【公式恋愛パロ】「狂犬と暴力的な彼女~キス&ステイ~」(1)【雷門×チカ】

 


 ぷらいべったーで、特別公開していたものです。

 なんと、あのチカが、ヤンキー女子高生な、恋愛パロです!


・水戸千夏(チカ)(高1)


 女子高生。一人称は「オレ」のヤンキー。

「遊んでる不良女」で有名だが、実は処女。



・犬神雷門(高2)


 バリバリのヤンキー……とみせかけて、超純情。

 硬派すぎて、「子犬」呼ばわりされる。



 そんな問題児なヤンキー×ヤンキーが、本気で恋愛すると、さてどうなる――!?



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ふらりと立ち寄ったコンビニで、ごそごそしているやつを見つけたのが、運のツキだ。


 パーカーとズボンを、だらしなく着たそいつは、黒いバッグのなかに、なにかを放り込んでいた。

 しかも、監視カメラの届かない死角で、だ。


 万引きだな。と一目でわかった。


 無視することも出来たが、あいにく俺は、そういうみみっちぃコソドロが嫌いだ。


 背後に忍び寄り、思いっきり、殴ってやった。

 ガッ、という鈍い音と、万引き野郎が商品棚に突っ込み、商品を撒き散らす派手な音。


 店長らしきハゲが駆け寄る。


 これでこいつも御用だな、と手を払いながら立ち上がると、そいつは俺の膝にバッグを投げつけ、手をひねり上げてきやがった。


「おい……っ」


 痛み自体はそれほどでもないが、なにしやがんだこいつ、といういらだちが、俺の眉間をひきつらせた。


「おい、君……」


 小太りの店長の視線が、万引き犯と、そいつにホールドされている、俺の間を往復する。


「こ……この高校生が、万引きしたのを止めようとしたら、殴りかかって来たんです!!」


――だから早く警察に!! と、男は、血走った目で、まくし立てた。


「この少年が……?」


 店長はいぶかしんだが、俺の膝元にあるバッグからは、未会計のブツがこぼれ落ちており、更に俺の金髪やら気崩した制服やら、キレ気味の表情やら、射殺しそうな眼光をみて、こう言った。


「話を聞こうか」


 その顔は、恐怖からか、やや引きつっていた。


「ちょっと待てよ……」


「君もわかってると思うけど、万引きは犯罪だ。未成年なら、親御さんに責任を取ってもらうことになるよ」


「だから、俺じゃねえ、つってんだろ」


 周りがざわざわし始める。


――万引きだって。あいつ、見るからに不良だもんな。

――やだあ、あのオトコ、ごまかす気ぃ?


――あいつ、犬神じゃね?

――やべーw ツィッターで拡散しようぜ。

 

 流れがおかしい。このままだと、無事、誤解が解ける前に、ネット上で、俺のあることないことが拡散される。


「君、抵抗はやめて、こっちに……」


「だから、話を聞けって言ってんだろ……!」


 俺は、今すぐこの場で、誤解を晴らすべく、クソ店長の腕を払った。

 すると、店長は盛大にこけた。


「うわ、あいつ最低!!」


 ざわめきが、MAXになる。


 (ふざけんな! 俺が何をした?  なんで、こんな汚名を、着せられなきゃなんねーんだよ!!)



「――そいつ、万引き犯じゃねえぜ」

 

……ぱちん。ガムが弾けるおとがして、俺は、斜め上を見上げた。

 

――赤いパーカーに、高く結んだ、サイドテール。


――澄んだ炎みたいに輝く瞳。

――小さな顔に、しゅっとした眉。すらりとした、健康的な手足。

 

 俺は、息を飲んだ。

 

……少女は、美しかった。

 

 再び、ガムを膨らませながら、少女は言う。

 

「そこの殴られたほうが、本物の万引き犯だ」

 

「しかし、この少年が殴るのを、見たんだぞ!」

 

「だから、万引き犯をとっちめようとして、殴ったんだろ。その証拠に、こいつは、この転がってる商品には触れてねえ。監視カメラを見れば、すぐわかるはずだぜ」

 

 およそ、少女らしからぬ言葉使いにも驚いたが、さらに驚いたのは、この俺をかばったことだった。

 

「……本当なのか……?」

 

「とりあえず、犯人扱いする前に、みてみろよ――ほら、お前、立てよ」

 

 少女は、よどみなく、きっぱり言い切ると、俺に手を伸ばした。

 

「ん」

 

 早くしろよ、とばかりに、さしべられた少女の手を、俺は取った。

 

 はじめて触れた、異性の手は、すべすべとして柔らかく、しっとりとしていた。

 

「……じゃあ、次はもっと、上手くやれよ」

 

 少女は、たちあがった俺に、ヒラヒラと手を降ると、何事もなかったように、歩き去っていった。

 

 その凛とした後姿に、俺の目は釘付けになった。


 (実はいい女……なのか?)

