第3話 鷹の雛

 鷹の雛が死んだ。

これは直ぐに頭の中に浮かんだ言葉だ。

言葉と言うより印象?いや、見たままだ。

良くも悪くも苦楽を共にしていたと思っていた社長の最後の姿、私が見たそのご遺体は人と言うより一種の妖怪の様な、何かが人に化けたかの様に見えたんだ。

と言うのも、昔見たTVの自然を紹介する番組で雛鳥の成長を見守るやつに出て来る雛の顔、あの様だったからだ。

首は筋張り、四角かった顔の頬肉は削げ落ちて頭の形はしゃれこうべその物の形をしていてぬらりひょんみたいだし、口元は異様にすぼんで突き出てまるで雛鳥の成長しきらない嘴のようだった。

記憶にある白髪の生え揃った髪も抜け頭皮が見える。

そして異様に飛び出た目元はそのまま。


どう見ても私の知る人間には見えなかった。


 前後するけど、社長のお母さんとも話をした。

もう十年以上前に亡くなった母方の祖母を思い出すような感じの方。

背は小さく背中も丸まり若い頃は社長と同じで割腹のよい人だったんだろうなと思わせる。そして、その傍らには娘さん、社長の妹さんが付き添っていた。

その妹さんは社長や母親に似ずすらりとした美人で、初めて見た時に社長に「美人ですね」って言うと「なぁ!そうだろ。兄妹だけど俺と全然似てないんだ。似てるのは背の高さぐらいで、弟の方とは似てるけども」とか嬉しそうにしてたのを思い出す。この二人に会うのは2回目で3?4年ぶりだった。

社長のお母さんは私の前に来て片手で私の手を取ると、

「今まで息子に仕えてくれてありがとうね。本当にありがとうね」って言うようなことを言い両手で私の手を包み握り締めて話してくれた。息子の顔を見てやってとも言って勧めてくれたのも社長のお母さんだった。


その時思ったかは思い出せないけど、あなたの息子の横暴と云いように腹を立てて会社が大変な時が来たら辞めて見捨てようと思っていた時期がありましたよ。

ずーーーっとそれを考えながら過ごしていた時がありましたよ。

そんな時もありましたよ。


社長の顔を見た後、奥さんに今出しているテナントのこととか仕事続ける気かどうか聞かれた。私はそれしかなかったので続ける気だと言った。

細々とだけど出来なくはないって思っていた。

会社の車のことも言われた。

亡くなる一年前ぐらいに買ったハイエース。社長はぴっかぴっかの漆を塗ったようなハイエースに乗ってた。その車の支払いはまだ終わっていなかったけど、社長が亡くなったら支払わなくてもいいようになってるから気にしなくていいって話。

知ってた。

あとは前にも言われた会社の名前使って仕事するんだからお金を家?に入れてねって話。兎に角、店の売り上げを毎日電話で連絡することを言われた。

経営とかわからなかったから何も言い返せなかったが、それでも何もしない人の言うこと全てに納得はできなかったけど、どうしたらいいかとかわからなかった。

でも自分は何時も道理に仕事をしながら仕入れ先に支払いをすることと、これからの会社を動かすのは自分なんだ。と漠然と思っていた。

それにしても当時の私は何で会社に金がないのか?まともな給料も貰えなかったのか?

何もかもわからなかった私をよそに、うちの両親は社長の顔を見ながら社長のお母さんと話し込んでいた。


何やかんやありましてご飯も食べずに居ましたが仕出し弁当を出されたので私の両親と食べました。焼き塩サバが入った幕の内弁当だったかもしれません。

ああ、虫歯にはそれなりに気を付けてますんで歯磨きセットも買ってました。

多分コンビニで買った気がします。ビニールの透明なケースに入った歯ブラシと小さい歯磨き粉が付いたやつ。


それにしても思い返せば長い付き合いだったけど全く悲しい感じはしませんでした。


夜も10時を回った頃でしょうか?みんなで布団を敷いて寝ました。

柩のすぐそばに社長のお母さんと妹さん、親族、私は親族ではなかったものの4?5メートルも離れていない位置で寝かせてもらいました。

社長のご遺体の近くだと言うのに不思議とぐっすり眠れたと思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る