第2話 おっさん、召喚される
やあ、この小説を読んで居るかも知れない、実は実在しない可能性も持った読者諸君。おっさんの異名を持つジンだ。
ジンさん今ね、異世界に居るんだ。周りは何もないよ。うん、海と空だけの大海原さ! …あ~、このテンション、維持するのはキツイなあ。
さて、開幕早々「異世界の大海原」に来ている事を宣言した訳だが、『小人のトンネル』を購入してから数週間が経過したある日、休日の時間を使って船に浮力を持たせる作業が終わったと同時に、比叡が「異世界へ移動する準備が整った」と言って来たので、休暇を取って異世界旅行に出発したのだ。
その為に行った作業内容を説明する。
まず船底に幅30センチ、長さ50センチにカットした、プラモ屋で購入したプラ版を付属品の接着剤とボンドで接着し、四角い3リットルペットボトルを一つずつ麻紐で括りつける。
一応、麻紐だけだと滑り落ちる可能性があるので、ペットボトルにキリで穴を開けて、ヤスリ掛けした所に紐を通してボトル内を貫通させる。
次に同じサイズのプラ版に、同じサイズのペットボトルを後ろに、もう1セット装備させて、前のプラ版と後ろのプラ版を、更にカットしたプラ版を接着する事で固定し、角材で制作した船の前半分の浮力を確保した。
問題は角材部分の後ろにある、段ボールで巨大化させた後方部分だ。妄想では船員の部屋だのが詰まっている事になっているが、中身は何もない。
中身の事はどうでも良いとして、素材が段ボールとなると耐水性の部分で結構悩むが、前後に50センチ以上、幅も25センチ以上はあるし、高さだって50センチはある大型拡張を段ボールでしてしまったとなると、耐水性確保は難題だ。
この大きさに豪快にプラ版を使うのは、購入費用を考えると高すぎるし、500mlのペットボトルだけ、何故か大量にあるのでカットして穴に麻紐を通したり、ボンドを使ったりして、表面をペットボトルで覆い尽す。その後、ボンドを贅沢に使ってボンドコーティングを施し、気になる隙間を埋めて作業終了。
風呂場でボンドコーティングの効果があるのか、水に浮かべたら沈んだので角材部分のペットボトルだけでは浮力不足が発覚し、角材部分に2セットを追加、段ボール部分は3ℓペットボトルを付けられるだけ付けて、麻紐を通す為に開けた小窓をボンドコーティングで埋めた。
沈んだ事には焦ったが、角材部分のペットボトル内の浸水は、キャップを開けて船を引っ繰り返した事で排水できたので、船が結構重たい事以外は取り立てて問題にはならなかった。後々、角材部分の浮力確保用ペットボトルの、麻紐用小窓もボンドコーティングで穴埋めして、それから再び浮力試験を実施したが、段ボール部分の浮力と釣り合っていないのか、船首がガクンと水没し、緊急潜航する潜水艦の様に引っ繰り返りながら、ゆっくり沈み出したので、慌てて回収し、余ってるプラ版を角材部分の根元に接着して、左右の防水を施す。
大まかな形と大きさを定規で測って、追加購入したプラ版を加工し、二つの三角形パーツを組み合わせて、船首の防水加工を終了させた後に気づいたのは「後方の段ボール部分も同じ様にしないと、大きすぎる隙間から浸水してしまう」と言う、構造上の重大な欠点だった。
幸い、角材保護のプラ版は余ってる奴をくっ付けただけなので、カットされたままの変な形になっている部分を切り取り、追加購入分と併用して不規則な麻紐の塊に合わせた結果、ペットボトルコーティングとの境界線は上手く埋める事が出来た。
「ジン、風が気持ち良いね」
「あ、ああ。ずっと浸水してないか不安だけど」
しょっちゅう船の中を動き回って、浸水チェックしている。今の所、浸水はしていない様だが「さっきよりも沈んでないか?」とずっと不安で仕方がない俺は、多分比叡からすると物凄く挙動不審なんだろう。
「大丈夫だって、ちゃんと進んでるって」
「不安なんだよ」
「モーターって水に弱いんでしょ。此処からでも、私の耳にはモーターの音が聞こえるし、多分大丈夫じゃないかな」
「そうかな」
今の俺は小人だ。小さな妖精である筈の比叡が、自分と同じ位の背丈である事に最初は驚きこそしたが、すぐに慣れた。そんな比叡の言う通り、相対的に巨大化したモーターの音は、意外と波や風の音に負けずにグイングインと稼働音を撒き散らしている。
後から角材部分の3ℓペットボトルの上に500mlのペットボトルの破片を使って一室設け、其処から斜め下に簡易キット用のスクリューの軸を水面下へ伸ばしてある。角材部分だけで合計6個のスクリューが力強く推進力を生み出し続けている訳だがあ、船の一番上にあるこの場所にも音を届けているのは、段ボール部分に設置した2つの高電圧モーターだ。
