第41話 英知の結晶

ホバーと共にリュウが作りたかったもの。

それはこの世界に来てから密かに研究を重ねてきたものだ。

賢者の石の能力を駆使して実現させた情報システムで、元の世界で言うスーパーコンピュータに近い。


仙人達の長年の知識や経験、情報などを思念を通じてデータベースに蓄積させる。賢者の石の演算機能がそのデータを活用し、ありとあらゆる事象について判断を行い、予見をする、正に神そのものの存在と言えるシステムだ。


元の世界ではコンピュータは0と1のデジタル信号の組み合わせで出来ている。計算したり表示をしたりと人が理解できる情報に至るまでに多くの0と1の信号を処理する必要があり、この処理性能を演算処理速度と呼んでいる。

この演算を行うのがCPUと呼ばれる中央演算装置だ。

微弱な電気信号によって無数とも呼ばれる多くの0と1のスイッチをON-OFFして動かしている。


リュウの作った情報システムは今までのものとは概念から異なるものだった。機械言語と人間の認識への変換が必要なく、人の扱う情報そのものを思念により操作が可能だった。 

その差は何かというと、圧倒的な速度と情報量が扱えるということだ。


扱えるデータ量は無限。どんな事象に対しても答えは一瞬で出て来る。更に、複数の答えが出たり、充分な検証が必要なケースもあるが、その場合は仙人界にある情報システムにデータを送り、現世へ結果を送り返すことで瞬時に答えを出すという念の入れ様だ。


このシステムをパソコンの様に端末を叩いて答えを得るというのは非効率的であるため、システムにコンシェルジュとして応対させる様にさせた。言葉での問い掛けにシステムが応えてくれるというダイレクトなもので通常音声の他、思念にも応答させることができる。


とはいえ、リュウはこのシステムがまだ試作段階であったため、どの程度実用で使えるのか些か不安ではあった。


リュウはシステムをクラリスと名付けた。人ではないのだが、人工知能的なもので応答をするため名前があった方が都合が良いためだ。


クラリスの状態確認を行うため試験起動をさせた。


『クラリス、起動せよ』


””構造解析・・・・

 ・・・・データ領域確認・・・・

 ・・・・・システム機能チェック・・・・

 ・・・・・・・一部機能最適化・・・・・・・

 ・・・・・・・・・音声認識最適化・・・・

 ・・・・・・・・音声合成パターン作成・・・

 ・・・・・・・データ領域バックアップ・・・

 ・・・・オペレーションシステム起動・・・

 ・・・・

 ・・・・

 ・・・・クラリス起動完了しました。

 次回から起動はショートカットされます””


””お待たせしました。マスター。

   何なりとご用件をお申し付け下さい””


クラリスは明朗な女性の声でリュウに告げた。声は20代後半くらいを想定したリュウの好みの声だ。


『今現在のシステムデバッグはどの程度進んでいる?』


システムがある程度完成した頃から完成に向けての構築やバグなどの不具合修正をクラリス自身で自己補完させる様にしてある。


””デバッグはほぼ完了しております。改修が必要な箇所が2,589,254箇所ありますので並行処理で最適化を行っております。

あと2分53秒で完了します。””


すごい処理スピードだ。通常のエンジニアだと100人単位で一カ月以上掛かる作業が僅か数分でしかも並行処理に過ぎないのだ。


『ネットワークの接続状況の方はどうだ?』


””領主官邸とマスターのお屋敷、軍の主要施設には既に接続が完了しております。ホバー3台についても完了しております””


リュウは当初、この世界にもGPSの様な人工衛星からの位置情報捕捉や監視を行おうと思っていたのだが、試しに地上3万メートル以上の衛星軌道まで賢者の石製衛星を飛ばしてみたのだが、周回して戻るはずの衛星が戻って来なかった。 

ひょっとしたら地球の様な丸い球体の星ではないか地軸が異なるのか、何らかの原因がありそうだ。

クラリスに質問したら、この世界は平面であるとしか認識されておらず、俺の言うことが異なる世界の話としか説明されなかった。


衛星が打ち上げられないので仕方なく別の手段で位置情報を得ることにした。 ビー玉くらいの大きさの球体をこの世界の全ての上空5000メートルのところに1km四方間隔で固定浮遊させたのだ。

このビー玉みたいな球体が座標となり、捕捉できる球体の位置関係で現在位置がわかる仕組みにした。

この世界全てに配置するのに100万個の数を要したが、リュウは丸一日でこの作業を終えたのだ。


『クラリス、明日からは偵察行動となるため思念でのやりとりが中心となる。他2チームも同様だ。よろしく頼む』


””かしこまりました。バックアップはお任せ下さい””


なんとかクラリスも実用化できたようだ。


既に時間は夜中になろうかとしていた。リュウは睡眠をとるためクリスの待つ寝室へと向かった。

少しの間だけでも寝ようと思ったのだが、寝室で待ったいたのはクリスだけでなく、ソフィア・ユリン・エレノアだった。 何故か鈴鳴だけはいなかった。


明日からしばらく会えなくなるということで皆で一緒に寝ようということになったらしい。流石に明日からの任務があるので今夜は何もしないが、少しの間、寝ながら話をしたり、全員に腕枕をしたりした。

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