第30話 迫る危機に備えて

軍の作戦会議室に各部隊の隊長・副隊長候補を集めた。


『諸君は厳しい訓練の中から選ばれた隊長・副隊長候補だ。これから各部隊を活かすも殺すも貴官達の行動次第となる。

今回集まってもらったのは今後の方向性を示唆するためと、何故俺が兵力強化の訓練を行わなければならなかったかを理解してもらうためだ』


集まった士官候補は皆緊張して聞いている。


『そう遠くない将来、隣国であるガゼフ帝国より我が国は侵攻を受けることとなる』


リュウがそう言うと静かに聞いていた者達に動揺とざわめきが起こった。


『しかし、我々はそれを黙って指を咥えて見ている訳ではない。幸いにも時間があった為、対策を講じることができた。

その一つが諸君ら兵士の強化だ。 だが、それだけでは不十分だ。現在、敵を撃退、殲滅するための兵器を開発中だ。

それと、一旦火ぶたが切られて開戦となったら我が国は敵の侵攻を受けたという大義名分が出来る。この期に乗じて帝国を完膚なきままに叩きつぶす』


リュウが力強く語ると、先程まで不安に聞いていた士官候補達がリュウの言葉と手際の良さに感動し、一斉に起立し拍手した。


『では、各部隊別に考えていることを説明しよう』


リュウは各部隊の説明へと移った。


攻撃部隊は攻撃力が要となる。攻撃の手法も状況に合わせて遠距離と近距離を使いわけなければならない。

遠距離攻撃については魔法が有効だが、通常の魔法士の届く範囲といえば100~200メートル程度だ。 リュウとしては500~1000メートルの射程を想定した兵器を開発中だ。


魔道銃というものがそれであった。それぞれの銃に小さな賢者の石で出来たカートリッジを差し込んでトリガーを引くと魔弾が発射されるというものだ。カートリッジ1つで約100発の魔弾が発射可能だ。カートリッジ交換のみで連射し続けられるので弾幕を切らすことなく掃射を続けられる。

魔法士の場合、魔弾に魔法力を加えることで火弾や氷弾として発射できる。もちろん、その場合の方が通常の魔弾よりも威力が強い。


工房の方ではガラスのレンズを組み合わせてライフルスコープを開発中だ。これを銃に装着すれば目視できない距離の敵でもヘッドショットが可能となる。

魔弾の場合、物理的な銃の弾と異なり、風などの状況変化がないため真っ直ぐに飛ぶので銃身にライフリングを切って弾を回転させる必要もなく、命中誤差は殆どないと言ってよい。更に、物理的な銃の様な熱源もないので銃身が熱で膨張や変形することもない。 銃の軽さといい、良い事尽くしである。


攻撃隊から参加していたジョゼフ、グレン、ソフィアはリュウの説明を聞いていたのだが、いまひとつピンとこなかったみたいなので皆を射撃演習場へ連れて行き、サンプル試作品の魔導銃を見せて試射してみせた。

500メートル先の米粒程度の標的をヘッドショットしてみせたのだ。

一同は双眼鏡を手渡されてそれを見ていたのだが、頭部が粉砕されるのを見て驚きの声をあげた。


『こりゃあすげえ!とんでもない武器だぜ、これは』

『こんなにすごい武器があるとはな』


グレンとジョセフが興奮してつぶやいた。


銃を三丁、それぞれに渡して試し撃ちさせた。

ソフィアの場合は普通に撃ったあとで魔法で氷弾が撃てるように指導した。

体を添えてソフィアの手を取り腰に手を添え指導するリュウにソフィアは紅潮した。そんな状況にあってもちゃんと仕事をこなすのがソフィアのえらいところだ。 魔弾は氷弾となって標的を粉砕した。


『それと、こういうものもある』


リュウは空間ポーチから大きな銃を取り出した。砲芯がいくつもあって円状に連なっている。


『これはガトリング魔導銃というものだ。これは毎分2000発の発射能力を備えている。このケースで約10000発の発射が可能だ』


ケースとは魔力が込められたもので自動車のバッテリー程度の大きさだった。


リュウは100メートル先の高さ2メートルの大きな岩に向かってガトリングを掃射した。

全てを粉砕するのにかかった時間は約2秒。 瞬きする間で跡形もなくなった。


あの岩山でなく、もし自分が標的だったらと考えるとゾッとする一同だった。




続いて防御隊への説明へと移った。



『防御隊は鉄壁の防御で敵を一歩も通さないことが使命だ。そのために、この防具を支給する』


取り出して見せたのは四角いジュラルミンの盾だった。大きさは畳一畳よりも少し小さいくらいだろうか?体は完全に隠せるくらいの大きさだ。


これは盾の底の部分に刃先が付いていて、地面に刺して使うことにより力で押し切られるのを防ぐ。それと横の者の盾と連結が可能となっていた。


『この盾の真ん中に開いている穴は何ですか?』


『いいところに気が付いた。それはこれを使う穴だ』


ヴァンの質問にリュウは応えながら、小さな銃を取り出した。


『これは魔導短銃という。これを防御隊には支給する。接近してきた敵をこの穴から銃を射撃する。距離が近く、照準を合わせる必要がないので短銃で十分なのと、銃身が長いと差し込みにくくなるという理由で短くなっている。


