第18話/ごみ貯めに落ち行く

 猛烈な暑さと、腐敗臭で目を醒ました。

 柔らかくも一部固い何かの上に寝ていて、コンクリート塀がのぞき込むように立ち並んでいる。

 青空と、全てを焼く事が義務かのような鮮烈な太陽。

 曜日ごとに決められたごみを出すよう約束された、ここはゴミ収集所。

「……く、くせぇ」

 今日は生ごみの日だっただろうか。柔らかいのは生ごみと分別をしない人間が出したペットボトルか何かが固い。

 体を起こすと腐敗臭がしみ込むだけでなく、太陽に舐められて汗臭さで鼻がひん曲がりそうだった。

 どこのごみ収集所だろうか……ああ、アパートの前のごみ収集所じゃないか。

 あと少しで家にたどり着いたのに力尽きたようだ。家に帰れてないし、誰も昼間まで起こしてくれなかった。世の中は世知辛い、そういうものだ。

 再び後ろにぶっ倒れる。ゴミ袋は実に柔らかい。二日酔いは無いので酒を飲んで帰ったわけではなさそうだ。

 そうだ、深夜帰り早朝出勤の地獄の六連勤が終わって気が抜けてたんだ。今日は仕事が無い。最高の一日が半日つぶれた。それもごみ貯めの中でだ。

「……嗚呼」

 腹も減っている。昨日の夜何も食わずに、否食えずに帰ったんだ。半日何も食わなくても死なないが、精神は死にそうだ。

 精神が死にそう? もう壊死仕掛けてる。仕事がいやだと思う気持ちすらなく、隷属し続けるだけ。何のために働くでもなく、無駄に無情に無価値に日常が消費されるのだ。

 背中に乗ってるのは何かしらのノルマ。背中から振り落とすのに努力し、焼け付くアスファルトの上を歩き続ける。あるいは冷蔵庫よりも寒い地下室で結果だけを出すために加熱し続けるかだ。

 こんな人生が面白いかどうかオレにはわからん。

 ただ言えるのは、

「……空は、ガキの頃と変わんねぇな」

 排ガスに黄ばむ青空は、ガキの頃と変わらない。

 風が吹いて、雲を運んでくる。夕立が大泣きしてオレを濡らした。


「もーいつまで寝てるの社畜くん。このままだと風邪ひくよ?」


 傘を差した仕事ちゃんが雨を防ぐ。

「いいシャワーじゃねーか」

「部屋に入ってからシャワー浴びなよね。服だって汚れるじゃないの」

「どうせ洗うからいいんだよ」

「どっちにしても起きなよ、お風呂上りにビール飲みたいでしょ?」

 彼女は、幻想かもしれない。でも、オレの好みを知っている。

「……そいつはいいなぁ、風呂上りにビールが飲みてぇ」

「じゃ、起きて部屋に行こっか!」

 バキボキなる背中をまっすぐ伸ばし、オレはアパートへ帰った。

 明日からまた仕事だ。それまで短い休日を満喫しよう。


――Fin――

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