一つの空想話と。
「お待たせ」
上野駅で私は雪子と待ち合わせしていた。雪子がどうしても通院する私に同伴したいとせがんだからだ。
雪子は慌ててやって来た。と、言ってもまだ待ち合わせ時間には15分もある。
「ごめんね。私からお願いしたのに…」
「まだ時間あるのにゆっくり来れば良かったじゃん」
「そんな訳にはいかないよ!」
「そんなに荒らげなくても良いって」
「あ、ごめん…」
「とにかく、バスに乗ろう」
私は雪子とバスに乗る為にバス停に向かった。
「ここからなら歩きでも病院まで行けるけど、バスの方が良いでしょ?」
「運動苦手だし…。夕月さんもその方が良いんじゃない?」
「坂もあるしねえ…私はバスが良い」
病院までは上野駅からさほどかからない。
車内は余り混んでいなかった。他愛も無い話をしていたら気が付くと病院のバス停に到着した。私達はバスから降りると横断歩道を渡り、外来棟に向かった。
「相変わらずでかいね」
「うん。予約患者数も3000居るし、大学病院そんなもんよ」
私達は病院の中に入ると、髪の長い少女とすれ違った。背も低めで何処か大人びている雰囲気を持っていたが、とてもミステリアスだった。少女は何も言わずにその場を去って行ったが私はとても心がざわついていた。
「どうかした?」
「ううん。何でもない」
私達は受付をして呼び出し受信機などをファイルに入れて受診科に行った。
診察が終わり、会計にファイルを出した後に雪子がある話を持ち掛けた。
「少し病院を探検しない?」
「えっ探検?」
「病院は何故かアングラ感とかも漂ってくる、この上ない謎の場所だと思うの」
「地下でもないのですが…」
「まあそこら辺は気にしないで。少し散策してみる?」
「うーん…仕方無い。付き合うよ」
私達は外来棟玄関から出て、バス停方面を歩いて連絡通路のある場所へと歩いた。
「裏側の一つだね」
「まあ、一つの側面にしか過ぎないけど、これも病院の裏側だね」
すると向かい側からあの少女が現れた。
少女は私達を真っ直ぐ見ていた。そして小さな声で話した。
「あなた達がここに来た理由は何?」
「えっそれは…私が通院で彼女が付き添いだけど」
「…こんな所でどうしてその瞳をする?」
少女の問に意味が分からず、私は意味が分からないと尋ね返した。すると少女は更に問い返す。
「大学病院でどうして?答えなさい!」
更に意味が分からない。
「そんなにカッとなっても駄目だよ、ねっ?分かりやすく話さなきゃ」
「…もういい。」
少女はそう言い捨てると去っていく。
そして何故だか雪子が急に生気を無くした様にバタバタと倒れてしまった。
「雪………」
雪子の名前が出かかったが間に合わなかった。
〜「一つの空想話と。」end〜
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