第5話 がっちゃん

(小金目線)

 昼休みも終わり、お腹が膨れたということもあって緩やかな眠気が襲ってくる。このまま机に突っ伏して夢の世界に行きたいところだが、5・6時間目を使ってクラスで何かを話し合うらしい。



「英語が潰れた!ラッキー!」



 右隣の席にいる小沢が嬉々とした声で言った。

 たしかに、本来なら五時間目は英語だったからな。LHRでなくなってくれたのは有り難い。   



「ほんとだな。英語、たぶん俺当てられてたからよかったわ」



「がっちゃん英語苦手だもんね」



「うるせーな。…ん?がっちゃん?がっちゃんって俺のこと?」



 そう小沢に聞き返すと、小沢コクリと頷いた。



「そうだよ!『こがね』だからがっちゃん!」



 小沢は明るくそう言った。ほんとこいつはいつも楽しそうだ。一言言いたくなっても、なんだか許してしまいそうになる。 



「がっちゃんか…そうか」



「…がっちゃん」



 すると、後ろの席にいる佐藤がボソッと、ついさっき小沢に付けられた俺のアダ名を呼んだ。


 

「おい。お前は何自然と呼んでるんだ」



「いや、だって。小金くんじゃ呼びづらいし」



「それなら、小金様でいいだろ?」



「悪化してんじゃん!!?」



 すかさず小沢からのツッコミが入る。小沢はノリもいいのでボケやすい。



「まぁ、俺のことがっちゃんって呼ぶのは小沢だけだよな…うん?」



「どうしたの、がっちゃん?」



 俺はあることを思い付いたので、思わず左斜め後ろを向いてしまう。勿論、その方向には…



「桜さん!」



「は、はい」


  

 桜さんの名前を呼ぶと、桜さんは少し驚いた顔をしていた。彼女はあまり表に出す性格ではないようなので、小さな変化もどこか嬉しい。




「あ、あのさ」



「う、うん」



「お、俺のこと、がっちゃんと呼んでも…」



「いや、呼ばなくていいから」 



 すると、あの佐藤が静止させるかのように俺の顔の前に手を出してきた。

そして、桜さんに向かって良い笑顔を作っている。

  


「お、お前邪魔するのか!!?」



「大丈夫?桜さん怪我はない?」



「なんで俺が話し掛けただけで怪我するんだ!!?」



「う、うん。大丈夫。佐藤くんありがとう」



 急に佐藤に話しかけられたせいか、桜さんはぎこちない笑顔だったが、すぐにいつもの穏やか笑顔を作り佐藤に向かって感謝を述べていた。

 …えっ、俺が話し掛けたらまずかったの?てか、佐藤はなんで得意気な顔してんだよ。



「…この世界は残酷だ」



「がっちゃん?おーい、がっちゃん?生きてる?」



 小沢の呼びかけにも反応できないほど、ショックを受けていたらしい。

 桜さんに拒否されるなんて…悲しすぎるぜ。



「なあ」



「…あん?なんだよ鬼畜佐藤」



「なんか変な名前付けられてるけど…。それよりも先生が来たよ」



 佐藤にそう言われて前を向くと、教卓のところに担任の瀬川先生がいた。

 ガタイが大きいためか、なんだか教卓がとてもスモールに見える。瀬川先生はチョークで黒板に何かを書いていた。

 何々…校外HR。



「校外HR!!?」



「小金うるさい」



 続けてその隣に、瀬川先生は1泊2日と書いた。



「1泊2日!!?」



「小金ほんとうるさい」


 

「すげぇ…。たっちゃんが冷静にツッコンでる」



 小沢は佐藤のツッコミに感心していた。

 というか、佐藤は小沢にたっちゃんって呼ばれてんのか。そう言えば、佐藤の下の名前って『達也』だからな。



「校外HR…1泊2日…。桜さんと仲を深めるビッグチャンス…」



「がっちゃん、心の声が漏れてるよ」



 校外HRなんて桜さんに自分をアピールする大チャンスだ。普段は学校ということでセーブしているが、校外に出たら存分に彼女の傍にいよう!

 


「そしてあわよくば、良いムードを作り、そして告白を…」



「だから声が漏れてるって、がっちゃん」


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