第10話;香の怒り

 南は、今日もいつもの時間にバイト先に向かい、明るい笑顔で働いていた。

 昨日のお礼と無事の帰宅を伝えると、麗那は、もう1度あの料理を作ってくれると言う。本当は直ぐにでも作ってあげたいのだが材料が切れてしまい、いつ手に入るか分からないそうだ。だが、遠くない内に食べさせてくれるとの事。

 南は、美緒を連れて来ても良いかと尋ねた。麗那は快諾し、楽しみにしてくれた。



 バイトが終わって直ぐ、南は美緒に連絡した。美緒も他の2人と時間が取れ、2週間後の週末に会う事に決まったと言う。

 場所は、勿論あのカフェレストランだ。会う度に足を運んでは飽きそうなものだが、学生の頃は毎週のように通っていたので、今はむしろ足りないくらいだった。


 博史からも連絡が来た。返事は予想通り、『信じられない。』だった。南は、近々もう1度作ってもらえるので、その時は証拠写真を撮ると返信した。

 また、悔しいニュースもあった。彼はまた、あの国へと出張に行くらしい。南には、鍋料理を食べた自慢よりも羨ましかった。

 この件に関して南は一切触れず、返信もしなかった。怒っている訳ではない。返事を受け取れなかった博史も、南の事を誤解しないだろう。

 2人の会話の内容は、未だに単純だ。まだお互いに言えない事、言ってはならない事があると思い、遠慮気味の会話が続いていた。




 そうして2週間が過ぎ、仲良し4人組は出会う日を迎えた。

 南はカフェに、いつものように美緒と一緒に向った。


「あのね、来週末に麗那さんが、あの料理を準備してくれるって言うんだけど、美緒は大丈夫かな?」

「えっ?本当に?私、呼ばれて良いのかな?物凄く楽しみ!勿論OKよ。」

「覚悟しといてね。匂いは相当キツイから。」

「ははは、任せといて。そう言うの、実は大丈夫なんだ。」


 美緒が卒業旅行で食堂に入らなかった理由は、雛達が嫌がったり怖がったりしていたからだ。それさえなければ、あの料理に挑戦していただろう。


 カフェに到着すると、またしても雛が一番乗りで席に着いていた。

 彼女達の指定席は一番奥、床が少し高い位置なったテーブルで、角に位置していた。4方の内の2方が壁になっており、それはガラスで作られた物だ。ガラスの壁の向こうには広々としたテラスが望められ、背の高い木が綺麗に並べて植えられていた。

 1人で訪れても過せる空間なのだが、雛が先に訪れた理由はそれではなく、4人で会える時間が少なくなった事を寂しがっているからだ。特に一番の親友である香は就職し、平日は勿論、週末も会えなかった。

