7.デットエンドが補修で鬼い様で鬼ボッコ♪

第20話 インド人と補修作ったやつ、殺す

 俺は美咲ちゃんに見守られながら、


 学校への準備を早々に終え朝の食卓につく。


 そんな感じでいたら、


「美咲ちゃん、なーに?」


 やたら訝しげな眼で美咲ちゃんが俺を見てくる。


「お兄ちゃんが……早起きなんてめずらしい」


 確かに美咲ちゃんに起こされる前に俺はもう朝食の席に着いている。


「だって、今日で」


 それには深い理由があるのだ。


「学校終わりだもの」


 俺が待ち望んだ日でもあるのだから


 気合も入るというもの!

 

「もう一生の終わり!」

「違うよ、夏の間だけお休みだよ。だから夏休みなんだよ、お兄ちゃん……」


 ――美咲ちゃんの言い分もわかる。


 ――わかるけども兄は嬉しくてたまらん。


「なに笑ってるのよ……気持ち悪いよ」


 ――あぁやっとハッピーイベントが来たぜ。


 ――夏休み!


 ――この日だけは学校に行っていい気がする!!


「美咲ちゃんのご飯がおいしすぎて!!」

「はいはい」


 ――ご飯もうまい! 今日という日は最高だッ!!


 幸せの絶頂期を噛みしめながら朝食を終えて陽気な気分のまま三人でいつも通り学校までの通学路を歩く。アスファルトから照り返しを受けてもセミが鳴いてても今日だけは許せる。


 今、俺の心は寛大かんだいだ。


 何事も受け入れられそうだ。


「強ちゃん、なんか今日は楽しそうだね♪」


 俺が心を寛容かんようにしているときは


 いいことが起こる。


「よくぞわかったな……」

「それは幼馴染だもん♪」


 ――やっと、この馬鹿も空気を読めるように。


 ――成長してきたな玉藻。その通りだ。


 俺はいま嬉しいのだ。笑顔がこぼれてるほどに。溢れんばかりにこぼれている。


 幸せは歩いてこない、待ってれば必ず落ちてくるものだ。


 ワンツーパンチだよ、幸せは。


「今日で学校は休みに入る。以上で終わりだ」


 教室で夏休み中の注意事項伝達と


「通知表を配る、名前を呼ばれたら前に取りに来い」


 通知表が返されるが、


「やけに涼しい顔しているな……涼宮?」


 俺はニコニコしながら


 渡されるのを待つようにオロチの前に立っていた。


「なんですか?」

「……」


 いつもと違う寛大な俺にオロチは戸惑っているようだった。


 俺はムカツク奴に話しかけられたが、涼しい気持ちのまま答えを返す。


「オロチ先生♪」


 だって、寛大なのだから。


「まぁいいか。ホラ、お前の通知表だ。しっかり親御さんに見せろよ」


 ――馬鹿だな、オロチは。


 ――けど、今日だけは許してやんよ。


 ――俺はいま寛大だからな。


 ――そして俺の両親はエジプトだ。


 通知表を受けとり颯爽と自席に戻る。


 ――エアメールなど送り方も知らない。


 ――だから『出来ない』だ。


 ――すまんなオロチ、ふっ。


 余談だがマカダミアキャッツ高校では通常科目のみの評価である。体育の授業は異次元になるため、行われることはまれ。体育などやっても超次元になってしまいルールが作れないからだ。


 だからこそ通知表に乗ることはまずない。


「どれ、どれーっと」


 俺は自席に戻り陽気な気分で


 通知表を開いて中身を吟味ぎんみする。




【通知表 2年C組 涼宮強】


国語 1 数学 1 世界史 2 理科 1

家庭科 1 化学 2 情報 2

 


【先生からのコメント】

 生活態度は芋虫が進むぐらいの程度で良くなってきましたが、以前として頭が悪く問題も多く見受けられます。どうやって、ここまでこんなコレを育てたのですか?


 ぜひ、面談をしてみたいものです。


 妹さんはとてもいい評判を聞いておりますが本当に血のつながりがあるかも怪しく、本当にお前の子供かも怪しい。


 たぶん養子かなんかなんだろう?


 それとも孤児で拾ってきたか?


