【公式恋愛パロ】「狂犬と暴力的な彼女~キス&ステイ~」(3)【雷門×チカ】



――失敗した、と思った。

 

 やつらは、武器を持参していた。

 

 バットで殴られ、時代錯誤じだいさくごなメリケンサックで、めちゃくちゃに殴られた。

 

 俺だって、腕には自信がある。

 

 だが、多勢に無勢、さらに、武器携帯とは、相手も抜け目がなかった。

 

「もう終わりでちゅかあ?」

 

「ひゃはは。お前の彼女、警察呼ぶ気配もねえじゃん。コレ完璧に捨てられたな」

 

「今の気分はどうですかあ? 捨て犬ちゃあん?」

 

「てめえら……」

 

 もう、キレる気力もなかった。

 だらり、と腕を下げ、硬い地面に押し倒されたまま、自分の甘さを呪った。

 

 チカは、うまく逃げられただろうか。

 

 ふと、あの勝気な、だが無邪気な笑顔が浮かんだ。

 

……ああ。アイツが無事ならいい。

 それだけで、俺はもう、ここで、くたばって死んだってかまわねえ――。

 

 

 

 その時みえた、光と、足音を、俺は一生忘れないだろう。

 

 男どもが、目をむく。

 

 俺は、痛む首を動かし、その方向をみた。

 

「ヴァルハラレディース、一か条。女に手を出す奴は、万死ばんし

 

「ヴァルハラレディース、一か条。袋叩きは、正義のためだけに」

 

「一か条。あたし達は、おまえらを許さねえ。」

 

 そこに現れたのは、めいめいに武装し、赤いスカーフを巻いた女達だった。

 

 ヴァルハラレディース。聞いたことがある。

 

 このあたりを根城ねじろにする、女暴走族。

 

 一説では、政界ともつながり、ここら一帯の風紀を取り締まっているという、正義の番人<ジャスティス・プリンシバリティ>。

 

「チカ、やれるな」

 

 正面に仁王立におうだちちした金髪の女が、くい、とあごをひき、その後ろから、華奢な女が姿を現した。

 

「……チカ」

 

「ようお前ら。よくも、オレの男をやってくれたな」

 

 チカは、金属バットをかまえ、男どもを見回した。

 

 そして、最後に俺をみると、一瞬泣きそうに顔をゆがめた。

 だが、きっ、と眉を吊り上げると、男どものリーダー格に近づいて行った。

 

「……ひっ……おい、何するつもりだ、このアマぁ!」

 

 情けない声を上げた男は、次の瞬間、顔面をけられた。

 

――ガツッ!! 

 痛々しい音がし、チカのミュールのヒールが、その鼻のあたりにめりこんだ。

 

「痛っっ……!!」

 

 顔面に手をやった男は、その鼻が折れ、血が溢れ出しているのをみて、一瞬で蒼白になった。

 

「ひ……っっ、こいつ、バケモノかよ」

 

「信じらんねえ」

「悪魔だ」

 

 男どもの間に、動揺が走る。

 

「これぐらいで済むと思ってんのか?」

 

 チカは唇を吊り上げると、次は、腹を蹴った。

 

――ドゴッ!! 

 ありえない音がし、リーダー格の男は、腹を抱えてうずくまった。

 

「次は、どこから殴られたい?」

 

 チカは、その瞳に凶悪な炎を灯すと、その金属バットを勢いよくふりあげた。

 

「ひ……ッッ!! す、すいませんっ! すいませんでしたあ!!」

 

 男は、地面に頭をつけ、土下座した。

 

「もうしねえ?」

 

 チカは、ねだるような甘い声で、男の顎を持ち上げた。

 

「――しません!! おい、お前ら、そうだよな!!」

 

「……ハイ!! しません!!」

 

 ヴァルハラレディースに囲まれ、メンチを切られたモブ男たちは、皆一様にうなずいた。

 

「じゃあ、お前ら、今日からあたし達の奴隷な」

 

 金髪の女が、かかっ、と愉しそうに笑い、女どもがそれに続いた。

 

 男どもは、ショックを受けたような顔をしていたが、やがてしょんぼりとうなだれ、「……ハイ」とうなずいた。

 

「よーし、じゃあさっそく、町内のゴミ拾いでもしてもらおうか。お前ら、行くぞ!! こいつらがサボらねえか、監視しとけ!!」

 

 金髪の女は、チカに歩みよると、拳を突き合わせた。

 

 チカは微笑むと、女どもと、肩を落としながら、それに続く男どもを見送った。

 

「――ん」

 

 チカは、地面に転がったままの俺に、手をさしのべた。

 

 俺が手をつかむと、よろめきながら立たせ、そして、大きすぎる体を、包み込むように抱きしめた。

 

「だせえの。なに、こんなにケガしてんだよ。お前のかっけえ顔が、だいなしだぜ」

 

 そう言って、俺の頬を、その柔らかい掌でなぜた。

 やがて、どちらともなく、唇が重なった。

 

 いや、先に口づけたのはチカだろう。

 

 俺たちは、唇を食みあい、舌をからませ、腰に腕をからませ、そして、もつれあうように倒れこんだ。

 

「……なあ雷門、しようぜ」

 

「……ああ。家に帰ってからな」

 

「……ケチ。ヤらせてやんねえぞ」

 

「どの口が言うか」

 

 俺たちはくすくすと笑いあい、ふたりで支え合いながら、俺の自宅へと戻った。

 

 先に服を脱いだのは、やはりチカだった。

 ケガをした腕で、服と格闘している俺をみて、ブラジャーを外し、パンツ一枚で、俺の服に手をかけた。

 

「おせえ。まったくお前は、世話が焼けるな」

 

 そして、優しく俺の服をはぎとると、俺をベッドに押し倒し、胸のあたりにキスを落とした。

 

「あったけえ」

 

 言って、そのまま、俺の胸に顔をのせ、ばくばくいう、心臓の鼓動を盗み聞くように、頬をこすりつけ、耳をすませた。

 

「なあ、雷門、オレのこと好き?」

 

 耳元をくすぐるような、甘い声。

 

 チカは、まぶたを閉じ、俺の返事を待っているようだった。

 

「――好きじゃねえ。……とっくに、愛してる」

 

 俺は、痛む体でチカを反転させ、組み敷いた。

 

 チカの澄んだ瞳が、期待するように輝き、燃えている。

 

「愛してる。だから、俺の物になってくれ」

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