病識幻想世界
※この物語はフィクションです。実在する人物や組織、建物とは関係ありません。
5月の終わりの雨の日。
幼かった私は紫陽花が咲き始めた敷地を走り回っていた。傘をさしながら走っていたら子猫を見つけた。私は夢中で追い掛けた。そしたらいつの間にか迷ってしまっていた。
私は母親の名前を叫んだ。しかし誰も人は居なかった。私は寂しさと怖さで涙が溢れて来て、気が付けば泣いてしまっていた。
何年か過ぎた5月の終わり。
私は入院中の祖母への面会をする為に都会に出ていた。私には両親が居ない。正確に言えば、両親は私が小学生になる前に時に死んでしまった。だから家族は祖父母と姉の3人。でも姉はもう一人暮らししているし、祖父は老人ホームに入ってしまったし、実際のところは2人で暮らしていたもんだった。
私は余り祖父母の事が好きではない。祖父母は姉の方を優遇していた所があった。だから祖父母の事が苦手。でも祖母の世話をするのは私だけ。だから高校に通いながらも看病しないといけない。ここ最近はもう、高校と病院を行ったり来たりする生活。友達と遊んだりしたいのにここまで制限されるのはとても不愉快だった。成人している姉は何故か全部を私に投げて、自由に暮らしている。その事がとても悔しかった。嫌だった。だから私は姉とは連絡も取らず、あてにもしなかった。
いつもの日課を終えて、私は都会の街中を一人で何も考えずに歩いていた。路頭に迷う、とはこういう事だろうと思いながら歩いた。
「私は何でこんなにも我慢しているのにお姉ちゃんは我慢しないの?」
私はふと、呟いてしまっていた。いけない、マイナスな事を口にすると止まらなくなってしまう。なんとかかき消そうとしたけど出来なかった。都会の喧騒はマイナスな言葉を消してはくれなかった。
私の目に涙が溢れて来てしまった。泣いてる姿が恥ずかしくって拭ったけれど、それでも涙は止まらなくって余計に悲しくなった。
「泣いてちゃ駄目だよね」
私は涙を拭って再び歩き出した。すると、周囲の人がウロウロしていた。同じ場所をくるくると回る人も居れば、目を擦ったり、瞬きを沢山する人も居た。壁にぶつかる人も居れば、人とぶつかる人もいて 辺りは騒然としていた。
しかし私は何ともなかった。不思議だなと思いながらもその場を後にした。
私がなんとなく向かった先は意外と見晴らしの良い場所。池もそばにあるし、自然もある。そして紫陽花の花も咲き誇る、この場所が癒やしの場所だ。
「何だか今日は色んな事があったな。ついてないだけなのかな」
私はそう思いながら夕方の景色を眺めていた。
〜「病識幻想世界」end〜
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