夢幻の人 - 3 -
それから一時間目が始まり、二時間目と時間が経過するごとに俊樹の体調は悪くなっていく一方だった。
教科書を開いても文字が霞み、教壇で話す教師の声さえ耳鳴りに阻まれて理解ができない。
普通なら保健室へ行って横になればいいのではないかとなるが、この学園でそれは自殺行為とされている。なぜなら、養護教諭が真面目に仕事をしていないからだ。
生徒たちの噂に、今年度から着任した養護教諭は利用者の外見で仮病なのか、本当に療養が必要なのかを判断すると云うものがある。
それを知っていれば見るからに不良生徒の俊樹が、仮病扱いをされて門前払いを受けることは火を見るより明らかだった。
休み時間になれば、水那は後ろの席まで移動してきて友也と一緒に俊樹の様子を窺っていた。
不安で仕方がないと顔に出ている友也が、俊樹に何かを伝えようとする度に、水那は朝と同じ方法で彼の口を封じる。
また、俊樹も二人の不可解な行動に気がつかずに脱力したまま、一区切りである昼休みを迎えた。
午前の授業が終わり、離れ離れだった恋人と再会したかのような勢いで俊樹は机に熱烈な抱擁をした。
「俊樹、お弁当は?」
いつもは俊樹の机でお弁当を食べる水那が、今日は友也の机に包みを置いて訊ねる。
「いい……寝るから、食べて」
愛しい机と離れないままくぐもった声で伝えると俊樹はそれきり黙ってしまった。
友也と水那は友人が伸びている隣で昼食を摂り、言葉を交わすことなくお弁当の蓋を閉めた。
そしてつらそうに眠る俊樹を不安そうに眺めた友也が「水那ちゃん……やっぱり……」と眉尻を下げて水那に進言する。
しかし、水那は頷くことなくお弁当箱を包んでため息を吐いた。
「それだけは、絶対にだめ」
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