第35話 道場と結婚?

この国にはスポーツと呼ばれるものがあまりなかった。

リュウは体を鍛えつつ、国の戦力増強にもなると考えて道場を開くことにした。

当面は剣道と柔道の2つのみだ。合気道を入れた3つとなると流石のリュウでも指導をするのに支障を来すためだ。その代り、柔道には合気道や空手の要素も取り入れ、総合格闘術として教えることにした。


リュウの屋敷にそれ程遠くない場所に大きな武道館を建て、中には板張りの剣道場と畳張りの柔道場を用意した。 広さは学校の体育館2つ分といったところか。


市民に門下生を募ったところ、思った以上の応募があった。市民の参加も多かったが、

軍の兵の参加も結構あった。 熱心な者達が少しでもリュウから強さを学ぼうと積極的に参加をしたのだった。 軍の兵士はある程度の素地は出来ているので自身の稽古の他に一般参加者の指導にもあたってもらっている。

人に教えるということで新たに気付くことも多く、自分自身の修練にもなるのだ。


参加者は剣道・柔道ともに500人程度で、この街の人口からするとかなり多くの参加率となっている。


全員が一度に集まると流石に道場から溢れてしまうが、週3回の開催で都合の良い日の参加としているので、ある程度は分散されている。


剣道は竹刀の材料である竹がこの国にはなかったので石油からプラスチックを作り、竹と同じように組み合わせて竹刀の代わりにした。

女性は三六(さぶろく)、男性は三七(さぶしち)の長さの竹刀を使用している。


剣道の基本は素振りである。先ずはこの素振りを徹底的に行うのだ。ただ素振りをするだけでなく足運びも同時に行う。 素振りは熟練者でも稽古のはじめには行っているのだ。 2週間くらいしてから打ち込み稽古に移る。 素振りだけでは退屈だと言って辞めてしまう者もいるのだが、それは極少数派で、みんな真面目に取り組んでいた。 


ここに来る目的がリュウの見せるデモンストレーションを見るためという者も結構いた。


リュウはギャラリーサービスとしてたまにパフォーマンスを披露することがある。



リュウは等身大の藁人形を立て、その手前3メートルの所に正座をして座る。

呼吸を整え、中腰の姿勢から刀に手をかけ精神統一する。

ぐっとリュウが目を見開いた瞬間、風が舞い、藁人形は斜めにずれて地面に落ちる。

何が起こったのか目で見れる者はいない。 カチン!と刀の鍔が鞘に収まる音だけが辺りに木霊す。


リュウの居合い抜刀術だ。 正に神速と言うに相応しいものだった。

これが対人だとしたら、相手は自分が切られたことすら気付かないであろう速さと切れ味の鋭さだ。


観客からどよめきと拍手が沸き起こる。


続いて今度は藁人形の代わりに人の高さの鉄の柱が用意される。 鉄の柱は直径が20cmはあるかなり重たいものだ。男性が3人がかりで運んできたので100kg以上はあるはずだ。

もちろん刀で切れる様な代物ではない、鉄を切る丸鋸でも切り落とすまで数分は掛かる。


リュウは再び中腰で刀に手を掛ける。

早口で呪文を唱え一気に斬りかかる。

『臨兵闘者皆陣列在前 居合斬鉄!』


またしても剣筋を眼で追える者はいなかった。スローモーションの様に斬られた鉄の柱の上半分が地面へと落ちていった。


先程以上のどよめきと拍手が沸き起こった。


今のはリュウが刀に気を纏い、超音波波振動を刀の周辺に発生させて斬ったのだ。

通常、とても一瞬で出来る技ではない。 それこそ数十年に渡る修行を仙人の世界で行ったリュウだからこそ出来る技だった。


デモの後は各自、それぞれの稽古へと戻った。




リュウの元へ見知った顔がやってきた。攻撃隊隊長のジョゼフと副隊長の

元愚連隊だったグレンだ。


『よお!相変わらず人間離れしてるなあ。全然見えやしねえ。 ところでちょっと話があるんだが、いいか?』


近づきながらジョゼフが話しかけてきた。


『ああ、構わない』


『先日の軍の強化訓練でリュウに鍛えてもらったお蔭で俺たちは強くなった。その事については俺だけでなく、兵士全員がリュウに対して感謝している。


だが、実際は自身が強くなったというよりも強い武器を貰って強くなったって感じがしてしょうがないんだ。 さっきリュウがやった様な、自身の放つ技みたいなものが足らないと思っているんだ。


なんでもこうやってリュウに頼ってばかりじゃいけないとは判っているんだが、そういった技を持つためのきっかけでも得られればと思ってお願いをしに来たんだ』



ジョゼフ達が今抱えている悩みとしてリュウに打ち明けた。


『なるほど、言いたいことはわかった。 だが、修行で得れる技というものはそんなに簡単なものじゃないぞ?俺でも何十年も掛けて身に着けたものなんだ』


『いや、わかってる。簡単に出来る方法なんてないことは。 だが、以前に話をしてくれたリュウが体験した修行っていうのが俺たちにも出来ないか聞いてみたかったんだ』


『うっす!是非俺たちにもやらせて下さい!』


『なるほど、そういうことか・・・・』


 ”・・・・・・・ということなんだが、なんとかならないかな? 仙人の修練は無理としても、あの世界での修行が出来ればいい”


