第10話 斜め後ろに

(小金目線)


 ショッピングモールとは凄いところだ。服に家具、食料品にホビー用品などなんでも揃ってるからな。

 ここに来れば、探してるものはなんでも見つかる…まさに子供なら憧れる場所の一つであろう。



「これにするか、それとも襟付きのシャツにするか…いや、ここはシンプルに白シャツでいこう」



「…あのさ、まだなの?」



 振り返ると、つまらなそう顔してスマホを操作する佐藤がいた。佐藤は既に、ここのショッピングモールに入っているユニコロで服を購入したので、手持ち無沙汰といったところか。



「お前はもう、ここで服とか買わなくていいのか?」



「うん。このショッピングモールの中で、ユニコロが一番安いと思ったからね。そこで全部揃えた」



「そうか…」



 そう、俺と佐藤は今駅前にある

ショッピングモールにいる。佐藤が部活休みということなので、学校帰りに寄ってみた。もうすぐ校外HRなので色々と買いたいものがあったからな。

 


「悪い、もう少しだけ待ってくれ。行きの服は決まったが、帰りに着る服が見つからないんだ」



「帰りぐらい、行きで着た服を着まわしすればいいんじゃない?」



「バカヤロー!お前は大バカ野郎か!」



「うるさ…」



 佐藤は手で軽く耳を押さえていた。

 どうやら俺の声が大きすぎたようだ。店内にいる他のお客さんも少し驚いた顔してこっちを見ている。なんか申し訳ないです。



「悪い。叫ぶつもりはなかったんだが思わず…」



「いいよ。どうせ『桜さんの前で一度着た服なんて着られるか!』…とか考えてたんでしょ?」



「お、お前…。なぜわかった…?」



「服選んでるときずっと一人で、『桜さんはこの柄好きかな…』『桜さんはこういうズボン好きかな…』『桜さんはこの格好タイプかな…』…って言ってたからね」



「なんだそれ…。ただの気持ち悪いやつじゃねぇか…」



「そうだね。同じ学校の友達だと見られたくなかったよ」



 だったら俺が独り言言ってるときに、その独り言キモイよとか教えてくれよ…。完全に自分だけの世界に入ってたわ。

 とりあえず、行きと帰りの服を買ってこのお店を後にする。出て行くときに、店員のスマイルが引きつっていたのは気のせいだろう。



「これで服は完璧だな」



「服も買ったし、どうする?帰る?」



「いや、お菓子を買わなくては。あと、トランプやUNOも買おう」



「バスの中でトランプはキツいんじゃない?」



「大丈夫。向こうのコテージの中でやるから」



 そう言うと、佐藤は少しため息つきながらも、横に並んでくれた。こいつ意外と優しいよな。後でジュースでも奢ろう。 

 ホビーグッズのお店を目指して佐藤と共に歩いていると、同じ高校の制服を着た女の子を発見。何やら古着屋さんでワンピースなどを見ているな。

 このショッピングモールは高校から近いので、よく生徒の溜まり場となっている。だから、同じ学校の生徒を見つけるのは容易いことなのだが…ま、まさか!?



「あっ、小金くん」



「桜さん!」



 そこにいたのは、今まさに片思い中の桜陽菜子さんだった。この広い世界で、同じ時間、同じ場所に出会えたのはまさしく運命ではないだろうか。きっとそうに違いない!



「よ、よっ。こ、こんにちは。いい天気で、でで、ですね」



「何動揺してんの。それに、ここ屋内だから天気も何も関係ないし」



 佐藤の正しいツッコミが入る。



「佐藤くんも一緒だったんだね。お買い物?」



「うん。小金と一緒に服とか買いにきたよ」



「そうなんだ!校外HRで着る予定の服をな!」



「…小金お前、テンション大丈夫?」



 佐藤の正しいツッコミ二回目入る。

 佐藤の指摘通り、ちょっとテンションがおかしいかもしれない。桜さんに出会えるとは思ってなかったから、嬉しすぎて喜びが爆発しそうなんだな。



「ごほんっ…。桜さんも買い物に?」

 


「うん。私も校外HRで必要なもの買おうと思って」



「そうなのか。今何見てるんだ?」



「ワンピースとかいいかなって思うんだけど…どうかな?」



 桜さんはチェックのワンピースを手にとって、こちらを向いた。

 これはまさか…あれですか。憧れていたシチュエーションの一つの、服屋で彼女が彼氏にこれ似合うかどうか聞k…



「うん。桜さんに似合ってるよ」



「ちょっ!佐藤!?」



「ほ、ほんとうに?ありがとう佐藤くん」



 桜さんはとても嬉しそうな笑顔になっていた。な、なんてことだ。この笑顔を佐藤に向けられるとは。

 ていうか、佐藤…お前何やってくれてんだ。好感度上げてんじゃねーよ、そこは俺が言うところだったろ!



