第17話 健康保険証はどうする

 突然ですが、みなさんはどのような保険証を使っていますか? 全国健康保険協会(教会けんぽ)が発行した保険証ですか? それとも、健康保険組合が発行した物? またまた、公務員の方が対象の共済組合? はたまた自営業の方が対象な国民健康保険ですか? もしかして、75歳以上が対象となる……いや、それは無いだろうな、多分……。

 ともかく、保険証の効果は一緒ですが様々な種類があります。私は会社の健康保険組合が作った保険証を使用していたのですが、会社を辞めてしまった為、保険証を返さなくてはなりませんでした。となると、今から入る健康保険は自営業の方が対象となっている国民健康保険なのでしょうか? いいえ、それは違います。

 実は失業から2年以内なら、勤めていた企業の保険証を連続で使い続ける事ができます(一旦返却して、再発行してもらうという形で)。ですので失業者は前の会社の保険料と、国民健康保険の料金を吟味した上で、安い方を選択することができるのです。

 今はこんなに詳しくなりましたが、当時の俺は全く知識が無く、保険証=協会けんぽだと思い込んでおり、まず、協会けんぽに突撃しました。



***



「すみません。保険証の事でお尋ねしたいんですけど、よろしいですか?」

受付のおばさんに向かって俺は聞く。こんな事を聞かずとも、いきなり本題から入れば効率は良くなるのだが、これがコミュ症だ。どうか許して欲しい。

「はい、ご用件は何ですか?」

「えーっと……健康保険証の月額料金を教えて頂きたいのですけど……」

と俺はおずおずと尋ねる。出来ません、って事は無いだろうけど、怒らせてわざと作業を遅くされたりしたら面倒臭いからだ。

「えーっと、保険証番号はご存知ですか?」


 そう、まず1つ目のポイントはここだ。退職したら保険証を会社に返却するのだが、その時に保険証の番号を控えて置いたほうが、ここからの流れがスムーズに行く。しかしながら、俺はそんな事は全く知らなかったので、番号の控えもとらずに返却してしまったのである。


「え……。すみません。私会社をクビになって、会社に返却したので、番号はちょっと分からないです……。もしかして番号が分からないと料金が分からない感じですかね……?」

俺はやっちまったか? という後悔の念と謎の申し訳の無い気持ちでいっぱいになりながらも尋ねた。これで駄目だと言われたら、どちらが安いか比較する事無く国民健康保険にするしか無い。

「あ、いえ、大丈夫ですよ。でしたらこの紙に、生年月日と名前、それと会社名を書いて頂けますか?」

とのこと。正直詰んだかと思ったが、どうやらそうではないらしい。俺は言われるがままに生年月日と名前、それと会社名を書いていく。

 全部書き終わると、その紙を持って受付の人は奥へと引っ込んだ。恐らくそこで特定作業をするのだろう。


 5分位経っただろうか。作業を終えたと思われる受付の人が、神妙な面で俺に真実を告げた。

「無いです」

は?

「検索したんですが、名前が無いのですよね……」

との事。ちょっと何を言っているか分からないです。つまり、俺は今まで偽物の健康保険証を掴まされていたという事なのか? つまり俺は保険証を不正使用していたと……?

「なので恐らく、前の会社の健康保険組合とかに入っていらっしゃったのでは無いのですか?」

「あー……」


 ここで2つ目のポイントだ。保険証にはどこの保険証か? というものがどこかに書かれている。例えば、けんぽ協会ならどこかにけんぽ協会とかかれているはずだ。それを見落とすと今回みたいに無駄足を踏むことになるので注意が必要である。


「そうですねー。ちょっと問い合わせて見ることにしますー。お手数をお掛けしました」

と挨拶をして、協会けんぽの支部を後にする。ええい、調べる順序は変更だ。前の会社の保険証の値段から調べてやろうかと思ったが、国民健康保険の値段から調べてやる。



***



 と、意気込んでやって来ました区役所に(川柳)。では早速料金の方を聞いて行きたいと思う。

「あのー、会社をクビになりまして……前の会社の健康保険料と、国民健康保険の料金を比較したいので、料金を算出して欲しいのですけど……できますか?」

「はい、できますよ。昨年の源泉徴収票はありますか?」


 ここで3つ目のポイント。国民健康保険料は前年度の収入によって決まる。しかし、各個人の収入を区役所が把握するのは5月であり(俺の県だけ?)、その時期以前では源泉徴収票が計算するのに必要となるのである。


「えーっと、持って来ていないのですが、持ってきていないと計算は出来ないのでしょうか?」

「そうですね……個人の収入を把握するのが5月なので、それ以前では源泉徴収票が必要になりますねー」

との事。なるほど……。源泉徴収票が必要なのか……。

「会社をご退職なされたとの事ですが、ハローワークで雇用保険受給資格者証を貰いましたか?」

「あ、はい。貰いましたが……それがどうかしましたか?」

確かに貰った。それは今もかばんの中に入れて持っている。いや、普通にかばんから出すのが面倒臭くて、そのまま持ち歩いているだけなのだが……。

「雇用保険受給資格者証の中に離職理由があると思うのですが、そこの番号はどうなっていますか?」

番号? はて……何番だったかな? 俺はかばんから雇用保険受給資格者証を取り出し、番号を確認する。

「31番になってますけど……」

これが何か意味するのか?

「31番でしたら、減免※1 の対象になりますね。なので恐らく前の会社の保険証を継続して使うよりは安くなると思いますよ?」

「あー、減免なんてあるんですかー」

正直減免の事については知らなかった。そして、区役所の人が減免について自分から教えてくれるとも思わなかった。個人的なイメージだが、ここで働いている人は聞かれたら答えるが、聞かれなければ答えずむしれるだけむしりとるってイメージがあったからだ。

「えぇ、ですので、源泉徴収票を持ってきていただければ、減免した料金で計算しますので、その事を告げてくださいね」

「はい、分かりました。では後日、源泉徴収票を持って来ますのでよろしくお願いします」

と挨拶をし、区役所から出て帰路についた。役所の人も以外にいい人なんだな。と思いながら。しかし、このイメージはこの後起こる市民税の件でバッキバキに壊れることになるのだが、その時は知る由もなかった。



***



 その後きちんと前の会社の保険組合に電話で問い合わせをして、料金を聞いた後、源泉徴収票を持って区役所で計算してもらった所、国民健康保険の方が安かったので、国民健康保険の方を迷うこと無く選択した。



※1 減免:減免できるかどうかは市の条例によって変わる。俺の場合はその後の失業手当の講習会できちんと説明があった。ちなみに3章の時系列はバラバラである。15話は4月~5月。16話は4月~6月。17話は4月。18話と19話は6月となる。

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