 しかし、このクソガキは間違いなくお前の遺伝子がありそうだ。頼むから教育が通じないのをよこさないで欲しいんだわ。逆にこっちをトレードして孤児院にぶち込むのが教育上よかったと俺は思う。


 もしくは年少にでもぶち込んどくべきだ。


 もうこれは無理だよ。無理。


 教育とか無理。施しようもねぇわ。


 種のない大地に水撒く俺の気持ちになれよ、晴夫。なに教えても無駄だよ、これ。性根が腐るどころか元がねぇもんよ。根も葉もねぇよ。何やっても芽も出ねぇし、花も咲かねぇよ。土壌を汚染するだけの特殊廃棄物の一種だ。生きてるだけで地球環境に悪影響しかねぇわ。


 お前のガキってだけでもう煩わしいのに、


 コイツ、マジでうぜぇ。


 頼むから、夏休みの間に俺と関係のない場所に島流しにしておいてくれ。


 そこんとこ、まじで宜しく頼むわ。二度と俺にかかわらせないでくれ。


 たまには飲み行こうぜ。そこで詳しく話すわ。


 このどうしようもねぇ、クソガキのことを。


 以上。





「な、なんだこれは――っっ!?」


 寛大な俺は右手と左手が小刻みに震えて危うく通知表をきざみかけた。


 あまりにふざけた内容だ。


 ――この俺への評価が著しく間違っている!


「じゃあ、あとは各自解散だ。お疲れ」


 教室からそそくさと逃げようとしているオロチのもとへ


 ――あの野郎っっ!?


 逃がすものかと急いで駆け寄り、


「オイ、オロチ……待て!」

「なんだ涼宮?」

「これはなんだ……?」


 通知された内容を突き出して問う。


 このふざけた内容はなんだと。


「数字がインフレして元に戻ってるぞ。何ビットの世界だ、ここは?」

「違う。それがお前の実力だ」


 ――俺の実力はこんなもんじゃねぇッ!


「1と2しかねぇじゃねぇか!? どういうことだッッ!!」

「お前の頭のステータスがソレしかないってことだ、三進数が限界だ」

「ば、バカな……っ」

「バカはお前だ。補修あるからな」


 ムカつく奴に出席簿で頭をコツンと叩かれたが、


 それどころではない。


 ——補修だと!?


 オロチに軽くあしらわれたことよりもショックが大きい。俺はふらふらと自席に戻り、補修という無駄な予定に頭を抱える。


「ありえねぇ……こんな馬鹿な……」


 ――せっかくの長期休暇なのに何故だ……


 ――どこのバカがこの制度を作った??


 ――長期間の連休に不純物が入っちゃだめなんだよ。


 ――連休の間を邪魔する奴がいたらそれはもはや連休じゃないんだよ。二連休で一日出て二連休じゃ、四連休と違うんだよッ!


 ――休みの価値が暴落するんだよ!!


 俺は寛大な心で目を血ばしらせて


 奥歯をギリギリと鳴らして、


 ――出会った瞬間に八つ裂きにしてやる……両手の手刀でみじん切りにズタズタに切り裂いてやるよ。丁寧にトマトを潰す様に木端微塵にミクロ単位で細切れにしてやる……。


 憎しみに身を預け、俺は殺意に染まる。


「強ちゃん、どうしたの?」


 いつも通り、間の抜けた声が俺の休みを邪魔してくる。


「夏休みを無駄に使い価値を半減させる予定が現れた……ッッ」

「強ちゃんは休みになると堕落した生活送りやすいから、ちょうどいいかも♪」


 ――何がちょうどいいだ……。


 ――というか、人のことをどうこう言ってる場合じゃないだろう、お前は。


「お前もどうせ補修だろう?」

「補修? ないよ」


 ――ない……!?


「な、な、バカな、何故だ!? つい、この前オマエに勉強を教えてただろう、俺が! そんなわけないだろう! もう高1から高2までもう追いついたっていうのか!?」


 ――俺の1年間をたやすく飛び越えたというのか、


「そうかも」


 ――この天然バカ!?


 俺は慌てて玉藻の通知表を取り上げ確認する。数字をくまなく見て粗を探すが俺は天を仰ぎ見て結果を呟くことしかできなかった。


「オぉールゥファイブ……おぅ」


 驚きのあまり、何かを味わう


 バリスタのような声を上げてしまった。


「なんだ、コレは!?」


 気を持ち直して強く玉藻に問いかける。

 

 満面の笑みでバカは答えた。


「強ちゃんが丁寧に教えてくれたから♪」


 ありがとうと言わんばかりに。


 ――嫌味だと思うけど……コイツはそういうことを計算できない。なのに、勉学の計算は出来ちゃうのですよ……そもそも教えた本人は2が限界なのに……なぜ5なんだ?


「おかげさまです♪」


 ――また、バカにしているのぉ?


 ――息を吸うように自然に……


「強ちゃんのおかげだよ!」


 ――人を馬鹿にする能力ちからを持っているの、小娘?