「さ、桜さん。俺も似合うと思うぞ」



「ありがと」



 …一言で終わったぜ。



「じゃあ、私はお会計しに行くから…」



「うん。またね」



 桜さんが胸の前で小さく手を振ると、佐藤も顔の横で手を振っていた。

 …何だこの雰囲気は。まるでカップルのやり取りにしか見えないんですけど。

 俺も佐藤に負けじと両手でブンブン横に大きく手を振ると、桜さんは「ふふっ」と言って笑っていた。おお…可愛い。今日来て良かったわ。



「じゃあ、行こうか」



「えっ、もう桜さんと別れるの?」



 思わず佐藤に尋ねてしまった。

 すると、佐藤は不思議そうな顔していて。



「トランプとか買いに行くんでしょ?」



「トランプなんていつでも買える。今は、桜さんと一緒にいることが最優先だ」



 自信のあるキメ顔を作りながら、佐藤に答える。だが佐藤は無反応。反応してくれないのも、ちょっと寂しい。

 


「ふーん。それなら、俺は帰るかな。特に買うものもないし」



「そうか…」



 そのとき、ある考えが頭の中に浮かんだ。

 佐藤は帰る。残されたのは俺一人。もう少しで桜さんは会計から戻ってくる。

 つまり導き出される答えは…俺と桜さん2人っきりになれるぞ!



「佐藤。今日は付き合ってくれてありがとな。気をつけて帰れよ!」



「なんだか、俺が帰ることに嬉しそうな顔してそうなんだけど…。また」



 笑顔で佐藤に手を振ると、佐藤は苦笑しながらも出口の方へ歩いて行った。

 何言ってんだよ佐藤…。俺はお前が帰って寂しいぞ。別に嬉しいとかなんてありえないんだからねっ。

 その後、古着屋の入口付近で通行人を眺めていると。



「…あれ?小金くんまだいたんだ?」



 商品の入った袋を手に提げた桜さんが出てきた。俺の顔を見るや少しビックリしていたのは当たり前か。



「あ、ああ。桜さんを待ってたんだ」



「えっ…」



 すると、桜さんの顔が少し赤くなる。

 これは…チャンスではないか?



「桜さん、俺…」



「うん…」



「初めて会ったときから、ずっと…」



「…」



 喉から出てきそうな言葉を、俺は正直に告げた。



「好きです」



「ごめんなさい」



 …返答早くね?



「あ、あの。そんなに即答でごめんなさいだと、ちょっぴり傷つくんだが…」



「あっ、ごめんね!だって、いつも学校で好き好き言われてたから…分かり易くていいのかと思って」



 えっ、俺そんなに桜さんに好き好き言ってたの?なんだそれ、俺キモすぎるだろ。



「俺そんなに言ってましたかね…」



「直接ではないけど、よく小沢くんに『桜さんのこと好きすぎてやばい』とか、佐藤くんに『桜さんの隣にいたいから、席代われ』とか言ってるの聞いて…」



「…」



 これはあれだな。思い当たる節が有りすぎて、何も弁解出来ないパターンだ。  


 

「…なんかすまなかった。悪気はなかったんです。桜さんが嫌ならすぐにやめるんで、ごめんなさい!」



 思いっ切りよく頭を下げる。それはもう、頭が地面に着くのではないかというほどに。

 


「そ、そんな大丈夫だよ!私もそんなに気にしてないから」



 頭上から桜さんの声が耳に飛び込んでくる。

 気にしてくれないと困るんですけどね…と思いながらも顔を少し上げると、不安そうに佇む桜さんがいたので。



「じゃあ、これからもアタックしていい?」



「…良いよ」



 その言葉を聞いて俺は嬉しそうにガッツポーズすると、桜さんは少し恥ずかしそうに笑っていた。

 周りから見たらなんて女々しい男なんだろうと思われるだろうが、恋してしまえばこんなものなのだ。



「遅くなるから、そろそろ帰るね」



「そうだな。家はこの近くなの?」


 

 気になったので質問すると、桜さんの表情が強張る。えっ、いったいどうした?



「…」



「さ、桜さん?」



「…家の場所聞いてどうするの?」



「いやいやいや!別に桜さんの家の場所知りたい訳じゃないぞ!いや、いつか伺いたいとかそういう気持ちはあるかもしれないけども、俺はただ遠くだったら、ここから一人で帰らすのも危ないと思ってだな」



 なんか言葉がすらすらと出てきた。人って追い込まれるとすごい力発揮するんだな。いや、追い込まれてないけども。



「そうだよね。小金くんに限って、そんなことする人じゃないよね」



「そうだぞ。俺は君を傷つけることなんて、絶対にしないぜ…」



 キメ顔作って、ちょっとナルシストっぽく言う。これで惚れただろ…と思ったら、桜さんはなぜか一歩後ろに下がっていた。  



「うわぁ…でた」



「…そろそろ泣いちゃうよ。ショッピングモールの中心で泣き叫ぶよ」



「私の家は…ここから歩いて30分ぐらいかな」



「30分か。それなら家まで送るよ」



「そんな、大丈夫だよ」



「いや、桜さんに何かあったら心配だ。自宅まで何事もなく送り届けることが俺の使命だ!」


 

 胸を張ってそう言い放つ。下心も何もなく、ただ純粋に出てきた言葉だった。

 すると、桜さんは少し顔を俯かせてしまう。

 また何かやってしまったかと内心冷や冷やしていると、桜さんの口が少し開いて。

 


「…ありがとう」



 桜さんが少し照れていたように見えたのは、俺の錯覚だったのかもしれない。 



「じゃあ、行こっか?」



「お、おう」



 歩き出す彼女に置いていかれないように、少し斜め後ろから着いていく。

 隣に並ぶのはまだ緊張している自分がいたから…。

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