それと、防御隊にはこの武器も使って欲しい。 これはブーメランという武器で回転させながら投げる。敵を攻撃した後は元に戻ってくる様になっている。これを普段背中に装着しておき、必要な時に敵に投げつける使い方だ』


予め、味方全員には手首にバンドを巻かせておく。このバンドは味方識別装置となっている。防御隊のブーメランや魔導銃の魔弾は味方を識別して同士討ちを回避する様になっていた。

フレンドリーファイアは絶対に避けなければならないのだ。


『いろいろ考えられているのですね』


『うむ、面白い』


ヴァンが感心して言うとゴードンも口数すくなく賛同した。



次は諜報部隊だ。


『諜報部隊は通常の部隊に加えて、女性だけの”紅部隊”を作った。これは女性でないと潜伏できない場所とかもあるからだ。体を売れという訳ではないが、それを武器とする任務もあることは事実だ』


『リュウ、大丈夫だよ。もう子供じゃないから。その情報が国の運命を左右することだってあるんだからね』


ユリンが気にするなという意味で返事をしたが、その後ろから小声で”教官殿だよー”というソフィアがユリンの失言を正す声が聞こえた。


『諜報部隊はその存在や素性を他国に知られてはいけない。そのための道具を支給する。』


リュウが用意したのは指に嵌める指輪だった。


『これを指に嵌めると即座に偽装魔法が掛かる』


そう言って、リュウが指に嵌めると瞬時に小さな女性に変身した。そして指輪を外すと元の姿に戻ったのだ。


『ほほう、これは便利な道具ですね。任務に合わせて付け替えればいいですね』


『私は背が高い巨乳のやつがいい!』


感心した発言をしたのは元諜報部員のクリフだった。言葉使いが丁寧でどこかの執事でもしていたのかと思わせるような礼儀正しい姿勢と態度が特徴だ。


そして、ユリンはやはり背と胸にコンプレックスがあったらしい。

だが、残念なことに変われるのは見かけだけなのだ。変身している巨乳の女性の胸を揉んでも感触はもとの大きさでしかないのだ。 なので異性の変身をしても接触をすればすぐにバレてしまうのだ。


『まあ、個人的な願望は置いておくとして、諜報部隊員の武器は暗器を中心に使ってもらう。暗器は召喚武器扱いとなり、投擲しても消すことで証拠が残らないのと、武器の数量を気にする必要がないからだ』


リュウは苦無、十字手裏剣、卍手裏剣、吹矢などを召喚してみせた。


『この部隊は敵の暗殺だけでなく、攪乱や陽動も行う。その為に様々な術や道具の知識を身に着けて欲しい』


リュウのイメージでは忍者そのものだった。なのでこの部隊の衣装も基本忍者衣装だ。 ただし、街中では余計目立つのは言うまでもなく、その場に合わせた服装で場に溶け込む。




次は工作部隊だ。


『この部隊は言うまでもなく、工作活動を行う。進軍を早く進めるためにも進行方向にある障害物を除去したり、道がなければ作らなければならない。その為の物資も常に必要となる。 そこで、この部隊にはこれを渡しておく』


取り出したのは空間ポーチと同じ機能を持つショルダーバックだった。軍用の耐久性の高い見た目に頑丈なものだ。


『これは空間バックという。普通のバックの内部を空間魔法で別空間につなげてある。この中には無限に材料を保管でき、いつでも取り出すことが可能だ』


『おお!こいつはすげえ。これがあれば何でもできるぜ』


元大工のハンスは物作りにおける資材運搬の大変さがわかっているだけに、このバックの能力を高く評価していた。


『それと重い材料を持ち上げたり運ぶのに使用する道具を現在開発中だ。完成すれば建造時間の短縮と少ない人員での施工が可能となる』


リュウが考えているのはクレーンやパワーショベル、ブルトーザーといったものだ。駆動源をエンジンなどで行うのでなく、魔力を動力源にして使うつもりだ。賢者の石に魔力を蓄積させ、増幅して使用する。 ほぼ完成に近い状態まできている。


『これは何だかわかるか?』


リュウは皆に粘土状の固まりを見せた。


『それって粘土じゃん』


傍で見ていたユリンが思ったままに発言した。


『それにしか見えねえよな?』


ハンスも同じ意見だった。


『これは爆発物だ。安心しろ。このままでは爆発はしない。信管を差し込んで起爆スイッチを入れない限り安全だ』


リュウが皆に見せた粘土状の物は所謂”C4”と呼ばれるプラスチック爆弾だった。この世界で入手出来る材料で作ることができた。 ただし、知っている程度の知識で出来る代物ではない。