「どのモーターも一番下に設置してあるからな。確かに浸水したら真っ先に影響を受けそうではある」
「でしょ。だからきっと大丈夫!」
因みに、名前を検討中の我が船の行き先は大神殿とやららしい。自分の行き先の割にあやふやなのは、比叡が「こっちの方角だよ!」としか言わない為である。
「大神殿ってのは、どんな所なんだ」
「一種の宗教都市みたいな感じ。協会の中に家が沢山あって、人が住んでるの」
「宗教都市ねぇ」
日本人が「宗教」と聞くと碌なイメージが沸かない。キリスト教やイスラム教の人が飽きずに戦争している所しか、思い浮かべる事が出来ない。一応、宗派とやらはある様だが、外から見る分には全部一緒だ。
「ジンは宗教しないの?」
「日本人にそれを訊くと、大体の奴は無宗教って答えるだろうな。だからと言って無神論者って訳でもないし、俺は取り合えず仏教徒です…って答えておくわ」
外国人は何故か無宗教である事と無神論者である事を結び付けたがるが、それが真実だとしたら日本の神社とお寺が毎年、正月に凄い事になる筈がない。初詣に行かない日本人は余程の面倒臭がりか、仕事で忙しいブラック社員だけだろう。正月期間に休めなくても、時期がズレて休める筈だ。
「仏教って何?」
「仏教は宗教とちょっと違うらしい。俺も詳しい事は知らんが、どちらかと言うと哲学なんだそうだ。対する宗教は教え。こんな時はこうしろ、こんな事があったらああしろ、って感じにルールやマナーを後世に伝えていく…んだが、それが何百年と続くと人間の悪意が混じってなぁ」
「仏教は悪意が混じらないの?」
「哲学って事は自分で考えて行動しろ、って事だからな。まあ、仏罰って言うやっちゃ駄目ですよ、こんな罰を受けますよ、ってのはあるんだけど」
ある程度の教えはあるが、それを悪意を持って解釈しても、その人だけの解釈であって皆の考えになる訳じゃない。もし、悪意のある考えを広めたら仏教じゃなくて邪悪なカルト宗教になってしまう。
そんな会話をしながら互いの世界の事を教え合っていると、徐々に日が傾き出して寒くなって来たので、段ボール部分へ移動するとグーと音が聞こえたので、振り返ると比叡が「あはは」と愛想笑いをしていた。
別段、行き成り居世界に召喚された訳ではないので、食料は持ち込んである。比叡のお陰で色々準備出来たが、お婆さんの言って居た冒険とやらが、想像以上に壮大だと出向してすぐに思い知らされた。
「缶詰って美味しいねジン。これから毎日食べたいよ!」
「じょ、冗談じゃない。これは今みたいな料理が出来ない時の為の物だ。航海中は仕方ないとしても、上陸後も毎日だなんて」
「だって手軽だし」
「何の為の保存性だよ」
でも缶詰だけで一通りの栄養は揃うんだよな。それに比叡は妖精だから、魔法が使える。もしかすると、この世界の住民だから使えるのかも知れないが、取り合えず冷たい缶詰じゃなくて、温かい缶詰を食せるのは幸運だ。
「保存が利く食べ物なんて早々ないよ。これなら法皇様も大喜びだよ」
「法皇様? …何だ、こっちの国は貧困なのか?」
「うん。魔物が暴れてるから、畑仕事が出来ないの。狩人も死んで畑も荒らされたりしてね。ドラゴンが日常的に軍と戦ってる訳。もう殆ど人類VS魔物の戦争って感じで何十年も戦いが続いてるの」
成程、食料が入手できないとなると、確保できる時に確保出来て保存の利く缶詰は確かに便利だ。問題は自分が今から、危ない国に行く所だが。
比叡から貰った『異邦者の旗』を掲げているので、皇国軍には攻撃されない。しかし他国は別で、召喚魔法自体が宗教的にアウトな国も多いと言う。何でも世界の理と秩序を乱してしまうかららしい。
言わんとする事は分かるが、魔物と戦ってる皇国を相手に、随分冷たいなと思いながら段ボールの通路で、「どのモーターも一番下に設置してあるからな。確かに浸水したら真っ先に影響を受けそうではある」
「でしょ。だからきっと大丈夫!」
因みに、名前を検討中の我が船の行き先は大神殿とやららしい。自分の行き先の割にあやふやなのは、比叡が「こっちの方角だよ!」としか言わない為である。
「大神殿ってのは、どんな所なんだ」
「一種の宗教都市みたいな感じ。協会の中に家が沢山あって、人が住んでるの」
「宗教都市ねぇ」
日本人が「宗教」と聞くと碌なイメージが沸かない。キリスト教やイスラム教の人が飽きずに戦争している所しか、思い浮かべる事が出来ない。一応、宗派とやらはある様だが、外から見る分には全部一緒だ。
「ジンは宗教しないの?」
