第39話 魔族の動き

巨大化されたデーモンを倒した二時間後、軍の作戦本部に幹部が招集された。各部隊の隊長・副隊長も含まれている。


『いやあ、それにしても凄かった。我軍の力がこれ程までとは。以前の軍の力なら一方的に魔族にやられていたところだ』


一報を受けた軍務大臣は城壁の上から双眼鏡で事の始終を見ていた。


デーモンの事は混乱を避けるため、街の住民には隠されている。幸いにして新都市の門は街の居住区から離れているため、騒ぎを知る者は一部の者しかいなかった。


『今回の魔族襲撃は、このローグの動きを探る斥候だったみたいです。その斥候がその手の類の素人だったので簡単に察知することができましたが、今後は警戒を強化する必要がありますね』


リュウが大臣に進言した。


『うむ、タイラ伯爵の言う通りだな。今回は運が良かったに過ぎないかもしれんからな』


『それと、気がかりなこともあります。

今回魔族はガゼフ帝国側から侵入してきましたが、我々と同様にガゼフでも国境警備隊が国境を厳重に監視している筈なのに、魔族をあっさりと通しているということです。

まさかとは思いますが、ガゼフと魔族が結託しているということも考えられます。


もう一つ、この世界では北と南の大陸に分かれていて、人間族が北の大陸、それ以外の獣族や魔族は南の大陸を拠点としているはずです。二つの大陸の間には巨大な海流が渦巻いていて船の航行は不可能なので大陸間の行き来はできないはず。 なのに北の大陸で魔族を見かける事自体不可解です。

マキワの西にある魔の森からでは方角が逆なので違うと断言できるでしょう』


リュウは事前に鈴鳴から話を聞いていたこの世界の南の大陸の情報を大臣達に話した。


『この中で魔族に詳しいものはおらんのか?あまりにも情報が不足しておる』


『今日は特別顧問として詳しく知る者を呼んでおります』


リュウはそう言うと鈴鳴を紹介した。


『藁はリュウの嫁の鈴鳴じゃ。訳あってこの様な口調じゃが許せよ。

で、魔族の事じゃが、先程も見た通り魔族には羽を持つ者もおる故、大陸間を飛行してくる可能性がある。じゃが、もっと厄介なのが、空間魔法を使う奴らじゃ。あれを使われると一度に大群が大陸間を移動できるからの。

意外に統率力もあるからそれも警戒せねばならぬのう』


『今回の奴らの言う軍勢5万がもし既に北の大陸に渡っていたとしたら厄介です。それと、魔族とガゼフ帝国との関係も最悪の場合を想定しておかなければなりません。

それと、ガゼフ帝国だけでなく、我が国と北に隣接するランドワープ王国と現在、ガゼフ帝国と敵対中のイスタスの動向も気になるところです。


至急この三国に偵察を送る必要があります』



『我が国も迎撃の態勢を整えつつも情報を入手せねばならぬな』


軍務大臣もリュウの意見に賛成だった。


『して、誰を向かわせるつもりだ?』


『ガゼフ帝国には私が行きます。魔族が絡んでいるとなるとかなり手強くなります。場合によっては足止めをしなくてはなりませんので。

イスタスには諜報部隊の隊長・副隊長、イスタスには紅部隊の隊長・副隊長の各ツーマンセルで諜報活動をすることとします』


『タイラ伯爵自らが行くというのか・・・うむ・・・代わりは利かんのか?』


『あなた!いえ、タイラ伯爵。それぞれがツーマンセルというのであれば是非私も同行させてください』


リュウの行動に難色を示す軍務大臣だったが、そこにクリスの進言が加わった。


『おいおい!タイラ伯爵にクリスまで加わったら儂は領主に説明がつかんぞ』


クリスのまさかの発言に軍務大臣は困惑する。


『わかりました。それではガゼフ帝国の偵察に関しては領主の了解の元、私とクリスのツーマンセルで行くこととさせていただきます』


リュウはこういう時のクリスは決して譲らないことを知っていた。実に頑固なのだ。そうなるのはリュウの事となるとなのだが。だが、クリスなら安心して背中を預けられる。恐らくリュウを除いた中では一番ベストな選択だろう。


『諜報部隊 隊長クリフ、イスタスを任せられるか?』


『伯爵様、ご指名いただきありがとうございます。お任せ下さい充分な情報を掴んで参ります』


その場で起立したクリフは執事の様に丁寧なお辞儀をした。


『では、紅部隊 隊長ユリン。そちらも任せられるな?無理をするなよ』


『うん、任せて。何かあったらすぐ連絡するから』


ユリンは副隊長アカネと共に起立し敬礼をした。


今回の偵察部隊以外の部隊は各隊それぞれ迎撃に備えて準備をすすめることで意見が一致した。

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