第14話 そして退職へ
「……………………………………………………………」
俺は黙って退職を認める旨の印鑑を複雑な思い、全てをぶつけるように押した。いや、正確に言うと押さされた。と言うべきだろう。なんせ会社都合の退職なのだから。
「はい、手続きは以上になります」
人事の人によるロボットのような定型文と手続きだった。あーあ、遂に退職か……。思い返してみれば、がむしゃらに頑張ってきた2年間だった。最新のパソコンが買いたいという思いから、死ぬ気でニートから脱出した2年前。その後はクビになってたまるかと、自分らしくないキャラを演じ、気持ち悪さを覚えながらも何とか終えた新入社員教育。そして業務だ。自分は忘れやすいのでメモをたくさん取った。全てが新しい事なので出来ないながらも一生懸命頑張った。上司の言う事を否定せず、お膳立てもした。「無理」という単語は一切言わず、自分なりに出来るように行動した。……が、この始末だ。新入社員の中で、一番早く退職という現実。あーあ、神様っていうのはとても不平等だ。なぜ、こんなに頑張ってきた俺が一番不幸な目に合わなくちゃいけないのか。全くもって分からねぇ。神は平等? ふざけるな。やっぱり、自分が幸せになるためには、自分が神になるしかないとつくづく思わされる。
それに親にも少しだけ申し訳ない。ニートから脱出しようとする俺をみかねて、母親は何を考えたか、占い師のところへ行った。結果として、俺は満足出来る所に就職できるというものだった。そのことを聞いた親は喜んだ。結果として俺は就職できたが、「満足出来る所か」と聞かれれば、今は首を縦に振ることは出来ない。その占い師は今、俺の事を「結婚は出来る」と言っているらしいが、実際どうだかは分からない。その言葉を聞いて親は喜んでいるが、外れる占い師だ。話半分に聞いておくのが
良いだろう。
その親にも今、かなり心配をかけている。早いところ就職を決めた方がいいのだろうな。それにVRのヘッドマウントディスプレイも欲しい為、早いところ就職先を決めなくちゃならないし……。
***
そこから先の事はあまりよく覚えていない。ただ、いつも通り会社に向かい、いつも通りに退社をしたのは覚えている。退社時刻になると、意識がふっと戻ってくるのだ。目の前には今日の業務の成果がずらりと並んでいる。そんな感じだ。
そして時は少しだけ流れ、2016年の4月になった。最終出勤日となった俺は、会社に社員証やその他もろもろの物を返す為に来客室に連れて行かれる。最後の手続きを終え、人事、部長、マネージャーが握手を求めて来る。俺は流されるまま、順に握手をしていく。その後、流されるまま退社し、ほぼぴったり2年間お世話になった会社を後にした。
2016年4月。俺は2年ぶりの無職と返り咲いた。
第二部 完
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