第6話 鬼電のその後で…
鬼電のその後だと言うのに、その日の午後ビクビクしながら電源を入れるも何もなく静かなもので、預けていた売り上げのお金を取りに行き、何時もの報告をする時間が来たが電話を掛ける気も起らず、ただただ仕事をしていた。
電話が来た。恐る恐る出た。何事もなかったかのような猫なで声。
支払いのことはいいから売上げ報告はして欲しいのと言う。
私はもう言う必要もないとも思ったが言うことにした。
それもこれも心が弱いから…。
それからしばらく平穏な日常が過ぎた、ある日。
偽りの平穏な日々は突然終わった。
2011年(平成23年)3月11日。あの東日本大震災である。
あの日は午前中は何事もなく、午前7時開店。
この頃の観光ホテルは営業中大抵売れない午前10時半頃お客のチェックアウトを確認して帰宅。
朝食兼昼食として御飯を食べテレビを見て当時やっていたネットゲームのガンダムのシミュレーションをやったり『まにあっくすZ』と言うまとめサイトを見て午後1時時ぐらいにお昼寝。午後3時にはお客様のチェックインが始まるので開店の為に午後2時45分頃起床し仕事場に駆け込むそんな日常を毎日繰り返していたが、6年目?となると日課と言うものはF1のピット作業の様に何時しか余分なモノをそぎ落として時間の短縮を可能にし、10分あれば間に合うようになっていたので50分起床になっていた。
労基違反wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
この場所にテナントに入って以来毎日9時間休みなく、6年近くしていた。
休みがあったとすれば、お墓参りに出かけた1日と免許の更新…思い出せないぐらいない。
例外として休みではないけどその場を離れることが出来たのは、百貨店の物産展に駆り出された8日間と本社に手伝いに行かされた2か月ぐらいとかだろうか?
めちゃくちゃな日々だった。
まあそう言うのは今は置いといて、この日は携帯のアラームではなく地震で起きた。
調べたら午後14時46分18秒頃だそうで時間的には丁度なのね。その日の夢も覚えている。と言うか、その場に移り住み出してから何度か見た夢。
住んでたとこが地震で崩れる夢だ。
夢の最後、崩れて斜めになった床を滑り落ちて行くところで醒める。
建物は築30年ぐらい行きそうな団地?とにかくその4階で、震度1とかでも相当揺れるところだった。地震の度崩れるのではないか?っていつも思うほど。
兎に角ドキドキが止まらず飛び起きて上体を起こしたまま動けずに収まるのを待って仕事場に駆け込んだ。
駆け込むのも命がけ。
急な坂を出来る限りの全速力で駆け抜ける。
長年の日課で私の
今は見る影もないが・・・w
駆け込んで仕事場の幕を開けて一段落。お客はまだ来ていないのでテーブルの端に寄りかかりのんびりレジにお金を入れていると、売店のおばちゃんが私の近くに寄ってきて手に持ったバインダーを口元に当て私に目も合わせずに言った。
「今日はもう仕事にならないよ。お客さん居ないから…」
「え?今日お客さん居ないんですか?」
(私は居ないにしてもいつもより少ないレベルの話だと思って聞き返した。)
「居ないよー。みんなキャンセル。あんなことあったら旅行どころじゃないでしょ」
「?」
「え?TVとかニュース見てないの?もう大変だよ。地震でもうあっちの方は…、私が見ててあげるから、仕事になんてならないから休憩室でTV見てきな、もう大変だから…」
と、私は一通り作業を終えて休憩室に向かったのか?その場でフロントから見えない様にワンセグでTVを見たのか?どっちだったか?
覚えているのは携帯のワンセグで港が津波に襲われる光景。港のコンテナが波に浮かび、車は始めのうちは浮かんでいたが波に揺られるうちに沈んで行く。何もかもが波にのまれる光景。それをしばらく無言で見つめていた。
休憩室に行くと中国からの研修生がTVを見ていた。
物凄い光景がTVに映し出されていた。
ハッキリ言ってその時のTV画面の記憶はない。
2m離れたか離れてないかのところで椅子に座り眺めていた。
結局、お客様は来なかった。
あの日からガックリと売り上げが落ちた。
原発が爆発した。終わったと思った。
日本が終わったと思った。
それと同時に、この仕事は終わったと思った。
そう思ったら決断は早かった。
「今月でこの仕事を辞めます」
社長夫人のババアに言ったのが先か?
ホテルの売店の小憎らしい主任のじいさんにが先か?
兎に角キッパリ言ったのだけは覚えている。
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