第29話 部隊編成

リュウは兵士訓練と並行して軍の編成を考えていた。

柔軟かつ効率的に動かしたかったのだ。

それぞれの部隊に専門性を与え、それに特化した訓練をしていく。

もちろん、基本的な戦闘や防御技術は備えての話である。


部隊構成は以下となる。


攻撃部隊:攻撃特化型部隊


防御部隊:防御特化型部隊


諜報部隊:諜報活動特化型部隊


工作部隊:工作活動特化型部隊


以上の四部隊となる。


攻撃部隊は奇襲作戦など戦略的な陣形や攻撃戦闘能力の強化を行う。物理攻撃に加えて魔法攻撃を中心とする魔法部隊もこの傘下となる。


防御部隊は敵の進行を阻止や護衛警護を想定した防御警戒能力の強化を行う。単なる防御のみでなく、防御しつつ敵を殲滅させる技も備える。


諜報部隊:情報収集や敵の陽動など臨機応変に様々な隠密活動を行う。姿を隠す隠行や飛び道具である暗器や毒類の使い方に長ける。


工作部隊:進軍において橋を架けたり、爆破活動、破城槌で防御壁を破壊したりする。武器・防具の開発もこの部隊を中心に行う。


以上、四部隊が中心となるが、後方支援として支援部隊も備える。物資の補給や救護活動、野営設置など兵士の支援を行う。




リュウは今回の訓練を通じて兵士の能力を判断してそれぞれ適正な部隊への配置を行う事とした。



昨日の着任挨拶イベントの時とは打って代わって、リュウが来ると全員が整列して敬礼で迎えた。 変われば変わるものである。


『おはようございます!教官殿!全員整列しております!』


確か彼は愚連隊のリーダー的存在だった兵士だ。昨日とは違ってなかなか良い眼をしている。


『よろしい。

それでは、今日から本格的な訓練を行う。先ずは身体強化を行う。実際の戦闘は長時間乱戦というのも良くある話だ。体力が続かなければ即、死につながる。俊敏な回避が出来なければそれもまた同じだ。 最初の3日間はこの身体強化に特化した訓練になる。苦しいかも知れないが付いてきてくれ。もし、この期間に効果がなければ俺のところに言ってきてくれ。以上だ』


こうして訓練が開始された。


実は今回の訓練があると聞いて参加を申し込んだ者が何名かいた。

クリスの護衛長だったヴァン、そしてBランクハンター碧き大海の4人だった。

碧き大海がこの訓練に参加したいと言ってきたのには流石に驚いた。



-- 時は二日遡る --


職人達の取り組み状況を確認した帰り道、リュウは知っている顔を見かけた。碧き大海のソフィアだった。


『あら、リュウさん。こんなところでお会いするなんて。それにお一人だなんて珍しいですね』


『お久しぶりです、ソフィアさん。そうでもないですよ、むしろ一人で行動することの方が多いかもしれないくらいです』


『そう言えば、大臣のご就任と伯爵様となられたそうで、おめでとうございます。もうリュウさんなんて気軽に声を掛けてはいけませんね』


『ありがとうございます。でも、俺自身なにも変わってませんよ。地位なんてお飾りでしかありません。今まで通りで大丈夫ですよ』


リュウは笑いながらソフィアにそう返した。


『それと、クリスティーヌ様とご婚約もされたと聞きました。運命の出会いってあるのですね。 でも、私の方がリュウさんと先にお会いしていたのに・・・ もっと積極的にアタックしておけばよかったですね』


ソフィアはリュウが年下というのが引っかかっていたのだ。もし元の世界の32才のままだったらこうはならなかったかもしれない。


どう返していいのかわからないことをソフィアが言ってリュウは困惑した。

まあ、社交辞令として受け取っておこう。


『実はリュウさんにお願いがあります。お会いしてお願いしようと思っていたところだったので丁度よかったです。 近々、兵士の強化訓練があるとお聞きしました。 そこに私達も参加させていただけないでしょうか?』


『突然ですね。理由を聞いてもよろしいでしょうか?』


『以前、私達が盗賊に襲われた時にお嬢様に助けていただきました。たった1カ月の訓練なのに有り得ないくらいの強さに成られていました。

今の私達はBランクのハンターとはいえ、盗賊にも負ける様です。このままではいけないと思い今回の訓練で是非私達も鍛えていただければと思った次第です』


『しかし、兵士と一緒になって訓練を行うのは非常に過酷なものですよ?それに軍では一兵卒でしかありませんし』


『はい、当然、覚悟の上です。

それと、今、リュウさんはこの国の立て直しをしようといろいろ画策されているとお聞きしています。もともとこの国の人でないリュウさんが頑張られているのに、この国で産まれ育た私達が国の役に立てていない自分が許せません。是非ともお願いします!』