 雛は、料理教室にはキチンと通っているみたいで、以前よりも指先の絆創膏が多くなっていた。頑張っているようだがその甲斐もなく、料理は上達していない様子だ。


「うわ~!2人とも久し振り~!元気してた!?」


 久し振りに、雛がピョンピョンと跳ねる。

 懐かしく思った2人は、溢れる笑顔を止める事が出来なかった。


「元気にしてたよ!ヒナはどうだった?」

「元気、元気!この前、料理教室でハンバーグ作ったよ。とても美味しく出来たんだから!」


 そのハンバーグには、雛の血が多少なりとも混じっていただろう。


「そう…上手くなったんだ。…凄いね。」


 話を半分信じられないまま、血が混じったハンバーグを想像してしまった南は、返事に時間が掛かった。美緒は雛の話を信じられなかったので、返事もしていない。


「ご免、待った!?」


 いつものように、少し遅れて香が到着した。雛はさっきよりも飛び跳ねながら、香の下に駆け足で向かって飛びつき、思いっきり抱き締めた。


「ヒナ、オーバーだよ。久し振りだね?」

「香~!本当に久し振り!ヒナ、寂しかった!香、連絡もくれないんだもん!」

「仕事中は、なかなか電話取れないよ。ご免ね?」

「ううん、大丈夫!さっ、行こ!?」


 雛は弾けんばかりの笑顔を作り、香の手を引っ張って席に戻った。

 彼女は嬉し泣きをしていた。相変わらず雛にとって、香の存在は大きいのだ。


「皆、久し振りだね?」

「うわ~!何か香、大人になった。落ち着いた感じがする。」

「へへ、そうかな?化粧もだいぶ上手くなったしね。」


 香は学生時代、化粧は殆どせず、髪はいつも後ろか両側で括られていた。短大に通っていた頃は高校生かと思われるくらい子供っぽい顔をしていたが、最近の香はだいぶと変わり、髪も南のようなストレートにして化粧も覚え始めていた。

 ただ、制服で仕事する彼女の服装は相変わらずで、ボーイッシュな感じの服装のままだ。


 4人はお互いの近況を報告した。

 雛は料理教室で多くを学び、腕が上達したと自慢した。しかし香は、雛の言葉を信じなかった。

 香は仕事にも慣れ、2つ上の同僚の友達が出来た事、最近はその人とバーに行ったり買い物に行ったりと、少し大人の遊びをし始めたと伝えた。雛が、膨れっ面で香を睨む。香はそれを宥めて、近々2人で会おうと約束した。

 美緒は転入した大学で、国際コミュニケーションや国際論などのグローバルな分野を学び、それがどんどん面白くなっていくと語った。彼女は将来の夢をキチンと見据え、それに努力を惜しまなかった。


「南は、最近どうしてるの?」

「前に話した、花屋さんでバイト続けてる。」


 南の番になり、彼女は麗那の人物像も少し話した。とても優しい人で、自分によくしてくれる事、花をアレンジする事がとても上手く、最近はそれを教えてもらっている事などを話した。