「日本人にそれを訊くと、大体の奴は無宗教って答えるだろうな。だからと言って無神論者って訳でもないし、俺は取り合えず仏教徒です…って答えておくわ」
外国人は何故か無宗教である事と無神論者である事を結び付けたがるが、それが真実だとしたら日本の神社とお寺が毎年、正月に凄い事になる筈がない。初詣に行かない日本人は余程の面倒臭がりか、仕事で忙しいブラック社員だけだろう。正月期間に休めなくても、時期がズレて休める筈だ。
「仏教って何?」
「仏教は宗教とちょっと違うらしい。俺も詳しい事は知らんが、どちらかと言うと哲学なんだそうだ。対する宗教は教え。こんな時はこうしろ、こんな事があったらああしろ、って感じにルールやマナーを後世に伝えていく…んだが、それが何百年と続くと人間の悪意が混じってなぁ」
「仏教は悪意が混じらないの?」
「哲学って事は自分で考えて行動しろ、って事だからな。まあ、仏罰って言うやっちゃ駄目ですよ、こんな罰を受けますよ、ってのはあるんだけど」
ある程度の教えはあるが、それを悪意を持って解釈しても、その人だけの解釈であって皆の考えになる訳じゃない。もし、悪意のある考えを広めたら仏教じゃなくて邪悪なカルト宗教になってしまう。
そんな会話をしながら互いの世界の事を教え合っていると、徐々に日が傾き出して寒くなって来たので、段ボール部分へ移動するとグーと音が聞こえたので、振り返ると比叡が「あはは」と愛想笑いをしていた。
別段、行き成り居世界に召喚された訳ではないので、食料は持ち込んである。比叡のお陰で色々準備出来たが、お婆さんの言って居た冒険とやらが、想像以上に壮大だと出向してすぐに思い知らされた。
「缶詰って美味しいねジン。これから毎日食べたいよ!」
「じょ、冗談じゃない。これは今みたいな料理が出来ない時の為の物だ。航海中は仕方ないとしても、上陸後も毎日だなんて」
「だって手軽だし」
「何の為の保存性だよ」
でも缶詰だけで一通りの栄養は揃うんだよな。それに比叡は妖精だから、魔法が使える。もしかすると、この世界の住民だから使えるのかも知れないが、取り合えず冷たい缶詰じゃなくて、温かい缶詰を食せるのは幸運だ。
「保存が利く食べ物なんて早々ないよ。これなら法皇様も大喜びだよ」
「法皇様? …何だ、こっちの国は貧困なのか?」
「うん。魔物が暴れてるから、畑仕事が出来ないの。狩人も死んで畑も荒らされたりしてね。ドラゴンが日常的に軍と戦ってる訳。もう殆ど人類VS魔物の戦争って感じで何十年も戦いが続いてるの」
成程、食料が入手できないとなると、確保できる時に確保出来て保存の利く缶詰は確かに便利だ。問題は自分が今から、危ない国に行く所だが。
比叡から貰った『異邦者の旗』を掲げているので、皇国軍には攻撃されない。しかし他国は別で、召喚魔法自体が宗教的にアウトな国も多いと言う。何でも世界の理と秩序を乱してしまうかららしい。
言わんとする事は分かるが、魔物と戦ってる皇国を相手に、随分冷たいなと思いながら段ボールの通路で、食事後のボケ~っとタイムを堪能していると、東の海に何か影が見えた。
一応、船旅って事で双眼鏡を購入した序に実家に戻ってコンパスを取って来たから東の海と分かるんだが、どうも東側から船団が近づいて来ている様だ。
「比叡、船団だ。東の海に船団、数が多い!」
「むぅ。…ふぁあ、船団?」
「来てくれ!」
「ふぁあい…」
眠たげな比叡が弱弱しく羽ばたきながら、俺の目の前にある麻紐に座って、横にある麻紐を掴んで「何処?」と間延びした声で尋ねて来るので、こっちに来いと通路に引っ張り込みながら双眼鏡を貸してやると「うげえ!?」と突然声を荒げた。
「皇国軍じゃないのか」
「ま、魔王軍だよ!?」
「…最悪じゃねぇか」
彼女が変な声を出す理由を即座に推測したが、俺は精々「皇国軍以外の他国の船にでも見つかったんだろう」としか思わなかった。だが蓋を開けてみればどっこい、魔王軍の大船団だった訳だ。
「でも船は普通だ、旗だけ魔王軍の奴」
「近づかない方が良いかもな。左のモーターを一度停止させるか」
「そんな事したら減速するよ」
「帆でも有れば良かったんだが。まあ皇国に辿り着けば変えるかも知れないし、あまり深くは考えないで、目の前の火の粉を回避しよう。流石に振り払えるだけの戦力が無いと、応戦するだけ馬鹿だし」
そう言って俺が左側のモーターを止めようと一歩動いた時だった。
「ぃよォう、勇者様よォ…!!」
その声は空から聞こえて来た―――。
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