相談されると同時にリュウは鈴鳴に念話で確認をしていた。


 ”そうじゃな、修練の間には入れんが、仙人界での修行は可能じゃ。戦力の向上は妾達にとっても都合が良いことじゃからのう。妾から他の仙人にも話をしておこう。

 その代わり・・・・ 今夜は妾にたっぷりサービスするのじゃぞ”

 

 ”・・・・抜け目のない淫魔め・・・”


『わかった。修行の場は確保できそうだ。その代わり、精神的にも肉体的にもかなりの負担がかかるぞ? 何十年にも渡る修行だからな』


『おお!よかった!それは大丈夫だ。みんな覚悟の上だ』


こうして、希望者の仙人界での修行を開始することになった。 希望者とは各隊の隊長・副隊長だ。 それに加えて、今回の修行にはクリスや騎士団の希望者も加わることにした。 現地では白翁仙人に対応してもらう。


開始は各自準備があることを考慮して1週間後。


希望者達を道場前に集め、鈴鳴に仙界門を開いてもらい全員を送り届けた。



そして三時間後。 こちらの世界では三時間だが、仙人界では三十年の月日が流れていた。

再び仙界門が開き、一行が戻ってきた。

そして目にした姿は、皆先程とは全くの別人とも言える程の気を纏い、微弱であるが神々しいオーラも加わっていた。 それぞれが特別な技を会得しているであろう。その顔には自信が伺えた。


『あなた!お会いしたかったです!ああ、あなた・・・どれだけ会いたかったか・・・』


クリスがリュウに抱き付いてきた。実は一時間後と二時間後に仙界門をくぐって様子を見に行っていたのだが、向うでは十年に一度しか会えなかったのだ。そして今、十年後の再会というシュチュエーションなのだ。


『リュウさん、私、強くなりました!リュウさんのために。。。』


『リュウ!私もだよ!きっと役に立てるからね!』


『リュウ様!!!お会いしとうございました!ああ、リュウ様のこの匂い・・懐かしい・・』


と、何故かソフィア、ユリン、エレノアまで抱き付いてきた。

驚いたことに、クリスが嫉妬していなかった。 それは長年の修行の友として心が通じ合っていたことと、同じ男性を愛する者同士の連帯感というものが芽生えていたのだ。


そして、その夜、リュウの屋敷では十年間我慢していたクリスに加え、先程の三人、全く久しぶりでもない鈴鳴の5人の相手をさせられるリュウだった・・・

ユリン、エレノアはリュウが初めてだった。何故か皆で二人を祝ったりしてリュウとしては調子が狂うことばかりだ。

だが、リュウはみんな幸せ一杯な顔をしていたのでこれはこれでいいかと、いつもの様に流されてしまう。


クリスはやはり貴族の血なのだろうか、本妻と妾という立場を理解しているし、クリスの性癖はライバルの女性が一緒に居る方が燃えるみたいだ。


これを期にリュウの意思とは関係なく、本妻クリスと四人の妾との屋敷での共同生活がはじまった。 新しいリュウの屋敷は部屋数が20程あるのでそれぞれに部屋を割り当てても十分余る程なので問題ないのだが、使用人を増やしたり、風呂・トイレ・台所などの共有スペースには改造が必要だった。 もちろん、リュウが魔改造で一瞬で施したのは言うまでもない。


 ”・・・・この状況を領主になんて説明をすればいいんだ・・・・。 どうしてこうなった!?”


三人の妾がいる領主より一人多いリュウは仙人界での修行の思わぬ副作用に翻弄されるのであったが、傍から見れば贅沢な悩みだ。


後日、領主に今の状況を正直に話したが、特に責められることはなかった。領主としては妾の話をすると自分へも藪蛇となると思ったからだろう。ひょっとしたら三人以外にもいるのかも知れない。

その代わりとしてクリスとの婚姻を早めて来月とり行うこととなった。


リュウとしてもケジメは大事だと思ったし、未だに妾という風習には馴染めないのだが、彼女達に対してもちゃんとしなければと思っていた。



そして翌月、五人の花嫁と共に教会で多くの人に祝福されて国の一大行事として結婚式がとり行われた。


このところ結婚の準備で何かと忙しかったのでリュウは気付かなかったが、五人の中に鈴鳴がちゃっかり入っていたのだ。 


 ”おいおい、神様と結婚なんてしてもいいのか? まあ、鈴鳴ならなんでもアリなんだろうな”


と、疑問にも思いつつ、いつもの様に流されるリュウであった。





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