第7話

 もう、マジでありえねーですよ。

 いやさ、聞いてよ。

 あのルームメイトのボクシングオタク。

 朝ごはんとかお昼のお弁当とか作ってくれるのはありがたいですよ。しかも栄養のバランスが良くて、その上おいしいときた。あれ、私、女なんですけど、大丈夫なんでしょーか、なんて不安になるくらいですぜ。「ボクサーなんだから当たり前だろ」とか言ってたけど、たぶん違う。あれは性格だ。とことん追求しちゃうタイプだ。付き合う人はたいへんだねー。私はマジで検便……、勘弁だ。

 しかもさぁ。テレビ一切見ないの。

 なにしてると思う? 

 ネットでボクシングの試合観戦だよ。いつもいつも熱い拳の動画。ありえなくね?

 四六時中、殴り合いのBGMですわ。血が飛び交ってますわ。最悪っす。こっちはエロ動画のBGMの方がばっち来いやーなんですけどね。ドッカンドッカンよりも、ズッコンバッコンが聞きたいっつーの。まぁ、こっそりと部屋を覗いたときに、電気マッサージとかDVDとかのエログッズを探していたらコンドーム発見したんで、おあいこですけどね。ちょっと満足したっす。

 といってもさぁ。

 やっぱり、下校時の買い食いとかしたいよね?

 それがさぁ、あのボクシングオタク……、もうボクオでいいや、ボクオで。んでさ、ボクオが下校のときにいるわけよ。いつもいつもいつも、校門の前で、ボクシングで戦うフリをしながら。そりゃないでしょ。あとで聞いたのよ。「なにしてんの?」って。そしたらボクオ、なんて言ったと思う? あいつさ、「シャドーボクシング」だって。そんなことが聞きてーんじゃねーですよ。なにしてんのって、意味が違うっつーの。こんなところでそんな恥ずかしいことしないでよ、て意味だったんだぜぃ? 国立大のくせに、ボクシングとかしてるし、アホなんじゃないかって思うよ。

 でさ、これがいやなことに。

 あいつ、出身校がここらしいのよ。

 担任とも、三年間ずっと一緒だったらしくてさ、異様に仲イイし、最低ですわ。逃げ道ほちーでちゅ。

 それからね、朝とか夜とか、毎日毎日、走ってるわけよ。

 私の立場がないっつーに。

 ダラダラ、グダグダ生活したいのよ、私は。

 けどさ。目の前でそんなことをずっとやられてみ?

 思わず私、自分のおなかをつねっちゃったわよ。ぶにって。ええそうよ、ぶにってなったわよ。ぶよぶよですたい。3DSでぷよぶよやってる場合じゃないですよ。わぉ。上手かった? ねぇ、上手かった? ……はい、ごめんなさい。オヤジですね、すみません。

 オヤジついでに言うけどさぁ。

 あいつの身体、ちょっと見ちゃった。んー、なんていうか、綺麗な乳首ですね、と。じゃなかった。イイ身体してるじゃねーですか、ぐひっ、……でもなかった。締まった身体してんのよ。やっぱさ、ボクサーって、いいわ。見た目は。エロい身体は鑑賞にもってこいね。……違う、違うの。そうじゃなくて、身体を鍛えることって、ちゃんと効果あるんだなぁって思うよね。ホラ、基本、何もしないからわかんないじゃん。だからさ、料理番組の3分間クッキングみたいにさ、こちらが20分加熱したものです、もとい、こちらが毎日筋トレをし続けたものです、なんてあからさまな結果が見えるわけよ。それなら私にだってできるわ、とか思ったらいけないですよ。できませんでしたから。ダイエットとか、続かないよねー。

 あとね。

 腹筋とかもやってるんだけどさ、きついわぁ。え? 洗濯物の量? 違う違う、洗濯もあいつがしてるから、きついのは洗濯物の量とかじゃないよ。そういえば、パンツとかブラとかも洗ってもらってるけど、なんかマヒしたわ。どうでもいい。どんどん洗っちゃって。汚いものは綺麗にしないとね。それより腹筋よ、腹筋。つまり運動ですよ。なんかさー、「私もしなきゃいけないの?」って気分になるわけよ。でもさ、さっき言ったじゃん? ぼよんぼよんの、腹。ボインボインなら言うことないんだけどねー。……あ、やば。自虐して、傷ついてしもうたわ。ええじゃないか、ええじゃないか。ぼいんぼいんぼいんぼいん。……うん。なんでもない。ちょっとわさびが強くて。

 話かえよ、話。

 そうそう。

 体重計も朝昼晩、計ってんの。今日は何百グラム減ったとか増えたとか、どのトレーニングしたら何百グラム減るとか何食べたら効率がいいとか、もうええっちゅーねん。聞きたくないわ、そんな話。好きなもんとか食べまくりたいわ。食い倒れたいわ。たこ焼き、お好み焼き、最高っすわ。ご飯と一緒には食べれないけど。

 ご飯と一緒とか、あれ、どーなんだろうね。まぁ、わからなくはないよ。塩っ気のあるものとご飯でしょ? 理論的には。でも感情的に無理だわ。挑戦しよーって思えないもん。まず、お好み焼きだけでおなか一杯だしね。それに、確実に言えるのは、あのボクオはしなさそーだってこと。非効率とかいって、食の改善を求めてきそーだわ。やめちくり。恥ずかちいから。黙ってそこでシャドーボクシングでもしてろって言いたくなるわ。あー、でもなんか、喜んでやりそうだから、始末に終えないわ。

 というのが、今日のお昼休みでの直子との会話です、はい。

 話してよかったよ。

 直子もエロイってことがわかったから。

 なんでエロDVDで反応してんのさ。

 なんで電気マッサージ器で反応してんのさ。

 なんでコンドームで反応してんのさ。

 乳首。

 腹筋。

 裸。

 そりゃーねぇ。

 想像するのは自由だけどさぁ。

 ヨダレはねぇっすよ、直子はん。

 あんさんの、人の家政婦を見る目、最近、やべぇっすわ。

 たまにオカズにしてること、バレバレっすよ。

 少し引きましたわ。

 え?

 私?

 シャワーで……って、ナニ言わせてんの。

 そんなことよりさ。

 そろそろ止めない?

 この手紙。

 先生がやばい顔してるんだけど。

 これ、見られたらキツイよね?

 と。

 ここまでが直子と授業中にこっそりした手紙のやりとりですたい。

 手紙は没収されました。

 女の先生でよかったよ、本当。

 え?

 真面目ヅラ?

 止めた止めた、止めましたよ。

 やってられるかーってヤツっすよ。

 私は今、青春を謳歌してるわけですよ。

 がおー。


 

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