 

 茫然と、その背中を見送るしか、俺にはできなかった。

 

 後日、その女――チカが、俺の通う高校の転校生だと知った。

 聞いてすぐ、その足で、チカを校舎裏へと呼び出した。

 

「――俺と、付き合ってくれ」


「……いいけど」

 

 あっさりうなずいたチカに、俺は目をむいた。

 

「……えっ……いいのか」

 

「なんだよ、お前から告(こく)ってきたくせに」


 正直、ダメもとだった。

 一回で上手くいくわけがないから、まずは、顔を覚えてもらうつもりだったが、まさか、二つ返事で了承されるとは。

 

「あの噂」が脳裏にちらついたが、振り払った。


 人の噂なんて、くだらない。

 俺は、自分のみたものしか信じない、と決めたのだ。


 放課後、早速、待ち合わせて出掛けた。


 人生初デートだが、うまく行き過ぎて、喜ぶに喜べなかった。


――これ、運、使い果たしてねえか?


 

 向かった先は、近隣の繁華街だった。


 チカはクレープ屋で、ソフトクリームを頼むと、それをぺろり、と舐めた。


 舌が赤く色づき、唇までもが、艶やかだった。

 ちらつく舌が、特にヤバい。


(……やべえ。すげーエロいな……)



 思わず、まじまじとみつめていると、チカは、だしぬけに口を開いた。


「オレの噂、知ってるか」


「……まあな、でも……」


 噂は噂だろ、と俺は続けようとしたが、チカは、被せるようにこう言った。


「男と、手当り次第に付き合っては振る、最悪の不良女<ビッチ>」


 チカは、息をはきながら、間食したコーンの包みを、ぐしゃりと丸め、俺の胸に押し付けた。


「それについては否定しねえ。……でも」


――最後までしたことはねえ、とチカは、少し、心細そうに言った。


 その手が、わずかに震えていた。


 抱きしめようとする前に、チカはすっと離れ、強がるようにこう言った。


「だってみんな、キスがヘタなんだっつの。キスがヘタなやつに、されたくねえ」

 

 チカの言葉や態度を、どこまで信じるべきか? とは、一切、思わなかった。


 たとえ、今日初めて付き合ったばかりの、何も知らない相手だとしても。

 たとえ、明日には俺も、他のやつらみたいに、振られるとしても。


 こいつは今、俺の女で、俺は仮にも、こいつの彼氏だ。


 俺が信じなきゃ、誰が信じる。

 惚れた女のことを、信じられないようなやつに、女を大切にできるわけがない。

 

「……そうか、なら、試してみるか」


 俺は、腰をかがめ、チカの顔をのぞき込んだ。


 キスの経験は、残念ながら、なかった。

 だからこれも、虚勢半分だ。……それでも、嘘じゃない。

 

――試してみたい。

 誰にも満足できないと言った、 こいつのこの唇を、今だけでいい、俺のものにしたい。


 顎をすくい上げると、チカは恥じらうことなく、俺を見上げた。その赤い唇に、噛みつくように、唇を合わせた。


 濡れた唇が、吸い付く。

 甘いバニラの香りに、くらくらしながら、唇を押し当てる。


 わずかに残ったクリームを、舐め取るように……なんて、色男さながらなことは、さすがにできなかった。

 だが、不器用ながらも、全力で、情熱的なキスを見舞ったつもりだ。

 

……ぷはっ、とチカは唇を離した。

 

「……てめえ、酸欠にさせる気か」

 

 にらみつけるチカは、すでに、だいぶ涙目だ。

 

「――じゃあ……」

 

 俺は、絶望的な気持ちになって、問いかけた。

 

「――ああ。もう一回だ」

 

「――え?」

 

 俺は、思わず、目を見開いた。

 

「下手くそ! もう一回」

 

 俺とチカは、何度も、キスを交わした。

 

 そのたびに、ヘタだの、優しくしろだの、もっと乱暴にしろだの、色々文句を言われた。

 

 キスの回数が、二十回を越えた頃、

 

「今日は、この辺で許してやる。明日会うときまでに、もっと上手くなってろよ!」と、真っ赤な顔で、びしっ! と指を突きつけて、チカは、足早に去っていった。

 

 やがてチカは、頻繁(ひんぱん)に俺の家に訪れるようになった。

  狭いアパートに、思春期の男と女。

 

 だから、そういうムードになったのも、致し方ないことだった。

 

 はじめに、しかけてきたのは、チカだった。

 呼んでいた雑誌を投げ捨て、おもむろに、服を脱ぎだしたのだ。

 

 俺は、当然、慌てた。

 止めに入った俺を、チカは、信じられないようなモノをみるような目で、にらみつけた。

 

「好きだから大切にしてえんだ」と、真面目な顔で訴える俺に、チカの声が降った。

 

「なんだそれ、いみわかんねえ」

 

――もういい。冷めた。帰る。

 

 チカはそう吐き捨てて、服を着なおすと、鞄(かばん)をひっつかんだ。

 

「――もう、しばらく、ここには来ねえわ」

 

 チカは、冷たい瞳でそう言うと、話はそれで終わりだとばかりに、乱雑な靴音を立てて、立ち去った――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る