 キラキラした瞳で俺を馬鹿にする技術を天然に生まれながらに


 持っていることは間違いない。


 ――天然って、本当に無罪なのですか?


 存在意義を疑われているのに和やかな笑顔を崩さない幼馴染。


「強ちゃんは教えることに向いてるよ! 教師になったらいいんじゃないかな!」


 警察官の時のお返しといわばんかりだ。


 頭を抱えながら俺は呆れ半分で尋問を続ける。


「どういうことだ……期末何点だったんだよ、玉藻?」

「あまりできなくて……」


 ――しょげているということは、


 ――まさか鈴木家の権力が働いた感じかッ!



「オール99点だったよ……ダメだね」

 

 ――はぁ? どうやったら一点だけ減点されるの?


 ――普通あっても、二点とかでしょ?


「オール99点で何をしょげている?」


 もはや俺からしたら未知の点数。どうやったら取れるのかも分からない、


「あれか、あとちょっとで、」


 オール99点とオールファイブ。


「たった1点でパーフェクトってことですか? 頭お花畑過ぎんだろ……俺なんかオール9点なんだぞ!」


 俺が怒りをぶつけても、天然には無意味。


「強ちゃんお揃いだね~、それにあと1点で二桁だよ!」


 ――また挑発を!?


 ヤツの絶対防御は崩せない。


「中学時代の全教科5点、合計25点に比べれば成長してるよ、ファイトだよ!!」

「うるせぇッ!!」


 むしろ攻撃が跳ね返される始末。


 ――ホント……神は無用なことしかしない……これだ。神はこうやって俺の邪魔をし続けイラつかせる。異世界にも連れっててくれないし、俺の生まれたてのかわいいぷるぷるした小鹿のような寛大な心すら打ち消そうとしている。


 ――夢も希望もありゃしない……この世界には。


 ――魔法はあるけど、


 ――俺には使えない……。


「どうしたん? なに泣きそうになってんのよ、強」


 そこに一匹のピエロが希望の光を持って現れた。


「櫻井……」


 俺はすがりつくような気持ちで光を掴もうとした。


「補修だよな……お前だけは……補修だよな」

「あるわけないだろう」


 ――光が逃げそうになる。それだけは許さん!


「嘘つけ。絶対ダメだ。問答無用で補修だ!!」


 ――許すわけがないッ!


「俺と一緒に補修受けろ、櫻井!」

「無理だぞ……花火を作るので忙しいから」


 ――このピエロの補修は決定している。


 ――なにを言おうとお前は補修だ。


 ――なぜなら、俺が決めたから!


 そして、櫻井のフレーズで気にかかることがある。


 ――花火を作っているというのは……


「おまえ花火職人になったのか?」

「趣味の一環でいま作ってる!」


 ――趣味かー、なら許してやるか。


 職業だったら拷問していたところだったぜ。二度とピエロ以外やりたくないと思うような凄惨なやつをかまそうと思ったのに。残念だ。それにしても、このピエロは色々な技術を持っている。


 ――さすがサイエンティストだぜ!


 ――いや職人か……?





