第38話 魔の手
新ローグの街から1キロ程離れたところにそれらは居た。
人と異なる顔・姿、鋭い爪と牙をもっている魔族と呼ばれる者達だ。
木の陰に潜んで辺りの様子を確認している。
『魔王様から偵察を命じられてローグまでやってきたが、国境越えをはじめ、ここまで順調に来過ぎたな』
『この国は長年戦争なんてしてない貧乏国だからなロクな武力や警備が出来てないんだろう』
『その割には街道を行き交う人の数が多いとは思わんか?』
『まずはその辺りを含めて調べる必要があるな』
4人の魔族は見た感じデーモンと呼ばれる悪鬼だ。言葉を話すことができる魔族は上位と言われている。
デーモンは人の姿に変装することも可能で、人の世に潜伏して騒乱の手引きをしたりして人々を不幸へと向かわせる事を楽しんでいる。
魔王とは邪神オーグの腹心であるガズルの事だ。オーグには複数の腹心がいると言われ、ガズルはその筆頭にあたる。ガズルの率いる魔王軍はその数5万とも言われていた。
今回は魔王の命により、最近活動を盛んにしているローグを探れとのことで4人の部下に偵察の指示があったのだ。 目的はあくまで偵察なので戦闘は想定していなかった。 だが、戦いを避けるという意味でなく、情報さえ手に入れば多少手荒なことは構わないとも思っていた。
国境では強硬突破を覚悟で侵入したのだが、誰も来ずに肩透かしを食らった。その後も街道や関所といった要所でも特に接触はなかったのだ。
4人の魔族は旅の商人に扮した。普通の商人として誰も疑うことのないだろう恰好だ。
識票も偽造のものを用意している。
門兵の検査でも特に怪しまれることはなく街の中へと入れるだろう。
そう思い入門の列の最後尾へと並んだ。
一方、その頃、ローグ軍 指令本部では作戦の指示が出されていた。
『こちら、国境警備隊。捕捉した魔族4体は指示道りローグ方面へと誘導した。接触する者の無いように周辺への手配も問題ない』
『指令本部。了解した。まもなくローグへ出現予定だ。あとはこちらで対応する』
リュウの作った魔導通信での会話だ。
実は魔族の気配は国境に侵入する前に生体レーダーで捕捉していたのだ。
魔族の侵入目的が不明であったため泳がせて尋問をしようとリュウが作成を指示したのだった。
もし、迎撃システムが作動していたら、一瞬で魔族は消し飛んでしまうため今回は作動させなかったに過ぎない。
そして城門の警備隊員達が列の最後尾に並んでいる旅人に扮した魔族のもとへと足を運んだ。
『失礼ですが、識票を提示いただけますか?』
『はい、私達は旅の商人です。ガゼフから旅の途中の休息にやって参りました。こちらが識票となります』
『なるほど・・・・よく出来た識票ですね』
『な・何をおっしゃいます。正真正銘、私の識票ですよ』
『ほほう、ならば貴方のガゼフ国境での通行履歴がないのはおかしいですね』
警備兵は通行履歴を調べたわけではないが、恐らくそうであろうと鎌をかけた。
『うっ、ばれちゃあ仕方ねえ』
警備兵の問い掛けに返答できなくなると、魔族の一人は列の手前に並んでいた女性を羽交い絞めにし、首に鋭い爪をつきつけた。
人の姿に扮しているが爪だけを意識的に出す事が出来るみたいだ。
『動くな!せっかく平和的に進めてやろうと思ったが、予定変更だ。バレたのなら暴れさせてもらうぜ』
女性を盾にした魔族以外は皆戦闘態勢へと入っていた。
『あらあら、そんなに乱暴に扱わないでください。そんなことでは女性に嫌われてしまいますよ?』
羽交い絞めにされていた女性は悲鳴をあげるどころか魔族を挑発していた。
『なにを!うっ、うわああああああ』
女性を羽交い絞めにしていた腕が煙とともに灰になっていったのだ。
『お・お前!一体何をした!!』
『そんなに慌てないでください。悪しきものを浄化したまでですよ。人には一切影響のないものです』
捕らわれていた女性は攻撃部隊 魔法士隊長のソフィアだった。
ソフィアは自分の体を聖属性のオーラで纏ったのだった。
あまりの痛さと驚きに魔族はソフィアを突き放した。
魔族の変化は解けて人間の姿から元のデーモンへと戻っていた。
ちなみに、一般の人に危害が及ばない様に、ここの列に並んでいるのは全て軍の者だ。
『はいはい、そこまで。無駄に暴れても無駄だぞ。お前らには勝ち目はないからな』
と、手を叩きながらリュウが門からゆっくりと歩きながら出てきた。
『お前たちの目的は一体何だ?邪神の差し金か?』
『邪神オーグ様が直々に命を下すわけがあるか。我らはオーグ様の腹心魔王ガズル様の軍のものだ。 我らを手にかければ5万の軍勢がこの地を焼野原にしてくれようぞ』
