第9話 同好会

(小金目線)



 放課後、急に担任の瀬川先生に呼ばれた。俺一人だけ呼ばれたので、何があったんだろうかと不審に思いながらも、職員室の扉を開けた。



「失礼します」


 

「おおっ、来よったな」



 ちょうど入り口近くの机に瀬川先生は座っていた。今日も相変わらず、猫柄のネクタイを締めていた。 

 俺が来たと分かるとニコニコした顔で手招きしてくるんだが…。

 …なんだろう。嫌な予感しかしない。



「遅れて申し訳ないです。友達と話してたら、すっかり先生に呼ばれたことも忘れてて」



「ああ、かまへん。こっちもやらなアカン仕事あったから、それやってたわ」

 


 …微妙な違和感。そう、この先生の関西弁はどこかおかしい。元々は関東人なのだが、一年ほど関西にいて、そして戻ってきたら喋り方がこうなっていたと風の便りで聞いた。

 たまに変な関西弁になることから、『エセ関西弁』と呼ばれてることは言わないでおこう。



「それで…俺が呼ばれた理由ってなんですか?」



「ああ、それがやな…」



 そこで、先生は机の引き出しの中から一枚の紙を取り出した。



「お前、部活とか同好会に入ってなかったんやな」



「そうっすね。特にやりたいこともなかったんで」



「でも、この学校では一年生は必ずどっか入らなアカンてこと知ってるやんな?」



「…へ?」



「初めて知ったって顔やな…」



 あれ、そんなこと説明されてたっけ…。記憶にないわ。入学してから桜さんのことばかり考えてたから、先生の説明なんて吹っ飛んでるんだろうな。



「すいません…。まったく知らなかったです」



「そうなんか。まぁ、今からどっかの部活に入りゃ問題あらへんから、とりあえずよろしゅーな」

 


「え、はい?どういうことっすか…?」



 話についていけなくて尋ねると、先生は椅子から立ち上がった。そしていい笑顔を作りながら俺の肩に手を置いて、一言。    



「今週中までに、どっかの部活か同好会に入りーよ」



 入りーよってなんだよ…と思いつつも、自由だった放課後の時間がこれから無くなってしまうようだ……。



×    ×     ×


 

「…というわけで、よろしくお願いします」



「…」



「…」



 二人の女子生徒が、ポカーンとした顔で俺の顔を見ている。

 それも無理もない。いきなり部外者がやってきたみたいなものだからな。



「えーっと…冷やかし?ドッキリ?それとも、夢?」  



「部長。落ち着いてください」

 


「なんでこの巣窟にメンズが!?しかもイケメソ!?」



「部長痛いです。肩がちぎれます」



 赤い縁のメガネをかけた、黒髪ロングの部長と呼ばれる女子と、茶髪気味のセミロングで、黒縁のメガネをかけた後輩らしき女子が会話していた。

 なんか部長さんが取り乱して、その後輩っぽい女子の肩掴んでいるようだが…。



「あの…とりあえず、入部届け受け取ってくださいよ」



「あっ、はい」



 入部届けを部長に渡すと、その部長は食い入るようにその紙を見つめていた。おいおい、名前とクラスしか書いてないんだけど…。



「1年B組…?たしか小野さんも同じよね?」



「はい。一緒です」



 すると、小野さんと呼ばれる女子と目が合う。あっ、小野さん知ってるわ。うちのクラスの人だ。昼休みよく漫画読んでるから、気になってたんだよな。



「小野さんって、この同好会に入ってたんだな。いや、予想通りというか」



「そうだよ。うち漫画好きだし」



「俺も漫画好きだぞ!」



「そう」



 …とてもクールな反応だ。漫画以外興味ないといった感じなのか。



「えーっと…小金くん?コカネくん?コガネムシくん?」



「小金ですよ。てか、なんで最後コガネムシって言った!?」



「私は二年でこの同好会の部長の佐々木。よろしくね」 



「よろしくおなしゃす」



 部長の佐々木さんと固い握手を交わす。よかった。いがいとマトモな人で。

 彼女が読んでいたのだろうか、真下に男と男がまじあうページが描かれた漫画があるのは気にしないでおこう。



「小野さんもよろしくな」



「ええ。よろしく」



 手を前に差し出すも、小野さんはそれを無視してアニメの雑誌を読み始めた。おお、超クール。蒸し暑かった部屋が、なんか一気に冷え切ってきたよ。



「俺も『アニメ・漫画研究会』の一員か…。感慨深いぜ」



 無事、アニメ・漫画研究会のメンバーとして迎え入れられた。漫画とかアニメは好きなので、退屈しないで済みそうだ…。

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