「お兄ちゃん、通知表を出してください」


 学業を終え楽しい夏休みに入った夕食を食べていたら、天使がささやいた。


 だからこそ俺は返す。


「今日の素麺そうめんは格別にうまいね。このつゆは何だしなんだい?」


 アイドルの様にウィンクして可愛く会話をさえぎろうと


「お兄ちゃん気になります☆」

「通知表を出してください!」


 したが、通用しなかった。


 俺は天使には逆らえず渋々通知表をしぶしぶと食卓に置く。


「お兄ちゃんの通知表を何に使うんですか?」


 元来、本人への通知なのである。


「これは個人閲覧えつらんして楽しむものですが……」


 だから通知表なのだ。


 人様に見せるのを目的に作られたものではないはず。


 だって宛先が表紙に書いてあるじゃない。涼宮強と。


「経理担当としては必要な重要な資料です。通知表を元にボーナスの査定を行います。夏のおこづかいは通知表で決まるんです!!」

「聞いてないよ!」

「いま言いました、経理からの報告は以上です。意義は反論は認めません」

「そんな暴挙!?」

「暴挙? なにが?」

「くっ、あの経理担当確認ですが……」

「なんですか? くだらない質問だったら査定に盛り込みます」

「大貧民設定でいいですか?」

「ん?」


 美咲ちゃんが首をかしげていたので、説明を付け加える。


 これは重要な確認事項である。ボーナスに響くのだから。


 というか、経理担当の受け答えがテキパキ過ぎて冷たい。


 兄妹なのに、お兄ちゃんたじたじです。


「1と2が強いっていう……」

「インド式でいきます。大きい方が強い!」


 兄の威厳が崩壊した瞬間だった。


 そっと通知表を自分の手元に引き寄せて俺は敗北を宣言する。


「……やめときます」

「お兄ちゃん!!」

「はうっ!」


 インド人の数学を作ったやつも


 八つ裂きの候補に挙げることに。


 死してなお殺してやるよ――。


 俺はインド人と補修をこの世に作ったやつに対して復讐の思いに駆られながら、


 妹の厳しい査定を受けて、夏休みを迎えることになったのだった。








「夏休みだ……ぁぁぁ」


 ――暑い所でクーラーをガンガンにかけて布団とたわむれる……最高だ。これぞ堕落。堕落の境地。電気代の無駄遣いをしている罪悪感も相まってすごいことをしでかしている気分になるのがたまらん。


 ――堪らんぞぉおおおおおおおお!! 


「起きなさい、今日は補修の日でしょ! お兄ちゃん!」

「美咲ちゃん……補修ソレは強制イベントかなんかでしたっけ?」

「起きろ!!」


 俺は怒っている美咲ちゃんに質問したが無慈悲に布団をがされた。


 どうやら補修は強制イベントになっているらしい。


 天使が怒るのだから間違いない。


 神の使いがいうということは神の言葉だ。


 俺は仏教徒なので神に逆らうべく美咲ちゃんに何度か質問したが求める答えは返ってこなかった。「行かなきゃダメですか?」と聞いても「行きなさい」という回答だけが返ってきた。


 その反対語を求めているのです、兄は。


 ただ繰り返し聞くと


 美咲様の表情が段々形状変化していくので、


 最終形態になる前に


 俺は諦めて外に出ることにしたのである。


「あちぃ~、だりぃ~……」


 日差しが俺の包み込む。空気がもわんとする。天気が良すぎる。肌をヒリヒリさせる熱光線。アスファルトから跳ね返りより強力になっている。目の前が暑くてチカチカするし、自然と体が猫背になっていく。


「なんだよ、夏って。夏って……夏って」


 夏というのは容赦がない。思考力が低下しているのが自分で分かる。こんな日に補修などしてもやる気など出る訳もなく効果が得られないのは必然のこと。


 なぜ夏に補修などということをしようと思うのか。


「秋まで待てや……」


 俺は日差しに目をやられないように手をかざす。


「だぁああ、めんどくせえぇえ……」


 鬱蒼とした気持ちを呟き渋々と俺は歩き出す。


「行きたくねぇ……帰りたい」


 その方向は学校から真逆の方向だった。


「ああ、やだー、めんどくせぇ」


 まず回収しなければならないものがあったからだ。


 俺は駒沢にあるとあるマンションの一室を訪ねる。そこは十階建ての洒落しゃれたマンションであり、あるやつにはもったいない物件。


「アイツ最上階……めんどい。おっこいしょと」


 エレベーターに乗るのも面倒なので上に飛び上がり十階に着地する。


「セキュリティも糞もねぇな。というか、一階に住めよ」


 扉の前で嫉妬も相交わり


「高校生のくせに贅沢しやがって、許せん」


 ――早う、出て来いや。


 チャイムをとりあえず連打。暑さと憎さと相まって連打の手も止まらない。セミが鳴き、インターホーンが悲鳴を上げている。これで待たされようものなら怒りが殺意に変わりそうだ。


「なんだよ、朝っぱらから……ウルセェな」


 不機嫌そうな声と共に不機嫌な顔した私服ピエロが玄関を開けてくれた。白いTシャツにジーンズなどはいてやがる。朝から寝巻でないというのはどういうことなのだろう?


 ――やる気満々やんけ。


「強??? なにしてんだ?」

「早く支度しろ。いくぞ、ピエロ!!」


 ――もう時間がない。


 ――もうすぐ補修が始まってしまう時間だ。


「イヤ、オレそもそも補修じゃねぇし、花火作りで忙しいし……」

「もう支度が終わってるみたいだな!」


 ――強がってるんだな……準備万端で待ち構えるし。


「お前は人の話を聞かない癖がスゴイ!」

「言われずとも分かるぞ、友よ」

「なにも分かってない! お前はいつも分かってないから!!」

「恥ずかしがり屋さんめ♪ シャイだな」

「シャイとかじゃなくて、拒否だ!!」


 ――私服で準備万端の癖しやがって!