 そして、博史の事も話した。


「卒業旅行で私が迷子になった時、助けてくれた人いたでしょ?」

「あぁ、覚えている。顔は見てないけど、南、大変だったもんね?」

「その人と、連絡取れたんだ。」

「えっ!?本当に?どうやって?南、何の手掛かりもないって言ってたじゃない?」

「うわ~!ヒナ、ちょっと感動。ひょっとして、運命の人?」

「そんなんじゃないよ。ただの恩人。運命の人じゃない。絶対に。」

「どうしてそんな事が言い切れるのよ!まだ分かんないじゃん?」

「だって、ウエスト・Jの人だから…。」


 南にとってその名を出す事は、もう難しい事ではなかった。麗那から多くを聞き、博史とのやり取りも順調だった。


 しかし南は改めて、その名前や存在が、まだイースト・Jでは、特にこの席では難しい事を知る事になる。


「えっ?南、ウエスト・Jの人と連絡してるの?」

「あっ…。」


 香の顔が曇り、南はその表情に口を閉ざした。


「私が言ったでしょ?ウエスト・Jって国の名前なんか、聞きたくないって。」


 香の声が大きくなる。化粧を覚えて少し大人びた表情になった彼女は、その怒りを更に大きく表現していた。


「…ご免。でも、そんなつもりで言った訳じゃ…」

「そんなつもりって、どんなつもりよ!?」


 南が話し終える前に、香が突っ掛かった。

 雛は、香がまた豹変したと思い、何も言えずに香の手を握って宥めようとした。


「ウエスト・Jの話はしないでって、この前言ったじゃない?どうして話したのよ?」

「ご免…。でも、私の恩人の人だったから…。」

「あなたの恩人でも、ウエスト・Jの人でしょ?ウエスト・Jの人間なんて、皆大嫌い。」

「博史さんは、そんな人じゃないよ!」

「あり得ない!」


 南も負けじと、大きな声を出した。香の気持ちも分かる。でも、だからと言って博史を悪く言われる事は我慢出来なかった。


「あの人は、困ってた私を助けてくれたの。」

「それは彼が、南をウエスト・Jの人間だと思ってたからじゃない?イースト・Jの人だと知ってたら、助けてなかったはずよ。」

「そんな事ない!博史さんは、そんな人じゃない!!」


 2人は興奮し、残りの2人はただただ黙っていた。雛の目尻には涙が溢れ、美緒はただただ、暗い表情で下を向いていた。


 南は、少しずつ香に押されて始めた。博史を悪く言われる事に我慢出来なかったが、それを伝えようとする南の気持ちは、少しずつ弱くなっていた。

 博史の祖父を思い出した。彼は軍隊の将軍として、イースト・Jの人を大量に殺害した。今の香には言えない事であり、南の気持ちを弱くしてしまったのだ。

 ただ、彼の祖父は深く反省していて、後悔もしている。しかしそれも、この場では話せない。香がもっと誤解をし、博史は悪い人間だと決め付けてしまう気がした。


「ご免。香の気持ちに気付けなかったのは、本当にご免。でも、分かって欲しいの。博史さんは悪い人じゃない。困っていた私を、助けてくれた人なの…。」


 それでも南は、もう1度理解を求めた。例え他の人が憎くても仕方がない。博史を嫌いでも仕方がない。ただ、自分を助けてくれた人は間違いなく博史であり、彼は優しい人なのだと伝えたかった。会ってもいない博史を、悪人だと決め付ける事だけは止めて欲しいと願った。


 南の嘆願にも興奮を抑えられない香だったが、雛が泣き出したのを見て、どうにか落ち着く事が出来た。

 彼女は大きな溜息をついて席に座った。美緒が、そのタイミングで香に話し掛ける。香りの機嫌を取り戻し、南と仲直りをさせたかった。


「ご免ね、香。でも、南の気持ちも分かってあげないと。海外で迷子になるって、本当に大変な事だから…。南には博史って人が、良い人に見えちゃうのよ。」

「……。」


 美緒は博史の事を悪く言う事で、間を取り繕うとした。香にも、そして南にも我慢してもらう事で、お互いが譲り合えると思ったのだ。


「ほらっ、私達、香の就職祝いも買ってきたの。南がお金出してくれたんだよ?」


 美緒は続けてそう話し、南にプレゼントを差し出すように促した。

 南は焦ったように、急いでカバンから香の就職祝いを取り出した。


「何よ、こんなもの!これで私の機嫌が取れるとでも思ったの?」


 しかし香は、興奮した気持ちを完全に収める事が出来ていなかった。

 祝い物を差し出す南の手は払い退けられ、プレゼントは床に落ちてしまった。中身も確認していないプレゼントからは、割れた音が聞こえた。プレゼントであるリストバンドには、虹色に光るガラス玉が装飾されていて、どうやらそれが割れてしまった様子だ。


「香、酷い!どうしてそんな事するの!?」


 声を出して怒ったのは雛だった。彼女が怒る姿を、3人はこれまでに見た事がなかった。


「香、そんな人じゃないじゃん!?人から貰ったプレゼント、投げ捨てるような人じゃないじゃん!?いつもの香に戻ってよ!私、こんなのやだよ!」


 そう叫んだ雛は、遂に泣き崩れてしまった。

 南と美緒は、雛の姿に唖然とした。しかし、理由は理解出来た。香はウエスト・Jに対して、余りにも強い反発心を持っている。


 美緒は少しするとまた下を向いてしまい、それ以上何も話さなくなった。


「……。私帰る。」


 反省した香だったが、そうなると、余りにもこの場所に居場所がないと思った。

 香は自分の荷物を纏め、そそくさと店から出て行ってしまった。


「待って、香!ご免!本当にご免!」


 南は立ち上がって後を追おうとしたが、香の強情な態度に足を動かせなかった。


「……。」


 香が立ち去ったのを気配で感じた雛は、更に大きな泣き声を上げた。

 雛が泣き止むまで南は言葉を失い、美緒はずっと顔を下に向けたまま、何も出来なかった。



「ヒナ…ご免ね…。私が、香を怒らせちゃった…。」

「うう…。次の約束、出来なかった…。」


 泣き止んだ雛が、もう1度泣き出す。

 しかし南を責めるつもりはない。雛は過去の出来事について何も知らないので、あれ程に怒る香を理解出来なかった。そして国籍を問わず、南を助けてくれた博史を良い人だと考えていた。


