第21話/酷過ぎる戦場

 この戦場に来てどれくらい過ぎたか。


 まだ半年だ。


 気持ちは四年くらい戦ってるような気がする。


 ただ、一日を生き残ることが精いっぱいで、


 朝が来れば憂鬱で、戦場での昼飯は味がしなくて、夜になれば明日の戦場が怖くなる。


 それでも、生きて来た。戦場を生き延びてきた……。


 歯を食いしばって、震える足で立って、上がらない腕を前に突き出して。


 目を逸らしたくなる戦場を見据えて、常に考え思考を止めない。


 そうすれば、死なずに済むと思った。


『でも、戦場はそんな簡単なものじゃなかったね』


 ……彼女の言う通り、戦場はどんなに足掻いたって地獄でしかなかった。


 それでも、オレは、ダメだった。


 摩耗する精神で兵器の取り扱いを間違え、そのミスを埋めようとしてさらに大きな間違いを犯してしまった。


 膝から崩れそうになるが、そんなこともできやしない。


 それでも、それでも、それでも、それでも、


 そう思いながら前に進む。


 戦場で誰もが疲弊する。疲弊しないヤツなんていない。


 誰もが疲れ、苛立ち……間違える。


 そして間違いは起こった。


 マスターチーフがやられた。


 部隊の隊長がやられた。


 下っ端のオレは何もできなかった。起きたことの後を、サブチーフと三位がカバーするが、手に負えない。


 我に返って、部隊全員で対処してようやく乗り越えた。


 チーフの力がどれほど部隊にとって大きかったか、改めて思い知った。


 運よく、失敗はカバーできた。マスターチーフも帰ってきた。


 損失はあったが、最小で抑えられた。


 ……それで本当に良かったのか?


 逆に知ってしまった。戦場では誰でも死ぬ。死なないヤツはいない。


 ここは戦場だ。部隊で動いていても自分さえ良ければいいという考えをしなければ、死ぬ。


 死んでしまう。


 いつまでも新兵じゃいられない。新兵のまま死んでしまう。


 怖い、戦いたくない、戦場に行きたくない……。


 どうしてこんなことになってしまったのか泣いた。


 明日食う飯はここで立ち向かわなければ食えなくなる。ただそれだけが答えだ。


 愛する人を守る? 家族を守る? そんなことより、自分のことだ。


 自分が死なないために、戦場のど真ん中で生きなければならない。


「いやだ……戦いたくない」


『戦わなきゃ……死ぬよ?』


「いやだ! 戦いたくなんかない!」


『じゃあ死ぬしかないよ?』


「……いやだ」


『もうすぐ朝が来るよ』


「……」


『行ってらっしゃい、戦場へ』


 オレは、なんで戦わなければならないんだ……。


 再び戦場へ行くしか道は無かった。


 ここよりもっとひどい戦場があると言われようとも、今を生きられなきゃ、意味が無い。


「……死にたくない」


 その言葉だけを飲み込み、また戦場へ行く。


 自分が死なないために、誰かを助ける。


 自分が死なないために、率先して前に出る。


 自分がしなないために、やれることはなんでもやる。


 じぶんがしなないために、じぶんをころすしかない。


 戦場にオレはいない。いるのは一人の兵だ。


 昨日も、今日も、明日も、


 終わりが見えない戦場にいる。


――Fin―― 

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