第28話 兵力強化

翌日、リュウは早速、ローグの周囲5キロ四方を外壁で囲み、更地にして区画整理を行った。これらを一瞬で行える魔力は相当なものだ。


そして、新区画の中心地、旧ローグに近いところ、即ち一等地に自分の家の敷地を確保した。今後、新区画の貴族用の敷地は中心にある城から近い場所から高値で取引されていくであろう。


リュウの屋敷の敷地は200メートル四方だ。通常の貴族用の敷地が50メートル四方なので16倍の広さを有することになる。まあ、これが開拓者特権というものだ。それでも普通の貴族用の土地でもそこそこの屋敷と庭を構えることができる。


敷地に芝生を敷き、魔法で家を建てようかと思っていたら、ローグの街からゾロゾロと職人達がやってきた。


『伯爵!水臭いですぜ。伯爵の家は是非俺たちに建てさせて下さい。せめてもの恩返しです』


ジャンが仲間の職人達と一緒にリュウの家を建ててくれるというのだ。それも今開発中の鉄筋コンクリート造りの家だ。 実に頼もしかった。


初期の50人の職人を筆頭に今では数百人の職人が新しい技術に携わっている。

リュウの家も人海戦術でなんと一週間で完成したのだった。


そして、リュウからは建築に携わった職人全員に、ご祝儀として金貨5枚ずつ(約50万円相当)が振舞われた。


家は鉄筋コンクリート製だが、無骨にならない様に、外観は木のパネルをサイディングして白い塗料を塗っている。 三階建てで、屋上はテラスと展望台になっている。まだ、周辺には何も立っていないので区画の隅々まで見渡すことができる。


新区画にはリュウの屋敷の他、工業区画と商業区画が既に工事が着工されている。その他、行政機関や軍施設、アカデミーといった施設の敷地は既に用意してあり、効率的な配置にしてあった。 





それから間もなくして、リュウは軍の施設に来ていた。

この国の軍隊は2種類ある。1つは領主の管轄する騎士団。もう1つは国の管理する国軍である。 そしてリュウは今国軍の方に来ていたのだ。


国軍施設のグラウンドには総勢1000人の兵士が集まっていた。


『俺の名前はリュウだ。軍の兵力強化を行うために今日から指導させてもらう。今までとは全く違うやり方だが、ついて来れた者は確実に強くなる』


リュウは集まった全員に対してスピーチをしていた。


この軍の士気は決して高いとは言えず、むしろダラケていると言った方が近かった。


『おいおい、貴族様よ、勘弁してくださいよ。俺たち10年以上も兵隊やってるんだぜ。昨日今日来た貴族様に教えてもらうことなんてねえよ』


『棒切れ振り回して遊んでるわけじゃねえからなあ』


どこからともなく茶化す言葉が投げかけられてくる。


リュウも当然想定していた。軍には落ちこぼれや愚連隊と呼ばれる連中は必ず居た。そんな奴らでもちゃんと戦場から無事に帰ってこれる様にしないといけないのだ。

逆に奴らの意識を向上させれば軍の士気が飛躍的に上がりやすくなるのも承知していた。

いわばキーマンなのである。


『それでは一つゲームをしないか?俺と戦って少しでも傷を付けられた者には二階級特進としよう。 立候補する奴はどいつだ?何人でもいいぞ?』


リュウが連中を挑発した。


『おいおい、マジかよ!これは特進確定イベントじゃねえか!』


俺も!俺も!と総勢50人以上が集まってきた。


それを一瞥してリュウは


『これだけか・・・それじゃ、ハンデをやろう。俺は目隠しして手を縛る。動かせるのは脚だけだ。どうだ大サービスだろう。もちろんお前らは全員で掛かってきていいぞ。もちろん武器はなんでも構わん。殺す気で掛かってこい』


それを聞いた連中は頭がおかしいんじゃないかと思った。どう見ても勝ち目は兵士達の方にあると思ったからだ。


『それじゃ、時間も惜しい。はじめるか。掛かってこい!』


クリスに目隠しと両手首と両腕を念入りし縛って貰って、ゲームの開始を告げた。


『よっしゃー!貰ったー!』


一斉にリュウに飛び掛かった。


だが、気が付くとリュウはそこに居なかった。

本来居ないはずの所に立っている。しかも目が見えない筈なのに、下から斜め上に蹴りを顎に入れて一人、カカト落としでまた一人と倒していく。

兵士達には全く理解できなかった。リュウに攻撃があたる気がしないのだ。背後からナイフを突き刺そうにも、そう思った段階でリュウに反応されていたからだ。

リュウは今回術もなにも使ってはいない。単なる身体能力だけで対処している。


そして3分後には誰もその場に立っている者はいなかった。


拘束を外すとリュウは言った。


『今のが戦場ならお前ら全員屍になっていたな。しょうがない、もう一度だけチャンスをやろう。 ルールは同じだ。今度は俺でなく彼女が相手だ』


今度の相手はクリスだという。リュウの強さは次元が違うと判断したが、今度は絶対いけるという希望を抱かせたのだ。


『おいおい、お嬢様を傷つけていいのかよ』


『構いませんわ。遠慮せずに掛かって来て下さい』


クリスが何事もない様に返すと流石に馬鹿にされたと頭にきたのか逆上して容赦なくクリスへと掛かっていった。


結果は、リュウの時と同じであった。この程度のこと、今のクリスにとって造作もない事なのだ。


ただ3分とはいかなかったが、5分後には誰も残っていなかった。


『判っただろう、これが現実だ。 だが、勘違いするな。 彼女は1カ月間俺のところで特訓しただけだ。 俺を信じて必死に頑張った報いで強くなった。 お前らはどうなりたい?強くなりたければ黙って俺を信じてついてこい』


連中を従わせるには実力を見せつけることが大事なのだ。自分達が認めた相手には従うことをリュウは知っていたのだ。


後日彼らは、リュウがS級相当の手配者であった辻斬りドウザを単独で討伐したと知って二度と逆らうまいと誓うのであった。


そして次の日から兵士の特訓がはじまることとなった。

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