 結局この日、3人は最初に注文したドリンクだけを飲み、食事もせぬまま別れた。


「………。」


 美緒も元気がなかった。でもそれは、香を怒らせた事が原因ではない。




 1週間後、南は部屋に美緒を招いた。夜には麗那の家にお邪魔し、鍋料理を食べさせてもらうのだ。本当は4人でお邪魔したいが、台所は5人で席に着くには窮屈だし、4人で押しかける事自体が、馴れ馴れし過ぎる。南は美緒だけを誘い、他の2人には申し訳ないと心の中で謝った。

 しかしこの前を思い出すと、当分は4人でお邪魔出来そうにない。

 雛とは、近い内に2人で会おうと約束を交わしていた。


 博史の話題になり、美緒はこれまでのやり取りを見せられた。

 パソコンを開き、メールを眺めた美緒は、そこで初めて南を信じた。疑った訳ではないが、偶然に出会った人をよく探せたものだと感心し、何よりも、本当にウエスト・Jの人と対話が出来る事に驚いた。可能な事だとは知っているが、実際に関係を繋げている人は、南が初めてだったのだ。


 南は美緒に、今日伺う麗那の生い立ちも話した。祖母が鍋料理の国の出身だと言う事は勿論、違う国からイースト・Jに移住して来た人で、2度の戦争を体験している事、西東関係なく、戦争がない平和な世界を願っている事を話した。


