第40話 偵察隊の強い味方

偵察隊の出立は明朝となった。

リュウはそれまでにいくつかのアイテムを用意するために自宅研究室に戻っていた。

そのアイテムのひとつは、移動のための乗り物だ。リュウの空間転移は知らない場所には転移できず、リュウ以外の者は空間転移が出来ないので誰でも移動可能な乗り物を用意する必要があった。


大きさは、二人乗りの小型艇で全長が2メートル程度で跨って乗るタイプだ。反重力の永久固定魔法で常に船体を浮かしており、推進力には瞬歩の原理で空気を押し出す力を利用し、ハンドルのスロットルで速度調整をする。 


リュウはこの小型艇をホバーと名付けた。


ホバーの移動速度は時速100km/h以上出すことが可能だ。

馬車での移動の約3倍程だが、馬車の場合、馬を休ませる必要があるのだが、このホバーはそれが不要で、航続距離の制限はない。

更に、自動航行モードを使うことである程度は休息しながらも進むことが出来る。


偵察におけるホバーの優れた点は痕跡を残さないことだ。徒歩なり馬の移動は足跡や車輪跡など痕跡を残して追跡される恐れがあるが、浮力推進のホバーではその影響は皆無だ。 無音航行のため、敵に音や地面の振動で察知されることもない。


更に隠密行動を高めるためにホバーには隠行のステルス機能と乗員の生体反応を遮断するベールで包まれる。


これだけの優れた機能をもつホバーだが、リュウはこのホバーを偵察者のライフラインとして活用させるべく機能を備えさせている。

座席シートを持ち上げるとトランクルームがシート下にあるのだが、そのトランクルームを空間トランクとしている。

食料や機材など必要な物一式が収納されているのに加え、指令本部との共有空間としていることで本部との連絡が逐次とれるのだ。

これは潜伏する側にとって有り難い事だ。


リュウはこの共有空間を利用した通信手段を開発した。どこに居ても物理的に繋がっているに等しい共有空間は通信において遮断される事なく安定した通信品質を保てる理想とも呼べる通信だ。

簡単に原理を説明すると、どこにいても糸電話で会話ができるといったところだ。無論、通信とは音声だけでなく情報データも含まれる。


自宅ガレージでリュウは黙々と3台のホバーのメンテナンスを行っていた。


『あなた、少し休憩をされてはどうですか?』


クリスが熱いコーヒーを持ってきてくれた。


『ああ、ありがとう。ついつい時間を忘れて没頭してしまう』


『まあ、そこがあなたのいいところでもあるのですけどね。

それに、このホバーを明日2つのチームが見たらきっと驚くでしょうね。

私も最初見せていただいた時には信じられませんでした。いえ、あなたのビックリ箱には不可能の言葉は入っていませんものね』


クリスは笑いながら自分が初めてホバーを見せてもらった時の事を思い出していた。 彼女は時々リュウから新しいアイテムの発想や試作品を見せてもらうのだが、彼女の第三者の意見も取り入れて改良の参考にしているのだ。


『全員無事に帰還してもらいたいからな。その為の努力なら惜しまないさ』


ホバーのシートに横に並んで座っていた二人だが、クリスはリュウにもたれ掛け肩に頭をのせていた。


『私はいつ何時でもあなたを信じていますから。 でも、全部ひとりで抱え込まずに、たまには私を頼ってくださいね』


『ありがとう。でも、俺はクリスを大いに頼りにしてるぞ。今俺がこうして好きな事が出来るのもクリスが支えてくれているからだと感謝しているさ』


リュウはそう言うとクリスの肩に手をやり抱き寄せた。


時々こうして息抜きの時間をクリスがくれていることで心身ともにリフレッシュ出来て、そういう時に良いアイデアが出てきたりするのだ。


しばらく休憩をした後、リュウは再び作業を再開した。

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