軍で爆弾知識に長けていたリュウだからこそ出来たのだ。

起爆の際の電気を流す部分をどうするかだが、それには苦労はない。乾電池程度の物ならすぐにでも作れたからだ。 但し、ここは魔法が使える世界。より安全に設置をしてから離れたところで土魔法で電流を流し爆破することにした。


せっかくなので、リュウは一握りのC4を岩に貼り付けた。200メートル程離れて、土魔法で起爆させた。瞬間、爆発音と土煙があがり、辺りが見えなくなってしまった。 煙が消えた後に見た光景は、岩のあった部分に何もなく、さらに5メートル程の陥没したクレーターの様な窪みが出来ていたのだ。


どう見てもC4の威力としては大き過ぎだが、それもその筈、リュウはここでも魔の森で採取した土の成分から材料を抽出していたのだ。 もとの世界の威力の3倍はあるはずだ。


士官候補生達はもう何をみても驚くまいと誓うのだが、都度見せられる光景に驚くなというのが無理な話だった。


『今後、工作部隊には街の職人の最新技術を逐次習得してもらうこととなる』


『勝手の知った連中です。任せてください』


元大工で職人の組合にも加盟していたハンスは職人仲間にも顔が広かった。




最後が支援部隊だ。表舞台には出てこないが、この部隊のお蔭で前線で戦う兵士は安心して戦えるのだ。


『それでは最後に支援部隊だ。こちらも物資を運ぶことになるので工作部隊ど同様に空間バックを支給する。 兵士の治療を行うにあたり、回復魔法を唱えていては魔力がすぐに枯渇してしまう。そこで負傷者にはこのベッドに寝かすようにして欲しい』


取り出したのは折り畳みチェアだ。リュウが出すのだから単なる折り畳みチェアではない。

魔力が込められているので、寝るだけで自然に回復魔法が掛けられるのだ。 怪我の重度に合わせて魔力が調整される仕組みになっている。


『このベッドと併せて重傷者にはこの点滴を打って欲しい。これは養仙桃から抽出されたエキスで重症でも30分程度の点滴で全快するはずだ』



『リュウ様、こんな素晴らしいものを!これも神のお導きですね』


元シスターのエレノアはシルバーの長い髪に細身の体の割に胸にボリュームがある20代前半の女性だ。リュウの手を取って感謝の言葉を告げる。まだシスター時代の感覚が抜けていない様だ。

それにしても、後ろから嫉妬の視線が当たってるのは気のせいか?しかも何故か一人ではないような・・・ いや、気のせいだ。


このエレノアは街の教会で孤児達の面倒を見ていたのだが、ある日街を歩いているリュウを見て神様!と言ってすり寄ってきたのだ。

話を聞くとエレノアは小さい頃から霊感というかオーラが見えるらしく、リュウの纏う神のオーラが見えるらしいのだ。 オーラがどういう物かわからないリュウだが、それならあの淫魔・・ではなかった、鈴鳴を見たらどうなるのかと思い、本人に聞いてみたところ、鈴鳴達はそういった能力のある人間にも悟られない様にオーラを消しているらしかった。要するに、リュウが修行不足なだけだった。

そういえば、以前にベガとかいう狼のボスにも神のオーラの事言われていたのを思い出した。


その後エレノアを引き離すのに苦労したのだが、今回リュウが兵士の教官となることを聞いたエレノアは是非自分も神様(リュウ)のために役に立ちたいということで参加を決意したのだった。

ここで活躍すれば少なからず報酬ももらえるので彼女としてはその報酬があればより多くの孤児を飢えから救ってあげれるという考えもあったからだ。


『支援部隊に特にお願いしたいのは食事についてだ。軍の遠征となると食事が疎かになりがちだが、兵士の英気を養うためにも食事には気を配りたい。材料調達や料理人確保については別途相談するとして、調理部隊を早く立ち上げて欲しい』


『流石はリュウ様。仰ることが違います。このエレノアにお任せください』


エレノアは神の勅命とばかりにリュウの頼みを果たそうと意気込んだ。



そして全ての部隊の話をし終わって解散となった。


解散後、その場を去ろうとしたリュウにユリンが声をかけた。

他の者が全員いなくなるのを待ってから話をはじめた。


『さっきの話なんだけど、教官殿』


『あはは、無理するな。リュウなんだろ。別に構わん』


『あは、じゃあ、お言葉に甘えて。 で、さっきの任務の話なんだけど、もし私が今後の任務で体を使う様なことがあったら、その任務の前にリュウに私の体を貰って欲しい』


リュウから見てユリンはあっさりし過ぎて別に異性として意識している様には感じられなかったのでその発言を不思議に思った。


『いいのか?俺なんかで』


『・・・・そうだ、あれだよ!娼婦とかのフリして接触するのに初めてだなんて知られたら任務失敗してしまうじゃん』


『そうか、そういう考えもあるな』


『約束だからね!』


そういって手を振りながらエリンは去っていった。


やれやれ、わかりにくいツンデレだ。

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