



 いいなー、俺もやりたいッ! 



 唇を噛みしめてうらやましがるのにも訳がある。俺には何の能力もない。この世界は能力を持ってるやつが普通で、無能力な俺はかわいそうな存在で普通じゃない。


 そうだし、


 魔法も使えないかわいそうな男が、


 俺こと、涼宮強すずみやきょうである。


「これで君も終わりだ! 僕の聖剣レイヴァテインは世界をまるごと焼き尽くすという究極の武器!! そしてこの鎧は勇者だけに許された、全ての魔法攻撃と物理攻撃を無効にするアルテミスの鎧!!」

「なんだと……ッ!」


 聞き捨てならないんだけど……とんでもねぇチートだな、オイ!


 世界をまるごと焼いちゃう?


 そんなもので使って、大丈夫なのかッ!?


 動揺する俺に相手は準備万端になった喜びでテンションマックス。爽やかに金髪を揺らして殺しきれない笑みを浮かべている。自分の絶対的自信を誇示するように。


 この自信に満ちた感じはやはりリア充だったのか、コヤツ!?


「この僕が本気になったんだ、君の体は五体満足ではいられないだろうね。一瞬で勝負をつけさしてもらうよ!!」


 五体満足で帰してくれ……というか、発言がヤバイ。手足折るとかのレベルより上とは。俺の手足を切りちょんぱする気や。


 常人の発想ではない!


 しかし、コイツはリア充だった……。


 ボッチ相手に容赦ない感じもリア充感満載。ヤル気満々過ぎて、もうなんだよ、めんどくせぇと思う。ビジュアル系のくせに熱血とか良くないぞー。頭が悪いっていうのはヒシヒシと伝わってくるけども……。


 ビジュアル系の頭の悪さに俺の不快度はどんどん増加の一途を辿る。


 アホさにやる気が、太陽光により視力が、


 がれていく――。


 メンドクサイことこの上ないのだが、ただ相手は逃がしてくれそうもない。しかたない。俺のる気のライフはゼロでめんどくさいけど形なりの防衛はするとしよう。俺も右腕を腰にえてこぶしを作る。


「追い詰められて、どうやらヤル気になったようだね!」


 ——うるせぇな……コイツ。


 防衛体制を取った俺を見て戦闘開始と判断したビジュアル系が剣を力強く握って歩み寄ってくる、時速60キロぐらいで。原動機付自転車の最高速度並み程度のスピード。目に見えるのは当然のこと。


 というか、鎧着て走りにくくないのだろうか?


「喰らえッ、聖剣究極破斬せいけんきゅうきょくはざん――」


 ——また、凄そうな名前。一般人が相手と分かっているのだろうか?


 自信満々で殺し文句を吐き出す相手。しょうがねぇ、食らってやるよ。斬られる覚悟などとうに出来ている。頑張って走ってくる相手に俺は斬りやすいように首を傾けて差し出す。お好きにどうぞだ。


「スラッシュクルセイダー!!」


 ――何語なにごですか? その技は??


 漢字と何語かもわからないコラボレーションを呟きながらビジュアル系は勢いよく飛び上がり斜めに剣を振り降ろした。剣はやつの肩口から加速するように、素早く綺麗な軌跡を描き、俺の首筋を確かに捉えた。


「な――にッ!!」


 確実に捉えた剣はキーンと心地よい音を鳴らす。


 少し甲高く、それはまるで固いものに金属を打ち付けたような音だった。


 驚愕きょうがくの表情を浮かべている――相手。


 剣は振りかざした地点を戻るように弾かれ、握った手が反動で小刻みに震えているのが見える。まぁ、異世界を丸ごと焼き尽くす剣が俺を切れないのだから驚きはするだろう。俺も驚いている。


 ただ所詮は小道具だ、剣ってやつは。


 残念だったな――


 世界より俺は硬いらしい。


 俺は普通じゃないし、俺の体も普通じゃないッ!


 

≪つづく≫

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