 時間になり、2人は麗那の家へ向った。美緒は、南の母親から自転車を借りた。


「あぁ、いらっしゃい。南ちゃん、待ってたわよ。」

「今日は、わざわざありがとうございます。友達も楽しみにしてました。」

「初めまして。美緒と言います。今日はお招き頂き、本当にありがとうございます。」

「ほほほ、そんなに畏まらないで。南ちゃんの友達なら、私には孫みたいなもんだ。気楽にしておくれ。」

「はい、ありがとうございます。」


 今日は店が休みなので、2人は裏口のインターホンを押した。

 裏口が開くと、神棚と階段が見える。南は2階に上がる前に、美緒に神棚の話をした。麗那が、博史の事やウエスト・Jを理解してくれる証なのだ。

 しかし美緒は神棚の事よりも、入った時から漂う匂いが気になった。卒業旅行の時よりも、先日訪れたレストランよりも、もっと強烈な匂いがするのだ。


 階段を上がると匂いは更に強烈になり、扉を開けると、台所から放たれる匂いに鼻が麻痺しそうになった。今日は麗那も気合いが入っている。

 美緒にとって不思議な事に、麗那は平然とした顔をしており、南は扉を閉め切った後、漂う匂いを嬉しそうに嗅いでいた。

 少し、南が別人に見えた。


「匂い…凄いね?」

「だから、覚悟してって言ったんだよ。」

「予想…以上…だよ。南は、全然平気?思いっきり匂いを嗅いでたけど…。」

「へへへ。慣れると、この匂いが堪らなくなるの。」

「ぞんだ…もどかな?」


 美緒は鼻声になっていた。手で鼻を摘むのは良くないと思い、鼻で息をするのを止めたのだ。

 博史が見せた仕草の影響か、それとも本当に癖になってしまったのか、南は嫌がるどころか部屋中に充満した匂いを、力いっぱいに嗅いで楽しんだ。


「さぁ、奥の方へお入り。」


 麗那が、2人を台所のテーブルへ案内する。

 台所に入るともう少しだけ、この強烈な匂いは酷くなった。だから美緒は、もう少しだけ顔を曇らせた。


「ははは!誰でも最初はそんなもんさ!でも、これが癖になるんだよ。」


 麗那にからかわれた美緒は、恥ずかしくも、申し訳なくも思った。


 具材は南のリクエストで、前回と同じ豚肉だ。他の具材を試しても良かったのだが、美緒には是非、あの国の食堂と同じ料理を楽しんで欲しい。


「さぁ、たんとお食べ。今日は女3人、楽しもうじゃないか!?」


 麗那が、冷蔵庫から取り出したビールの蓋を開ける。夕方からの食事会なので、今日は時間に余裕がある。


 グラスにビールを注ぐと麗那は先ず、美緒の皿に料理を盛り付けた。

 美緒は皿を両手で受け取り、少し見つめた。まだ、口にする勇気が沸かない。

 そんな美緒を見て、麗那と、そして南もニヤニヤしている。麗那はともかくとして、南は早くも味を占めており、その姿は麗那と同じく上級者並みだ。


「い、頂きます…。」


 美緒は2人に囲まれ、食べる他なかった。

 手を合わせた後、勇気を出して料理を口にした。すると美緒の、元々大きくパッチリとした目が更に大きくなり、時間が止まったように黙り込んでしまった。


「どうだい?美味しいかね?」


 麗那が、美緒の反応を気にする。

 美緒は決して、不味いと言う顔はしていない。それが分かっていた麗那は、ニコニコと笑いながら尋ねた。


「美味しい!本当に美味しいです!」

「あぁ…良かった。気に入ってもらえたかね?」

「うわ、この料理って、こんなに美味しいんだ!?」

「でしょ!?美緒はまだ、本当の味を知らなかったんだから!」

「本当に美味しい!びっくりした、私!」

「麗那さんが作る料理は、下手したら世界一美味しいんだからね!?」

「おやおや…世界一とは、これは嬉しいね。」

「本当です。博史さんが世界一、いや、宇宙一と褒めてた食堂と同じ味がするんです。」

「おやっ!?それじゃ、まだライバルがいるって事だね?まだまだ頑張らないとね。」

「あっ、そう言う意味じゃ…。麗那さんの料理が、宇宙一です!あの食堂よりも美味しい!」

「はっはっはっ!ありがとうね、南ちゃん。それじゃ、乾杯と行こうかね?」


 麗那は残りの皿にも料理を盛り、グラスを片手で持ち上げた。


「それじゃ、乾杯!」

「乾杯!麗那さん、ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」


 この料理は元々、煮込み料理に近い。卒業旅行でバーベキューと一緒に食べたスープは、アレンジされた簡易的なものだった。スープとビールではお腹が膨らんでしまうが、麗那は本来の調理、つまり煮込み料理を作ったので、ビールとの相性も良い。


「この料理はね、豚肉で作るのが一番美味しいんだよ。」


 彼女曰く、豚肉を使うと脂身から出る甘みとまろやかさが、匂いや味が濃いこの料理と合うらしい。魚や牛、鶏を使うと、好きな人は好きであるが匂いがきつくなり、味はもっと刺激的になってしまうと言う。


「あっ!しまった。写真、写真!」


 南は博史への約束を思い出し、携帯電話を取り出した。


「…。もし良かったら、皆で写真撮りませんか?」

「あら、恥ずかしいね。それ、博史って子にも見せるつもりなんだろ?」

「へへ、分かっちゃいました?この鍋料理と、一緒に食べた人も博史さんに紹介したくて。特に麗那さんは世界一の料理人だから、是非紹介したいです。」

「はっはっはっ!そんな言われ方をされちゃ、断れないね。」

「……。」


 高笑いする麗那に反して、美緒は戸惑った様子を見せた。


「美緒も…良いよね?」

「…うん…私…」


気になった南は、もう1度確認を取ってみた。それでも美緒の反応は悪い。


「どうしたんだい?」


 麗那も美緒に尋ねた。


「写真は…恥ずかしいな。私は、写らなくてもいいよ。」

「え~、何で!?何か美緒、変…。」

「ゴメンね。でもちょっと、写真はいいよ。」

「…そう?それじゃ美緒、シャッター押してよ。」

「うん、そうする。」


 何故か頑なに拒む美緒だった。

 南は仕方なく美緒に携帯電話を渡し、小走りする振りをしながら麗那の側に行き、写真を撮ってもらった。

 写真の出来に満足した南は続けて鍋の写真を撮り、携帯電話をしまった。


 食事に戻ろうとすると、美緒がまだ落ち込んだ顔をしていた。箸も進んでいない。


「…どうかした?美緒?」


 美緒は返事もせず、落ち込んだ表情を崩さなかった。

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