【公式恋愛パロ】「狂犬と暴力的な彼女~キス&ステイ~」(4)【雷門×チカ】


 セックスの後、チカは足をばたつかせ、言った。

 

「なんか、決まってた感じがすんだよな」

 

「何がだよ」

 

 俺は、満腹の獣のように、くつろいだ声で返した。

 

「なんつうか、はじめてお前をみつけた時、万引き犯を殴って、店員に取り押さえられてるお前をみたとき、ぴんときたんだよな」

 

 不思議がりつつ、続きを待った。

 

「こいつは、きっとオレを好きになる。そんでオレは、お前のモノになる。そんな予感が、頭からつま先まで、走ったんだ」

 

 チカは、なんでもないことのように、一層、足をばたつかせる。

 

 俺は、その足をつかみ、やめさせた。

 

「恋に落ちた、ってやつか」

 

「ちげえよ。もっと直接的で、野性的なやつだよ。あ、こいつに抱かれてえ。そう思ったんだ」

 

 チカは、いたずらっぽく笑うと、俺の腕を、つかまれてないほうの足でった。

 

「すげえな」

 

 さすがお前だぜ、と感心しながら、チカの頭にキスを落とした。

 くすぐってえ、とチカはけらけらと笑い、俺はそんなチカを、抱きすくめた。

 

「でも、俺もかもな」

 

 ん? とチカが、腕のなかでたずねる。

 

「お前をはじめてみたとき、お前の手に触れたとき、ハラハラして、ゾクゾクした。今から考えれば、俺もあの時すでに、お前に欲情してたのかもしれねえ」

 

「それいいな」とチカは、俺の胸に、再び顔をこすりつけた。

 

「じゃあオレ達、一生離れらんねえな」

 

 ん? と今度は俺が聞き返した。

 

「だって、それって、運命ってことじゃん。なあ、運命っつーのは、決して逃げらんねえもんなんだってよ」

   

――そう、たとえどんなに否定して、拒絶して、泣いて嫌がっても。

 

「オレ達は、永遠に、この運命の糸に縛られあうんだ」

 

 そう、歌うように言って、チカは至極しごく嬉しそうに、しがみついてきた。

 

「そうだな」

 

 俺は、チカを優しく離すと、もう一度ベッドに沈めさせた。

 

「じゃあ、さっそく愛し合わねえとな」

 

 同感、とチカは言って、俺に腕を伸ばした。

 



 後日、チカの家に行った。

 

 愛人だという女も、チカの親父も驚いていたが、俺は構わず頭を下げた。

 

「どうも、そちらの娘さんと付き合っている者です」

 

 なるべく、ちゃんとした言葉使いになるよう気をつけたが、もしかしたら、ところどころ、噛んだかもしれない。

 

「な、なんだ君は……」

 

 男遊びを許していたくせに、親父の反応は、いっそ小気味いいほど悪かった。

 

「まさか、千夏ちなつにもう手をだしたのか!!」

 

 顔を真っ赤にして、いまにも、つかみかかりそうな親父に、ああ、こいつ矛盾しているな、と皮肉気な笑顔を返しつつ、俺は言い放った。

 

「ああ。千夏は、チカは、もう俺のモノだ。あんたの所有物じゃねえ」

 

 泡をくったように黙った親父が、わめき散らす前に、俺はさらに爆弾を落としこんだ。

 

「だけど、俺はあんたじゃねえ。ちゃんと、ケジメは取る。――お父さん、千夏を俺にください」

 

「――君、何を言ってるかわかって……!!」

 

 髪を振り乱し、いまにも、つかみかかってきそうな、親父の腕をつかみ、俺は言った。

 

「俺は、こいつを一生大切にする。もう誰にもやらねえし、泣かせねえ。それが、あんたにできるのか?」

 

 親父は、ぐっと口をつぐみ、黙った。

 

 愛人の女は、おろおろ、と目線をさまよませている。

 

「話はついたな。もう、お前らの好きにはさせねえから。チカは、今日から俺の家で暮らす」

 

 不思議なほど、黙りこくっていたチカは、「じゃあな」と親父の肩を抱き、ボストンバック片手に、俺に続いた。

 

「本当に、よかったのかよ」とチカは、俺の後を、ててっ、と歩きながら、息を弾ませて言った。

 

「お前こそ、俺についてきてよかったのかよ」

 

 今ならまだ戻れるんだぜ、と暗に言った。

 

「別に、オレは親父のペットじゃねえし、自分の行きたい方向に行くっつの」

 

 言って、隣に並び、にやりと微笑んだ。

 

「――なあ、今、何考えてる?」

 

「お前のウエディングドレス姿」

 

「ばっか、まだはええよ」

 

 チカは、俺の体をひじでつつくと、俺より先に、俺の家の玄関に向かって、けていった。

 

 そうして、ぱっと振り向き、太陽に溶かした蜂蜜はちみつみたいに微笑った。

 

「なあ、オレもお前のこと好き! 愛してる!!」

 

「――知ってるっつの」

 

 俺は苦笑しながら、チカの後を追った。

 


 これから、色々なことが、それはもう、嫌ってぐらいあるだろう。

 それこそ、面倒くさいことも、山積みだ。

 

 だが、俺はこの愛しい女を守るためなら、なんだって、できそうな気がしていた。

 

 三年後、俺は、こいつとキスをする。

 それは、誓いのキスだ。

 

 いるかいねえか、わかんねえ神サマの前で、永遠の愛を誓う。

 

 それは、運命とやらの糸で縛られた俺たちが、その運命に殉職じゅんしょくし、いつか果てるまでの契約だ。

 

 いつかそう、こいつが俺の子を産んだら、その時は、言ってやろうと思う。

 

 俺がいかに、こいつを愛しているか。

 こいつのためなら、いかに、死ねるか。

 

 そして、こいつをまもって死んでいくと誓った、その言葉を繰り返すのだ。

 

 俺たちの子は、きっと微笑って、こう言うだろう。

 

「――そんなの、知ってるっつの!!」

 

 そして俺は、その小さな頭をがしがしと撫で、チカは、頭ごと、ぎゅっと抱きしめるだろう。

 

 未来予想図は、果てしない。

 

――オレは、今、最高に幸せだ。

 お前もそうだろ?

 

――なあ、俺の、最高しょうりの女神様。

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