第2話:その名はレイ

 やはり、【冷し中華】には女性代名詞がよく似合う。

 あの華やかさは、「妖艶なる美女」を思わす。


 そう思わないか?

 ああ、言わなくともわかっている。

 つくづく、そう思ったことだろう。


 もっちろん、私もさぁ!!!


 え? 何を興奮しているのかって?


 そんなの当たり前じゃないか。


 【冷し中華】を目の前にして、冷静・・でいられる者などいるものか。


 【冷し中華】は、冷製・・だけどね……。



 …………。



 まあ、とにかくだ。

 誰がなんと言おうと、私の中で【冷し中華】は女性でしかありえない。


 ビコーズ!


 私の脳内では、すでに【冷し中華】は、萌えキャラ化・・・・・されているからだ。


 ふふふ……。

 わかっている。わかっているよ。

 その期待に満ち満ちた瞳に免じて、ここで一般に先駆けて、Web先行公開しようではないか。



 まず、その萌えキャラの名は、【中華なかはな レイ】という。


 なんと巧妙かつ、ひねられたネーミングセンス!

 我ながら惚れ惚れする!


 もちろん、見た目の設定もばっちりだ。


 絶対領域を超えて、危険領域にまで及ぶスリットが入った、華やかなチャイナドレス。そのシルエットは、実にタイトだ。


 胸はほどよく主張され、うなじから続く街道、鎖骨の丘を越えた先にそびえる、神秘の渓谷をしっかりと象っている。

 Mサイズのゆで卵ぐらいなら、すっぽり埋まる深き谷だ。オー、ワンダホー!


 逆に腰は遠慮気味に細く、腰からヒップに流れるラインも柔らかな曲線で、安産型とは言わせない。


 そのような大人の色香をわがままにまき散らす、過激に素敵な刺激カラシボディ。それに相反するような愛らしい表情は、出汁のきいた「かけ汁」のごとく、甘酸っぱさが残る幼さを見せている。

 アジア系黄色の肌は、まるで中華麺のよう。そこに飾られた、ゆで卵を半分に切ったような楕円を描く明眸、小さい鼻と紅生姜のような朱さの唇。


 そしてお団子が2つ作られた髪には、「冷」の文字のヘアピンがついている。


 ああ、なんてかわいいのだろう。

 食べてしまいたいぐらいだ。


 ちなみに彼女の口調は、「――アルネ」「――アルヨ」という似非中国語風だ。

 もちろん、日本人である。

 なにしろ、「中華」と言いながら、【冷し中華】は日本生まれだ。


 誕生日は、7月7日。

 なぜかというと、この日は「冷やし中華の日」として日本記念日協会に登録されている。


 申請したのは、【冷し中華】の愛好家たちらしい。


 たぶん、彼らも一人、一人ずつ、大切な【冷し中華】を心の中で抱いているのだろう。

 いや。下手すれば毎晩、【冷し中華】の萌えキャラを描いた抱き枕を布団の中で抱いて、夜な夜ながんばっているのかもしれない。

 たぶん、彼らはそれぐらい【冷し中華】を愛しているはずだ。


 ちなみに、【冷し中華】の愛好家たちはたくさんいる。


 たとえば、1975年にジャズピアニストの山下洋輔さん、SF作家の筒井康隆さん、タモリさんたちが、「全日本冷し中華愛好会」(全冷中)というのを作ったそうだ。


 どうだい? タメになるエッセイだろう。

 これだけでも、このエッセイを読んで、心の奥底、それはもう深層無意識レベルからよかったと思えて、【★★★】を入れたくなるはずだ。

 よしよし。遠慮なく入れたまえ。


 ……まあ、私もこれを書くにあたって、Wikipediaで調べて、初めて知ったことをひけらかせただけだけどね!



 そんなわけで、今更だけど書いておこう。

 もうお分かりの通り、この作品は【冷やし中華】について変質的に語るエッセイだ。


 …………。


 いや、待て!

 なに、ブラウザを閉じようとしている!

 [戻る]もやめて!

 お願いだから、ちょっと待ってください!

 まだ慌てることはない。

 私たちの熱い夜は、今始まったばかりじゃないか!


 とりあえず、次に語るこのエッセイの方針を読んでからにしてもらいたいのだ……ね?

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