第4話

彼女は被検体として01番という番号を与えられただけの存在で、今はまだ人間としてすら認識されていない。それは余りにも残酷に思えて、若しくは私の勝手な憐憫か自己嫌悪か、そういったものに苛まれる気持ちになる。せめて何か、呼べる名前があったなら。

イチヤ、と口の中で呟く。夜に活発に動いているイメージがあるので、それと番号との組み合わせという味気ないものだが、名前が無いよりは幾分もマシだろう。イチヤ、と彼女に呼び掛けると、不思議そうに首を傾げてこちらを金の瞳で見つめてくる。彼女自身を指さして、イチヤ、ともう一度呼ぶ。そして私は自分を指さして私の名前を何回か言って見せた。

「フ、タバ…フタバ?」

少したどたどしく私の名前を呼ぶイチヤの声は透き通った水晶に似ていた。この時何故か、私は彼女がいずれ辿る道の事を考えて憂鬱になった。


名前を認識させることは割と簡単に出来たし、イチヤはとにかく理解が速い。モノの名前も読み書きもどんどん覚えていった。ただ、唯一話すことだけはまだ発声が慣れないらしく拙い感が否めなかった。しかし少なくともこちらの言うことは理解しているので教えた事は直ぐに覚えるし、出来るようになる事も増えていく。この研究塔に来てから一ヶ月も経たないうちに、彼女は赤ん坊から一気に今の実際の年齢に相応しい知識や教養を吸収してしまったのだった。

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