魔族はリュウの誘導尋問にまんまと引っかかり、自分達が何者なのか、軍勢の数までしゃべっている。
『あっそ、で、そのガズルっていうのが最近いろいろと動いているこのローグが気になったから見てこいって言った訳ね。まるでガキの使いだな』
リュウにとってはもう目的も情報も入ったので、この魔族達には価値がなかった。
あとはどう処分するかを考えるだけだ。
『なにを!まあ、そう威勢のいいのも今のうちだ、我らの力の前に後悔するがいい!』
言い放つと4人の魔族は吸収合体し、一体の巨大デーモンと化した。
身長は10メートル程で禍々しい邪悪なオーラを放っている。
通常のデーモンは人とほぼ同じ身長をしていて背中に折りたためる羽を生やしている。
この羽で飛来することも可能だが、飛行速度はそう速くない。
だが、巨大化したデーモンは様相が違った。 体の色は真っ赤で口から牙が出ている。
言うなれば鬼の形相だ。 体つきも分厚い筋肉で覆われており、その手で掴まれたら人間など一瞬で潰されてしまうだろう握力もある。
通常の人間なら絶対に立ち向かうことなど考えずに逃げ出してしまう様な鬼が目の前に立っていた。
『誰か戦いたい者はいるかな?』
巨大デーモンへと変化した様子を何事も無かったかの様にリュウは周りの兵たちに問いかけた。
リュウの問い掛けに応えたのはジョセフだった。
『おうよ!今までの修行の成果を試させてもらうぜ!丁度腕試しをしたかったところだ』
ジョセフがどんな技を習得したのかリュウも興味深々だった。
『お前たち、戯言を吐くのもそれまでだ!』
リュウやジョセフの態度が気に食わなかったデーモンは口から禍々しいダークブレスをジョゼフに向かって吐いた。
その勢いと量は一瞬にして辺り一面を黒い炎で包み込んでいった。当たれば一瞬でその黒い炎に焼き尽くされるであろう。
だが、それは当たればの話だ。
ジョセフは瞬歩で身を難なく躱した。
ダークブレスはジョゼフの後を追う様に吹き放たれるが、ジョセフの動きについていくことができなかった。
デーモンはダークブレスを躱されたことに苛立ちながら、鋭い爪でジョセフを両断にかかる。
10メートルもある巨体を持つデーモンの力は人の腕力の数十倍程もあると思われるが、ジョセフはデーモンの爪を剣で受け止めてはじき返した。
はじき返された力が想像以上だったのか、デーモンが後方にのけ反った。
『やっぱりこの程度か。それじゃ、こっちも攻撃させてもらうぜ!』
ジョセフは剣を両手に構えて飛びあがり、デーモンの胸の急所に向けて剣を突き刺す。
”カキーン!!”
デーモンの体は鋼の様に強化されており、剣すら通すことができずにはじき返された。
『無駄だ!人間。お前らでは我の体に傷一つ付けることなど敵わん!』
『ちっ、本当に硬てえ野郎だ。それじゃ、こっちも本気でやらないとな』
ジョセフはそう言うと同時に体中に気を纏いはじめた。気はオーラとなりジョセフの体がまばゆいばかりの光に包まれていく。
『ま、まさか!?この気配は!貴様!神の使いか!?』
『聖剣!四身滅殺!』
デーモンの問いに答えることもなくジョセフが叫ぶと、ジョセフの体は4体の分身となった。その四つの分身体は四方向に分散した後に中心のデーモン目掛けて聖属性の剣を振り下ろした。
その間、一瞬の出来事だった。
『ぐわああああああ、おのれえええ・・・・・・・・』
縦十字に四等分された巨大デーモンは大きく悲鳴をあげた。
そして贖う間もなく全身が灰と変わっていった。
先程までデーモンの立っていた場所には灰の山しか残っていない。
『おお!すごい技だったな』
『数ある技の中の一つに過ぎんさ』
素直に褒めたリュウに照れくささで返すジョセフだった。 だが、内心、デーモンに技が通じてホッとしていたのだ。
ジョセフは白翁仙人の指導のもと、この技を十年以上の月日を掛けて編み出したのだ。 鬼神の軍に備えるという意味で聖属性の攻撃には特に力を入れて取り組んでいた。
こうして魔族からの脅威は住民に知られることなく防いだのであった。
この偵察の4体のデーモンを消し去ったことで魔王ガズルの本体が動いてくると思われる。軍勢5万の信憑性は判らないが、いよいよ本格的に戦闘準備に入らなくてはいけないようだ。
リュウはこの後、今回の魔族の行動と今後の対応について話し合うため、軍の幹部を招集した。
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