第2話 桜さんとの出会い
(小金目線)
「小金くん、じゃあ」
「…またな」
後ろの席の佐藤に声を掛けられたので、とりあえず返しておく。佐藤はそのままエナメルバックを担いで教室を出て行った。
まだ高校に入学してから一週間、それほど知り合いもできておらず、ちょうど後ろの席にいた佐藤と話すぐらいだ。
佐藤はサッカー部に入るつもりなので、これから部活に行くらしい。まだ仮入部の期間だけども。
「はぁ…」
少しため息が出てくる。
高校生活始まったばかりなのだが、なんだかやる気が出ない。他の人達みたいにどこの部活に入ろーとか、高校に入って何がしたいとかいう願望もない。
「帰るかな…」
ぼそっと呟きながら、椅子から立ち上がる。通学カバンを肩に掛けて教室から立ち去ろうとした。
…だが、少しだけ気になって足を止めた。
「…」
「…何やってんの?」
「えっ?」
ちょうど、左斜め後ろの席に座る女子に声を掛けた。
いや掛けたというよりかは、自然に出てきてしまったのかもしれない。
だって、クラスメイトはほとんど仮入部とかでいないのに、この女子だけ帰らずにいたから不自然だった。
「…」
「…」
声を掛けたのはいいが名前が思い出せない。えっ、この女子誰だっけ?自己紹介のときでだいたい顔と名前覚えるんだけどな。それほど印象がなかったということか。
じっと目を合わせたまま時間はゆっくり過ぎていく。額から変な汗が吹き出てきたが、彼女がそっと口を開いた。
「えっと…、小金くんだよね?」
「お、おう。俺の名前知ってたんだ」
「だって、同じクラスだし…」
「そ、そうだな。知らなきゃまずい…よな?」
すると、その女子はじーっと俺の顔を見つめてくる。
「…」
「な、なんだよ?」
「小金くんさ、私の名前わかる?」
「わ、わかるぞ。えーっと、たしか…」
「…」
「あっ!佐藤さんだ!」
「…それは、小金くんの後ろの席の佐藤くんじゃないかな?」
おお…やってしまった。完全に名前間違えてしまった。
「すまん…。ちょっと覚えてない」
「大丈夫だよ。私よく存在感ないね、って言われるから…」
やばい、少し寂しそうな顔で笑ってる。絶対気にしてるパターンだ。
俺はこの場をどうしようかと内心慌てふためいていると、彼女の手元にあるものへふいに目がいった。
「…桜?」
そこには、今日提出しなければいけなかったプリントがあった。どうやらこのプリントを出し忘れたために、彼女は放課後も残っていたらしい。
そのプリントの右上には『桜陽菜子』と書かれてあった。きっとそれは、彼女の名前だろう。
「あっ」
「えっ?」
あっ、と声を出した彼女の方に目を向けると。
「…うん、桜です。思い出してくれてありがとう」
そう言ってにっこりと笑う彼女。
目元はきゅっと細められ、口角もきゅっと上がっている。
少しえくぼが出来るとか、笑ったらこんな顔するんだなーとかは、後々になって気付いたことだった。
この時この瞬間。自分は目が離せなかった。すごい可愛いとかスタイルがいいとかそういう訳でもない。どこにでもいそうな女の子。
ただ、あまりにも眩しすぎる彼女の笑顔に、そのキラキラした表情に、見惚れていた…。
「…俺、好きだ」
「えっ、何をかな?」
「桜さんのこと、好きです」
「え、ええっ!?」
出会ったばかりの桜さんに、俺は告白した。衝動だった。言わずにはいられなかったのかもしれない。
結果は…
「えーっと…、まだ小金くんのことよく知らないし、男の子と付き合うとかよくわからないから…ごめんなさい」
…振られました。
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