第19話 お金が無いので確定申告

「やべぇ……、金がねぇ……」

別にパチンコで浪費したとか、暇だからKADOKAWAのラノベを買い漁ったからこうなったというわけではない。国や機関の徴収日がたまたま重なっていたからである。

 払ったものは健康保険(保険証)の代金。市民税。それと生命保険だ。(生命保険料金は今まで会社の給料から天引だったのだが、会社を辞めたので辞めてからの料金が一気に来た)

 それに対する収入はというと、雀の涙程度な失業保険の給付金しか無い。生活保護を貰ったほうがマシなレベル……。いや、生活保護なら豪遊できるレベルの金額だ。全く……本当に国民年金を免除してもらってよかったと思った瞬間である。1円でも支出は少ないほうがいいからな。

 しかし支出を抑えたと言っても、10万単位で消費され、お金が無いのも事実。1日の食費を100円以内に抑えても、失った金は戻ってこない。いやむしろ100円以内に抑えないとやっていけないのだ。

 これはもう、やるしか無いな。確定申告を。少しでもお金を増やすために。



***



 というわけでやって来ました。税務署です。普通に暮らしておけば、全く関わることが無いと思っていた税務署にこんな若さで来ることになるとは学生時代の俺には想像もつかなかっただろう。

 俺は臆する事無く、税務署に入った。理由は簡単。体が限界だったのである。

 6月だとは思えない暑さによるスタミナの消耗。それに1日100円に食費を抑えていため、慢性的なエネルギー不足。2つの要因が重なって、意識を失う直前まで来ていた為である。一刻も早く涼しい所に入って座らないと俺の体と世間的な目がヤバイ。今の俺には治療費さえ払う余裕は無いのだ。そう考えての行動だった。


 市役所の中は俺の予想より涼しくは無かった。これが流行りのクールビズとか節電とかいうものなのだろう。全くもって糞である。だが、屋外にいるよりはマシなので、及第点といったレベルだろう。

 俺はとりあえず深呼吸をして息を落ち着かせる。うん、パッと作業を終わらせてパッと帰ろう。そして帰ってご飯を食べよう。今日のメニューは生姜焼き(肉無し)よ。やったー! と悲しい脳内会議を行いつつ、俺は受付へと臨んだ。

「すみませーん……」

と誰も居ない受付に声をかける。すると奥の方から男の人が小走りで近づきながら

「はーい」

と声を返してくる。俺は男の人が到着するのを待ってから、

「あのー、確定申告をしたいのですが、こちらで出来ます……よね?」

と聞く。確定申告をしたいのでお願いします。ではなく、出来ますよね? というのは俺の自信の無さの現れだ。初めてなので、右も左も分からないのでしょうがないっちゃあしょうがないのかもしれないが、改善したい部分の1つである。

「あ、はい、出来ますよ。でしたらそちらのお席に座ってお待ち下さい」

と言われ、俺は言われるがままに近くにあった長椅子に座る。

 しばらくすると先程受付をしてくれた男性とは違って、女性の方がPCがある小さなブースへと俺を案内してくれた。どうやらここで手続きを行うらしい。

「ここを利用するのは初めてですか?」

と初めに聞かれた。俺は嘘をつく理由も無いので、

「はい、初めてです」

と素直に答える。話を聞くに、どうやら初めての人は会員登録みたいな事をしなくてはならないらしい。

 別に断る義理も無いので、言われるがままに指名や住所の情報をPCに打ち込んでいく。


 おおよそのデータを打ち込み、いよいよ本題へと入ることになった。

「えーっと、この平成27年と28年の源泉徴収票がこちらになりますので、この値から障害者控除して欲しいのですけど、出来ますか?」

「あー……27年は出来ますが、28年は来年マイナンバーと一緒に持ってきて頂かないと出来ないです、申し訳ありません」

と今年の確定申告は断られた。まぁ確かに今年はあと半分残ってるから当たり前っちゃあ当たり前か……。

「来年だとマイナンバーがいるのですか?」

「そうですね。来年からの確定申告はマイナンバーが必要となります」

うわー……マジか……。マイナンバーどこやったかな……。

「そうなんですか……。でしたら昨年分だけよろしくお願いします」

と言って俺は、指示に従いながら昨年分の確定申告していく。その途中、

「そういえば、自宅で確定申告出来るソフトがあったと思うのですけど、そのソフトって何円位するのですかね?」

と聞いてみた。最悪28年分は自宅で確定申告で行う事も考えたからだ。

「えーっと、ソフト自体は無料ですよ」

あれ? 某家電量販店で特集みたいなの組まれてたからてっきり販売されているものだと思ったのだけれど……。と考えていると、

「――ですが、IC読み取りリーダーが必要なので、新しく購入されるのでしたら、その分の費用が必要となります」

と追加で説明された。当然俺はIC読み取りリーダーなんて持っているはずもなく、新しく購入しなければならない。

「あー、でしたらこちらで確定申告を行ったほうが安く出来るというわけですね」

「そうですねー、ですので皆さんこちらで確定申告を行われる方が多いです」

そうなのか。だったら俺も来年はもう一度来るかな……。と考えつつ、作業を進めて行く。


***


 税務署にきて30分ほど経っただろうか。ようやく全ての作業を終え、俺は無事に障害者控除分の金額を手に入れる事となった。

「大体1~2ヶ月以内に入金されるので、それまでしばらくお待ち下さい」

どうやら1日100円生活はまだ続くようで……。

「また、識別番号とパスワードの紙をお渡しいたします。もし、来年来られた際は、この番号を使いますので無くさないように取っておいて下さい」

と紙も渡される。なるほどね。次回からはこれを使えばもっと作業が効率化されるって訳か……。

「はい、分かりました。本日は色々とありがとうございました」

と俺はいつものお礼文句を言い、税務署を後にした。平成28年分もまとめて申告したかったな。と思いながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る