第2章 退職へのカウントダウン

第6話 そして迷走する

「やるか……ニコニコ生放送を……」

と店頭で決意を固めたはいいが、やり方が分からず結局諦めるのでは? と期待している読者が仮にいるとしたら、その考えは捨ておいた方がいい。なぜなら、俺は2年位前に、週2回の頻度で生放送をしていた事があるからだ。その時のノウハウはあった。又、最近暇な時に(遮音性が高いマンションに引っ越したこともあり)生放送に復帰していたのだ。

 ではなぜ店頭で新たに決意を固めたのか。それは単純に現状の視聴者数が少ないからである。

 時間がある方はニコニコ生放送のページを開いて、他の人が放送しているページを適当に見て欲しい。すると大抵は来場者数とコメント数が2桁も行っていない放送ばかりだという事を理解してもらえると思う。かくいう俺もそんな過疎放送を繰り返していた。しかし、こんな感じの放送を繰り返しているだけではコミュニケーション能力を向上させる事は不可能に近い。もっと来場者を増やして、もっとコメント数を稼ぐ必要があったのだ。

 そこで私はずっと前からやりたかった、10年位前にサービスを開始したの某大規模多人数同時参加型オンラインRPG(通称MMO)を生放送でプレイする事にした。MMOというゲームをプレイしている人は新規に対して案外面倒見がいい人が多い。(俺調べ)その人達のアンテナに何かが触れれば、きっとコメントで色々教えてもらえるだろうという判断だった。


***


 結果としてそれは大成功だった。2桁どころか3桁位まで行く事もあるコメント数。あまりの情報量の多さに混乱しながらも、有用なコメントはきちんとメモを取り、それをゲームに反映していく。どういう状況かというと、左手でゲームパッドのスティックを握り、右手でメモを取る。また、右目でコメント見ながら読み上げ、左目でゲーム画面を追いながら、自分の考えを言う。傍からみれば滑稽な格好だろう。けれども俺は知らなかったのだ、この方法以外にコミュニケーション能力を上げる方法を。分からなかった、この方法以外のコミュニケーション能力を上げる方法を。


 ちなみにこの放送を通じて、ADHDの特性である「たくさんの事を同時進行するのが苦手」というのを改善する訓練にもなっていたのではないかと、後々になって思う。結局効果があったのかどうかは今も分からないのだが……。



***

 さて、日中は会社で働き、夜は生放送でコミュニケーション能力の向上を図る。そんな生活を繰り返していたのだが、物事というものは本人の関する事なく、水面下でどんどん動いていくらしい。俺は部長とマネージャーに突然呼び出された。

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