第3話

「新兵ども、さっさと俺のトラックから降りて整列しろ!」


 トラックの助手席に座っていた下士官が怒鳴り散らす。基礎訓練キャンプでさんざん怒鳴られたりぶん殴られられたり、蹴飛ばされたりしたおかげで、新兵の僕達でもすんなりと整列が出来た。


「配属先の部隊を伝える、名前を呼ばれたらさっさと部隊に向かえ。マイヤー、ヴェンデル、シャハナー……」


 次々に新兵達は名前を呼ばれてそれぞれの部隊に散っていく。


「次、ブレンケ、ヴラーネク、アーメント、シャレット。第七偵察大隊第二中隊だ、行け」


「はっ!」


 駆け足でその場を離れる。


「ヴラーネクだ。これからよろしく」


 ヴラーネクが話しかけてきた。煙草を差し出されたのでありがたく頂く。


「マルティン・アーメント」


「エドヴァルト・ブレンケだ」


「コランタン・シャレット。東部の出身だ。よろしく」


 軽く自己紹介を済ませ、配属先の部隊を目指して陣地の中を歩く。占領した村を陣地にしているらしい。そのせいか、民間人らしき姿もそれなりにある。


「なあ、第七偵察大隊ってどこにいる?」


 ブレンケが手近なところで煙草を吸っていた兵士に話しかけた。歳は僕たちと同じくらいだ。


「第七偵察大隊? ああ、今朝街に行ったよ。戻りはいつになるかわかんねえけど。お前ら補充兵?」


「そうだけど」


「確か何人か残ってるはずだ。あっちの納屋のあたりにいると思う」


「ありがとう。あんた、名前は?」


「オイゲン・ベルクマン。よろしく」


 言われた通りに納屋の方に向かう。


「なあ、第七偵察大隊についてきいたことあるんだけどさ」


 シャレットが話し始めた。


「なんでも開戦してからの東部戦線での戦闘のほとんどに参加してたらしいぜ」


「開戦してからの全ての戦闘って……お前、東部戦線がどれだけ広いか知ってるだろ?たかだか一個大隊が全部の戦闘に参加するとか物理的に不可能だろ」


「そらそうなんだけどさ……俺だって訓練キャンプの教官が話してたのを聞いただけなんだよ」


「適当なこというなよお前……。あの、第七偵察大隊の方ですか?」


 くだらない話をしている間に納屋の前に辿り着いた。納屋の扉の前で食事をしていた兵士に話しかける。階級は伍長だ。


「ん? ああ、補充兵か。少尉殿が中にいる、そっちに着任の報告をしろ」


「はっ!」


 ブレンケを先頭に整列して納屋の中に入る。中には八人の兵士が思い思いの格好でくつろいでいた。


 少尉は……いた。奥で本を呼んでいる人だ。まだ二十代半ばくらいで、落ち着いた雰囲気の人だ。


「補充が来たか。報告を」


わずかに視線を上げて少尉が言った。


「ブレンケ二等兵以下四名、着任を報告します!」


「歓迎する。私はラファエル・ハイゼ少尉だ。さて、我が大隊は偵察と名前についてはいるが、やることは普通の歩兵と変わらん。レーガー、新兵をお前の小隊に配置しろ」


 ハイゼ少尉が納屋の隅でりんごをかじっていたひげ面の下士官を呼んだ。三十八年式短機関銃をスリングで吊っている。


「了解しました、少尉殿! 新兵ども、付いて来い」


 レーガー曹長について納屋を出る。


「シュミット、お前の分隊に二人やる。機関銃手に使え。ブレンケとヴラーネルだ」


「は、了解しました! よし、二人はついてこい。得物の使い方を教えてやる」


 体格のいい二人が機関銃手に選ばれたみたいだ。


「残りは俺の班だ。来い」

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