第6話:愛に溺れる……
「そ、それはなにアルネ?」
レイは強ばった体を自分で抱きかかえるようにして、私を見た。
いつもはクリッと大きな双眸が、今は歪むように細くなっている。
縮こまって丸まっている、しっとりとした一糸まとわぬ体。
その全身から、私は「怯え」を感じ取った。
特に瞳の奥でたゆたう怯えの色は、私の首筋から背筋に強い刺激を走らせる。
知らず知らずのうちに、口角があがる。
「これは、君の緊張をほぐすものだよ。これで君は解放される」
私はレイに、ひんやりとした袋に入った液体を見せつけるように突きだす。
彼女は、その冷気を頬に感じたのか、ぴくっと体を引く。
その表情には、未知に対する恐怖が浮かんでいた。
「それ……か、かけても……大丈夫アルカ?」
「心配ないよ。少し冷たいけどね」
彼女は私の言葉にまだ不安を隠せない。
だが、私は強気で半ば命じるように言葉をかける。
「いいね。今から君の体にかけるから、大人しくしているんだよ」
「…………」
彼女は黙ってうなずいた。
わかっている。彼女は強気に見えても、「命じられるのが好き」なのだ。
なすがままに、私に食べられることを期待している。
私はその液体の入ったビニールの封を切る。
欲望をそそる、刺激的で甘い香りが鼻腔にまで届いてきた。
私は一滴だけ、レイに滴らす。
「――はうっん!」
彼女が息を呑むような短い呻きをあげた。
それに反応するように、私の体も震える。
「つ、冷たいアル……」
あくまで「冷たくてでた声」だと、彼女は主張する。
しかし、私にはわかっている。
それだけではない……ということを。
「いくよ……」
私は液が跳ねないように、低い位置からまんべんなく彼女にかけた。
「――あっ! あああああぁぁぁっ!!!」
彼女の全身を包むように、液が絡みついていく。
その度に、彼女から嗚咽がもれる。
まるで、縛られていた何かから、解放されるかのように、だんだんと……だんだんと声を大きくして喘ぐ。
「ほら、これで終わりだよ……」
「…………」
袋の中身がすべて注がれた時、レイは身を委ねるように、その液に溺れていた……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
これが、【冷し中華】の「かけ汁」のかけ方だ。
なるべくわかりやすく書いてみた。
袋を破る時、勢い余ってこぼさないように注意しよう。
かける時は、先に塗った五芒星の頂点にあるカラシをたどるようにかけるといいぞ。
特に意味はないがね!
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