第22話/虹

 虹、虹色、複数の光、プリズムを通してでた光。


 水蒸気のレンズを通して、光のアーチがかかった。


 そんな現実的な虹ではなかった。


 貧血気味で、世界の色がバグった。


 世界が虹色になった。


 精神も体も限界だったのかもしれない。


 この虹をオレは知ってる。


 子供の頃よく見た。子供の時にこの虹を見るのが好きだった。


 その時も、体がダルくて、意識が朦朧としていた。


 ただの脳が見せた幻覚なのだとわかっている。


 それでも、子供の時、虹の先にあの子がいた。


 オレはあの子と接触した。自分であって自分じゃない何か。


 手を伸ばしたら触れることができた。何回も手を伸ばして触れた。


 あの子。自分であって自分じゃないあの子。彼女。


 オレはずっと、彼女を追いかけている。


 彼女に会いたくて、オレは今まで――


  *


 妄想だ。


 亡い女を想っているだけだ。


 虹のむこうに彼女はいない。いいかげん、いい歳なんだからその幻想を捨てろ。


 虹も、彼女も存在しない。


 虹はある! だから彼女もいる!


 嘘だ……。


 あの子はいない。


 あの子のことを忘れて、必死に生きて来た。


 あのこはいない。


 それでも どうしてもあの子に会いたい。


 会えない。


 この苦しみを誰も理解してくれない。理解できないだろう。


 ほんの少し手を伸ばせばいるような気がするのに、


 全部嘘なんだ。


 忘れろ。


 ……また何度も自分に言い聞かせる。


 ――END――

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