第6話

その日は突然やってきた。

夫の職場、美香子の元職場から一本の電話が入った。

朝のミーティングの最中に、夫が倒れたのだという。

すぐに救急車で病院に行ったから美香子さんも行ってほしいと、元同僚女性事務員の切羽詰った声が受話器の向こうから届いた。

美香子は洗濯のためにタライに水を張っている最中だった。

慌てて蛇口を閉め、タクシーを呼んだ。

とりあえず財布の入ったバッグだけを引っかけて、身だしなみをサッと整えた。

娘のバスのお迎えに間に合うだろうか……と思いつつ、かろうじて連絡先を交換しているバス停のお母さんに連絡を取る。

先方は驚いていたものの、迎えに間に合わなければ少しの時間娘を預かると言ってくれた。

いつも簡単な挨拶だけで不義理していた自分なのに、優しさが身に沁みた。

タクシーに乗り込んで、行先の病院名を告げる。

自宅からずいぶん離れた場所だ。

そのまま入院となると、通うのは結構大変そうだ。

病院に着いて救急センターに駆け込む。

夫は集中治療室に入っていた。

どうやら脳梗塞を起こしたらしい。

病名を聞いて、ゾッとした。

夫はまだ38歳だ。

いずれ医師が説明に来ますので、と、待合室に通された。

どうしよう……。

手先がひどく冷えて震えていることに気がついた美香子は、とりあえずバス停のお母さんにもう一度連絡を取ろうと外に出た。

電話の向こうでは気遣ってくれる様子がうかがえ、娘のことは心配いらないからと心強い言葉をもらった。

待合室に戻ってすぐ、看護師が美香子を呼びに来た。

診察室らしきところに通されて、医師の説明を聞く。

夫は若年性脳梗塞らしく、今のところ原因は特定できていないということ。

しかし幸いにも発見が早く、治療にかかるのも早かったので、日常生活に戻れるのも時間の問題でしょうとのことだった。

一気に美香子の身体から力が抜けた。

良かった。

大変なことには変わりはないが、とりあえず命の心配をすることは無さそうだ。  

入院期間はどんなに短くても2週間、大体は2~3ヶ月くらいが平均ですとのこと。

早速ですが、入院の準備と手続きを行ってくださいと指示が出る。

通うのが大変そうだと思ったけれど、これはかなり長期戦だわ……。

美香子は小さくため息をついて、準備のために一旦自宅に戻った。


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