2話
「スナッフマン、などと呼ばれていたと思う。スナッフ。娯楽目的で流通させるために撮影された殺人映像のこと。それくらいは知ってるか。
スナッフマンは昨年の終わりごろ、この殺人ビデオをネット上に流した。それも方々で。最初のころは誰もが猜疑的だった。当然、ネット上ではとやかく言っても基本的には真っ当に生きている人間ばかりだ。そうした普通の人生を歩んでいる人間の目の前に、本物の殺人ビデオが転がり込んでくるなんて、露ほども思わない。毎日誰かが死んでいるとニュースは告げているのに、それが映像になると途端に信じられない。というより、偽物だ、と思い込むことでフィルターを掛けている。だから最初のうち、この殺人ビデオは揶揄の対象だった。出来の悪いホラー映像だな、といったような具合で。
風向きが変わったのが、一週間ほど経ったころだった。この殺人ビデオに収められていた被害者の若い女性が、行方不明者によく似ていると言う情報が流れ始めた。画質も音質もよくはなかったが、背格好、髪型、時折聞こえる声音が、よく似ていると。
そうなると世間は手のひらを返したかのようにこの殺人ビデオを流布させた某かを、スナッフマンと呼び始めた。親しみさえ込められていたようにも思える。
当然投稿された映像は発見され次第削除が行われていたが、一度世に出たものは回収するのが難しい。コピーされ、さらにコピーされ、もはや手の届かない領域に達したとき、結局は置いておくのが最善だと、誰かが思った。その映像の中の女性は、誰かの目の前で、何度も何度も、それこそ咀嚼するように、殺され続けた。
私はそのスナッフマンの、犠牲者なんだ。ただし今も、生きている」
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