「ちょ、ちょ――!」

「おら、いくぞー」

「キョウ、てめぇ!?」


 俺はピエロを脇に抱えて学校に向かうことにした。


「補修が俺たちを待っている!」

「お前だけだッ!! 道連れにすんな!!」


 玄関の隙間からたくさんの丸い八尺花火玉が転がってくる……職人ピエロの演芸に使われる小道具だろう。楽しませてくれそうだ。「せめて玄関を締めさせてくれえええええ!!」とピエロが叫んでいたが聞こえないフリをした。


 扉を全開にして旅立つのがいいんじゃないか。


 夏らしくて爽やかだと俺は思う。


 つまらない補修もピエロと一緒ならなんとかなりそうな気がしたが、


 ピエロは俺の予想より早く退場することになる。


 俺を救って――。


「ちゃんと来てるようだな、涼宮……と?」


 教室には俺と櫻井しかいない。


「帰っていいっすか? オレ、帰っていいすよね?」


 他のやつは補修がないようだ。


「オロチ、帰るぞ。俺は」

「始めるぞ」

「はぁ?」


 オロチはピエロがいることに一瞬だけ疑問を覚え「なんで櫻井が?」となったが、一瞬で気持ちを切り替え補修を始めた。補修開始直後に櫻井が「冤罪だぁー!!」とわめいていたが、そこは隻眼オロチ先生。


 有無を言わせず拳骨一発。


 「うるせぇ!」と


 櫻井の顔面を横ぶりで一発ぶん殴り


 大人しくさせ、補修が始まったのだった。


 体罰大好き、僕らの担任オロチ先生。

 

 早く懲戒解雇されないかな。


 そして、俺と櫻井は机を並べ二人で勉学に励む。


 それはもう真剣も真剣。


「なぁ、櫻井……」


 真面目に教科書に書いてある言葉を


 反芻するほどに励んでいた。


にぃπrパイアールだってよ……」


 エロ親父の様に習ったことを反芻する俺。


「パイアールなんかエロいな……」


 櫻井もいつになく真剣な顔つきだ。


ってところも、なんかやらしい! 強ちゃんのエッチ!」


 かわいこぶりっこするように頬を両手で押さえる櫻井。俺たち机を隣に並べ「きゃっ、きゃっ」と楽しく勉学している。


「強ちゃん、パイアールがいっぱいアールぞ♪」

「同じパイアールでも、とても小さいパイアールからこんな大きなパイアールまで……学者はスケベ!」

「オマエら真面目にヤレ、殺すぞ!!」


 なぜか熱心に学習に励む優良生徒の俺と櫻井が


 理不尽に怒られる!


 生徒殺害発言をしたオロチを睨み返す。


「いつか……決着をつけてやる」


 俺はオロチに対して決着がついてないことをしっかり記憶している。あれだけ時間をかけたの戦いだったのに終わり方が納得いかないものだったから。


 ――いつかボコボコにしてやる、体罰教師め。


 そんな俺を前にオロチが


「涼宮、お前には2学期にを」


 にやけながらため息まじりに


「用意してある。楽しみにしとけ」


 意味不明なことを返してきた。


「仕事?」

「俺は?」

「お前はない、無職だ。またふざけたことをしたら奴隷を調教するように体罰だけは与えてやる。教職者として殺しちゃいけないのが面倒だがな」

「クソ、世の中を変えてやる。デカい花火を打ち上げてやるよ……」

「…………」


 さすが櫻井。ぶれない。オロチ相手にビビらないのは俺と櫻井ぐらいである。


「夏休み中監視できないが、変なことはするなよ」


 オロチは櫻井に釘をさしていた、


「すでに何かをしでかしているならこの場で半殺す」


 言葉の釘をガンガンと。


「やろうとしてる雰囲気があれば今すぐ半殺す」

「………………」


 ――櫻井を止めるには言葉などでは足りない。まだこのピエロを理解できてないな。担任のくせに生徒の特長を把握しないのは職務怠慢だ。ホラ、みろ。


「………………」 

「………………」


 櫻井が地蔵のような顔をして沈黙を貫き通している。


「今すぐお前は職員室に来い!」

「うわぁぁああああああああ!!」

「半殺しだ!」

「冤罪だ! 冤罪! 差別だ!!」

「差別じゃない、区別だ! お前は危険だ!!」

「魔女狩りか!!」


 ――いや、ピエロ狩りだ。


 櫻井の悲鳴と共に俺の苦痛の補修が終わった。


 夏休みでも相変わらず楽しませてくれるピエロだ。


「補修が終わったぜ、サンキュー櫻井」


≪つづく≫

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