第31話 訓練の終わり

兵士の強化訓練は順調に終わった。

各部隊のリーダーが自分達の役割を理解し、それぞれの部下の育成指導にあたったというのも効果的だった。 

だが、いくら以前の自分よりも強くなったとしても慢心してはいけない。そこでリュウは最後の仕上げを行うことにした。


『諸君、厳しい訓練によくぞついて来てくれた。その訓練ももう終わりを告げようとしている。最後に諸君の成長した姿を私に見せて欲しい。このグラウンドに仮想的を召喚する。君たちの手で掃討して欲しい』


リュウがそういい終わると10体の魔族と思われる者が現れた。

実はこの10体の魔族はリュウが分身して指輪で変装していたのだ。

リュウは目の前の壇上でスピーチしているので誰もリュウが正体だとは思っていないだろう。オーラのわかるエレノアでも分身からはオーラは出ないので判るはずがなかった。


『よっしゃー!いいとこ見せてやろうぜ!』

『A班、B班集合!作戦パターンBで行動する!』

『まずは敵のデータを収集しろ、そして各部隊に情報を送れ』

『散開して外側から狙っていけ!』


各部隊、いろいろと連携が出来るようになっているみたいだ。

まずはお手並み拝見といこう。


分身体の1体が近くにいる兵士に攻撃を仕掛けた。分身体は武器を持っておらず、素手での攻撃だ。 攻撃を受けた兵士の前に防御隊の兵士が盾となって止める。しかし、攻撃の重さが想像以上だった。二人の兵士は後方へと飛ばされた。

分身体の変化は指輪によるものなので見た目は2メートルを超す巨体の魔族だが、実際はリュウの大きさに過ぎない。だが、圧倒的なパワーは魔族以上に感じられるものだ。


『どうやら、かなりの力があるみたいだ!1対1では戦うな!連携していけ!』


今度は兵士が攻撃に入る。魔導銃を構えて狙おうとするのだが、照準を合わせる前に目の前から消えてしまう。

別の兵士は剣を振るうが少しも当たらない。


エレノアは負傷した兵士を即席救護所まで誘導して例の治療ベッドに寝かせていた。


各隊それぞれ攻撃を仕掛けるがなかなか有効な手段が見つからずにいた。


『動きが速すぎ!足止めする方法を使わないと!』


ユリンがそう言うと起爆剤の付いた苦無を数本分身体に向けて投げた。

分身体は余裕で躱すが、ユリンの目的は当てることでなく近くで爆破をさせて足止めをすることだった。行動は各部隊にサインで送っていた。

分身体が躱したと思った瞬間苦無が爆発した。次々に爆発する苦無に分身体は動きを止めざるを得なかった。

その瞬間を待ってましたと狙撃班が分身体をクリーンヒットさせる。

近接武器の部隊もとどめを刺すべく分身体に剣を突き刺す。

”ボン!”という音と共に分身体が姿を消した。


『よし!この調子で次いくぞ!!』

『おう!』


なかなかいい感じだ。

だが、今のはリュウがやる気を起こさせるために態と策略にハマったのだった。

実際の戦闘ならリュウ一の分身体一人で1万人居ても適うはずがないのだが、

それを見せつけたらヤル気を失わせてしまうので加減が必要なのだ。


各部隊、試行錯誤で攻撃の手段を見つけだした。

戦場では戦いを工夫することが勝利につながる。地形を利用したり、相手の心理を利用したり、利用できるものは何でも使うのだ。


防御隊も最初は力負けしていたが、最後の方ではちゃんと守り切れる様になっていた。やはり訓練と実戦では違うのだ。こういう経験が生存率を上げることになる。


残り最後の一体になった時、分身体に変化が起きた。分身体の纏っている気が何倍にも膨れ上がったのだ。 いや、むしろ今まで気を抑えていたという方が正しい。

普段のリュウも神に近しい力を持っているのでその力を抑えているのだ。


通常モードとなった分身体は今までの何倍も速くそして力強くなった。 

だが、ちゃんと攻撃は手加減しており、死なない様にしている。それは死なない様にというだけで、生ぬるい攻撃ではなかった。

骨折した程度ならまだマシだった。全身を痙攣させて倒れている者は一人や二人ではない。 正に地獄の風景といったところだろう。

本来、戦場とはこういうものなのだ。生きるか死ぬか。相手が絶対的に有利でも決して手加減はしてくれない。 その現実を知って欲しかったのだ。


そして非戦闘員を除く全員が地面に平伏した。


意識がまだ残っている兵士は朦朧としている意識を必死に保ち分身体を見ていた。

その分身体が指輪を外すと驚愕の光景が目に映ったのだ。

分身体の正体がリュウだとわかると皆愕然とした。


そして、リュウが指をパチンと鳴らすと分身体は煙に消えたのだ。


そのまま手を掲げ、リュウは完全治癒を唱えた。するとこの場の全員がまったく無傷の状態に戻ったのだ。


何が起こったか判らず呆気に取られていた。

これが実力の差だとしたらこの人は一体何なのだ?神としか例えようがなかったのだ。


『諸君、よく頑張った。俺の分身体を倒すとは大したもんだ。だが、強くなったと慢心してはいけない。世の中にはその上をいく未知の敵もいるかも知れない。さっきの分身体は俺の半分以下の能力しかない。だが、その程度の敵はこの世界に存在しているのは確かだ。これから精進してもっと強くなって欲しい』


リュウはそう締めくくると兵士の強化訓練の全メニューが終了した。


戻る途中、エレノアがやってきて

『やはり、私の神様です!素晴らし過ぎます!』

といって抱き付いてきた。いつからエレノアの神様になったのだ?


『あ~あ、エレノアだけずるい!!』


『リュウさん、私もっと強くなります!なので是非鍛えて下さい!』


ユリンとソフィアも近づいてきた。三人の姿を見て、私も負けじと女性兵士達にもみくちゃにされるリュウだった。


無敵の男もこういうのには弱かった・・・

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