第34話 企業経営
リュウが手掛けた職人達の工房で物造りに関するものを一つの企業体とすることにした。
企業名は『モノローグカンパニー』である。 そして、そこで出来た商品はすべて”モノローグ”というブランド名で売られることになる。 ロゴは 169(モノローグ) だ。
舞台や小説に登場する独り語りのモノローグとは全くことなる、ローグで作られたモノという意味の造語だ。
農業・畜産系は『ファーマーズ』とした。こちらは企業名とブランドが一緒だ。
企業体とすることで経営面での煩わしさをなくし、職人は生産に集中することができる。
また、報酬を給料制にすることで安定的な収入を保証できることと、年間の売上・利益に対しての還元、所謂ボーナスを年2回支給する。このボーナスがことのほか喜ばれた。
何せ今や超右肩上がりの売上を記録する優良企業かつ市場を独占状態なのだ。その利益を還元すると職人達の今までの数倍~数十倍の年収となったのだ。
ローグでは商売での売上の1割を国に納める売上税というものがあった。これは消費税ではなく、法人税だ。 売上ー(税金+原価+人件費+諸経費)=利益 となるのだが、この利益が売上の30%もあるので企業としての蓄えも十分でその分、設備や商品開発への投資が積極的に行えるのだ。
この『モノローグカンパニー』と『ファーマーズ』の代表がリュウで、ジャンやルクルなどは各セクションの責任者(子会社の社長)となっている。
今後は全国展開するにあたっての物流センターや営業部門にも力をいれたいと考えていた。
この世界は株式会社などの会社設立の細かな取り決めがないので、リュウにとってはやりたい放題といった感じだった。
それにしても、これだけリュウが財力と組織力を高めている中でよく他の貴族達が黙っていると思うだろうが、それは彼の次期領主という肩書が利いているのだ。
私利私欲の為でなく、このローグのために尽力を尽くしていると周りの目には映っているのだ。
それは間違いではない。 仙人のところで石ころの様に転がっていた賢者の石1つで一生遊んで暮らせる程の財が稼げるリュウは既に天文学的な財産を持っているのでカンパニーの報酬は殆ど取っていない。その分、職人や投資に回しているのだ。
カンパニーの本部は新都市のオフィス街区画に用意した。10階建てのビルだ。
リュウの元いた世界ではビルとしては高いとは言えないが、建築技術の発達していないこの世界に10階建てというのはかなり高く目立っていた。 それが可能だったのも鉄筋コンクリートが実現できたからに他ならない。 そして階の移動は3基の賢者の石浮遊装置で行っている。
リュウは最上階10階のプレジデントルームで資料を眺めていた。
『代表、これが今月の売上報告書です』
資料を手渡したのは秘書のタニアだ。銀縁のメガネをかけ、ピッチリと髪を七三に分けたその姿はいかにも秘書といった感じのスーツを着こなしていた。
『ガラス工房の売上が一時下がっていた原因は?』
『はい、ガラスの溶炉が壊れて修理に時間が掛かり出荷が遅れたことによります』
『それでは溶炉の増設と保守・修繕部隊の増強を図って下さい』
『畏まりました』
リュウが指示すると秘書タニアはメガネを正しながらその指示に従った。
『それと、郊外での総合商店の出店を急いでくれ。街の小さな商店からの参加も募っておいてくれ』
リュウが考えていたのはショッピングモールである。
そこに行けば全てが揃う、そんな形の店舗はこの世界には今のところない。元の世界では大型店舗の進出で地元小型店舗が潰れてしまうという問題があったが、ここでは小型店舗も出店できる様にすることでそれを防ごうと考えていた。
『郊外というと新区画の外周付近となりますが、交通の便がいささか良くないと思いますが?』
『それについては、総合商店への定期送迎乗り合い馬車を運行させる。営業時間内に30分に1本間隔での運行でいいだろう。乗り合い馬車は3連結の大型な物を用意してくれ。停留所をどの辺にするかは皆と相談して決めて欲しい』
『承知しました。馬車の件もありますのでモノローグ幹部と相談いたします。
それにしても代表のお考えは斬新で我々の想像力ではついていけません』
『なに、大したことはないさ。元居た世界にあったものをそのまま真似てるだけだよ』
リュウは謙遜したが、実際は大きく文明度が違っていたので、この世界に合わせるための工夫は少なからず必要だった。 それと人々に受け入れられなくては意味はない。
約1カ月後にショッピングモールがオープンしたが、街の人々には非常に好評で、そこに行けば何でも揃うということで老若男女こぞって来店した。
若い女性をターゲットにした洋服やアクセサリー、ヘアサロン、エステからレストラン、喫茶店に至るまでを網羅し、最新トレンドスポットとして賑わった。
もちろん、若者のデートスポットとしても活躍していた。
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