ソフィアは懇願すると共にリュウの腕に力強くしがみ着いた。見るからにボリュームのあるソフィアの豊満な胸がリュウの腕を圧迫していた。

この感触はなんとも捨てがたいのだが、あまり肩入れするとこの先にまたトラブルが起こりそうな予感もして、リュウの脳内警告ランプが点滅していた。


『事情はわかりました。それだけ強い意志があるというのであれば配慮しましょう』


『本当ですか!?ありがとうございます!!』


喜びのあまり、ソフィアはリュウに抱き付いた。今度はダブルで胸が押し寄せてきて苦しそうに圧迫されていた。

という、喜びも束の間、こんな往来で多くの目があるのに・・・クリスに変な噂として耳に入らなければいいのだが・・・と不安になるリュウだった。


-- 現在に戻る --


兵士の訓練は足腰の鍛錬にスクワット。上腕を鍛えるために腕だけで10メートルのロープ登り、通常の剣の3倍の重さのある刃のない剣での打ち込み、その剣を使っての素振り、反復横飛びなどを日替わりで組み合わせた。


初日は昼食と夕食、2日目と3日目は朝食と夕食に養仙桃を一人つずつ与えた。1000人いるから6000個を消費した。数万個のストックがあるとはいえ、手持ちが減った分、また補充をしておかなければならない。その辺は鈴鳴にお願いをしておいた。

最初は面倒臭がった鈴鳴だが、リュウが夜にサービスするからと言うと二つ返事で引き受けた。リュウとしては特別なにもするつもりはなかったのだが、嘘も方便である


3日間訓練を続けた兵士達の成長は予想通りのものだった。

皆、信じられないという顔でお互いの成長ぶりを確認していた。


『ユリンの方はどう?』


『もう信じられないくらい力が出るようになったよ!これならもっと大きな弓でも問題なく引けるわ。 ソフィアの方は?』


『私も、魔法士なのにこんなに体力ついていいの?って感じ』


ソフィアとユリンもお互いの状況を確認しあった。



4日目からは訓練形式が変わった。5人が1つのチームとなって模擬戦を行うのである。戦闘では経験がものを言う。模擬とはいえ、自分達で戦況を見据えながら行動していく判断力と行動力が必要なのだ。 その中で戦術として何が効果的で何が悪かったのかを体で覚える。これを繰り返した。


4日目以降は食事も通常の食事にデザートとして養仙桃を1/4カットしたものが添えられている。 流石に毎日2000個も消費したのではリュウのストックも足らなくなってしまう。


その後も攻撃術、防御術、戦闘技能、工作術などありとあらゆるものを兵士に教えた。

元エリート軍人のリュウの指導は驚くべき効果があった。




3週間が経過した時、それぞれを部隊分けすることにした。


攻撃部隊は碧き大海のジョセフが隊長候補で元愚連隊のグレンが副官候補だ。グレンは狙った名前でなく本当に最初からグレンとう名前だったらしい。


魔法隊は碧き大海のソフィアが隊長候補となった。



防御隊はクレアの護衛長だったヴァンが隊長候補で碧き大海のゴードンが副官候補。



諜報部隊は元国の諜報部員だったクリフという男に任せることにした。

そして、諜報活動には女性ならではの行動も必要なので女性専門部隊として”紅部隊”を設立。部隊長を碧き大海のユリンを候補とした。


工作部隊はハンスという元大工が隊長候補にあがった。短期間に家を建てる手際の良さが役立ち、戦場での臨機応変さや適切な指示が出来たからだ。


そして、後方活動部隊の支援隊だが、元シスターのエレノアという女性を隊長候補とした。後方部隊では救護活動や食料支援などで女性が適している場面も多かったことと、エレノアはシスターとして多くの人の信頼もあったためだ。


驚いたのは碧き大海のメンバーがどこかしらのリーダーとなっている事だが、考えてみればハンターとして実績を積んできた彼らなら当然ということだ。今回の志願にAランクハンターがいればまた違った結果になったかもしれない。そういった意味では運が良かったともいえる。


残りの1週間は部隊毎に特化した訓練を行うことにし、各部隊の隊長と副官候補を集めて説明を行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る