第二夜 イマジナリーフレンド

私が幼稚園生のときは、ツインテールの戦うセーラー服が最盛期だった。例に漏れず私も大好きで、幼稚園の年長の時に書かれた誕生日記念の色紙には、大きくなったら、ピンクのちびツインテールになりたいと書いてあった。ちびツインテールって見た目が子供だけれど、大きくなったら小さくなりたいのか?とか、年中の時の色紙にはパン屋さんになりたいと比較的まともな現実味のある夢だったのに、その1年後は空想の世界に飛んじゃっているけど大丈夫?とか、突っ込みどころは多い。


それくらい戦うセーラー服が大好きだったので、当然グッズも多く持っていた。指人形や、ごっこ遊びに使える城、ぬいぐるみ、お弁当箱、水筒、手提げ袋、壁掛けカレンダーなど本当にたくさんあった。私はもともと女の子が好きそうな遊びやおもちゃが大嫌いで、誰かが親切にも買い与えてくれた着せ替え人形は着せ替えて遊ぶのではなく、ゴム製の足の弾力が気に入って、両足とも食いちぎってしまったし、スカートは登ったジャングルジムやフェンスにひっかけたまま気づかずに飛び降りるものだからいつも破いていた。そんな私が、戦うセーラー服にはどっぷりとはまったので、本人にとっては大きな変革になり、反動なのかハマり方も尋常ではなかった。戦うセーラー服の一員になって戦う夢は毎日のように見ていたし、傍から見ると一方的なのだが、戦うセーラー服たちとは知り合いや友達を通り越して親友のつもりだった。


母はそんな私をよくわかっていたから、寝ていても元気があふれている私が蹴破ったふすまの修理に、戦うセーラー服の古いカレンダーを切って使ってくれた。それは5人の戦士が水着を着て、海で遊んでいるものだった。私はすごく嬉しくてよくそれを眺めていた。


ところがある日私は魔がさした。戦うセーラー服が大好きなのは変わりないが、そのカレンダーに悪戯したくなったのだ。そして、私はツインテールの子の左頬にペンで穴をあけた。パッと見ではわからないように加減しつつ、ペン先でぐりぐりと穴を大きくする。どんどん面白くなっていき、描かれた髪の毛の、影に見えるように穴を広げていった。一通り穴を開け終わった私は、満足し、ペンをしまって別の遊びに没頭していった。


問題はその夜だった。それはいつもと同じように親友たちの夢だったが、彼女たちはすごく怒っていた。全員が体を紫色に染め、何かを叫びながら、こちらに向かってくる。手には刃物や錐のようなものを各々持っていた。私は怖くなり逃げようとしたがすぐに捕まってしまった。5人の彼女たちのうち4人は、一人ずつ私の手足を抑え、最後にツインテールの子が動けない私に迫ってきた。ツインテールの子は白目で口は耳まで裂け、許さない、許さない、と呟いていた。


「ごめんね、ごめんね、もうしない、もうしないから!」


私は穴を開けてしまったことを謝ったが、許してもらえなかったようだ。ツインテールの子は手に持った刃物を私の顔に突き立てた。

私は痛みで泣き、自分の泣き声で目が覚めた。もう朝だった。

むっくりと起き上がると、涙を拭く。嫌な夢をみた、と思い、両親が寝ている寝室へ向かった。両親はすでに起きていて、寝室でゴロゴロしながら他愛もない話をしていたので、私は安堵して、その中に混じろうとした。

すると、母が声を上げた。


「舞香、あんたその顔どうしたの!?」


「顔?」


「左のほっぺた、血が出てる!」


別に痛いところはないけれど、と左手で頬を触ろうとして、ふとパジャマの袖口が目に入った、さっき涙をぬぐったところが赤く染まっていた。

出血はしていたが傷は別段深くなく、母は絆創膏を貼ってくれた。

しかし、カサブタができるたびに気になってはがしてしまったので、今でもうっすらと跡が残ってしまっている。


私のイマジナリーフレンドはそれから、いなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る