第27話 改革大臣
リュウが案内したのは200平米程度の土地だった。その土地にはびっしりと野菜が実っており、この国に住むものにとって夢の様な光景だった。
『これが全て野菜ですか? こんなにたくさん・・・』
この国では人々が生きていくのに必要な野菜を確保するのも困難なのに、目の前には肥えた土地に豊富な野菜がところ狭しと成っているのだ。 この場の皆が驚きの顔を隠せなかった。
『む・婿殿、これは一体どうすればこの様になるというのだ』
しばらく言葉を失っていたが、領主がやっと言葉を発した。
『最初は砂の下の地層の土を使おうと思っていましたが、先程御覧いただいた油田が出てきましたので断念をしました。代わりにある場所から豊かな土と肥料となる材料を集めてきました。これが効果てき面だった様です』
『それである土地とは?』
『魔の森です』
それを聞いた皆がまた驚いた。何せ魔の森とは人が入って生きて帰れる場所とは思えず、禁忌の領域として人々は消して足を踏み入れないからだ。
『俺は以前、魔の森に居ましたのでどんな物があるのかだいたい判っています。そこの土は魔力を帯びていて、枯草なども養分としては最高のものだったのです。
それをそのまま持ってきて使ったという訳ではなく、それを素に独自に肥料を配合して魔法で10年分の熟成を行ったのがここにある土です』
『うむ、最早婿殿の行動力には言葉もないな。いや、素晴らしいという意味でだ』
『ありがとうございます。そしてこの土のすごいところは通常の土よりも発育が早くなるということです。期間にして約3倍です。例えば、種を植えて実が成るのに3か月掛かるものだと1カ月で済むということです』
豊かな実りに加えて収穫の間隔も早くなるということは少ない土地でも効率的に栽培できるということだ。 大規模な農場でなくても空いている土地を利用して活用すれば効果的だった。
『この促成栽培方法でこの国を作物でも有名な国にしましょう。工業大国と農業大国、この二つの面を持つ国として発展していけば豊かな国となることは間違いありません。
それと、土地という面で言えば、今のローグは狭いと考えます。これからの発展を考えると一辺が5キロメートル、即ち25キロ平米の土地を新らたな領域として城壁を用意する必要があります。面積で言えば今の25倍です。
その範囲の土地を一定間隔で縦横の道で区切って区画整理を行います。先程説明しました上下水道や道路の舗装などをこの新区画を優先的に施し、将来的には皆さんがこちらに移り住める様にします。 そして街の中心地となる今のローグの部分に城を築くのです。大きく成長した象徴ともいえる立派な城です』
リュウの考えはかなり先を見据えたことで、あまりにも飛躍し過ぎていて皆の思考がついていけなかった。 しかし、領主や大臣達は真剣にリュウの話を聞いていた。 先程までの驚く様な取り組みの数々をこなしていけば、そう遠くない将来に十分に実現可能と考えたからだ。
『婿殿、その話はこの後に大臣会議にて話をしたい。もちろん前向きに考えてだ』
『承知しました』
リュウの思惑通りに事が進んだと考えていいだろう。しかし、本当に大変なのはこれからだ。これらの取り組みは全てリュウ抜きでは進められない。だが、リュウは一人しかいないのだ。 まあ、その時は分身の術で複数対応すればいいかとも思っていた。
こうしてお披露目会は大盛況かつ大成功にて幕を閉じた。一応、重鎮の視察は終了したのだが、貴族などで興味のある者達がそれぞれ説明にあたっていた職人達と話をしていた。
『それでは、婿殿。公邸に戻り、今後の事について話をしよう』
この後、1時間後に公邸の会議室で領主と四大臣との会議が行われることになった。
『まずは婿殿。貴殿を正式に改革大臣の任命ならびに伯爵の位を授けることとする。あれだけの実力を披露したんだ。この国で誰も意義を唱えるものなどおらん』
『お言葉ありがとうございます。謹んで拝命いたします』
『今後は改革大臣として各大臣と協力して改革を進めていって欲しい』
こうしてリュウは正式にマキワの改革大臣となり、貴族として伯爵の地位を得た。リュウには苗字があるので正式にはタイラ伯爵と呼ばれることとなる。
その後、改めて各大臣の紹介をしてもらった。
法務大臣 ランドルフ 60歳 白髪の細い体で物静か。法律を扱うだけあり厳格そうなイメージがある。
政務大臣 ランタル 55歳 先程の説明でもわかったが丁寧で律儀な人だ。
軍務大臣 ローセン 50歳 軍の経験は事務方のみで実戦の経験は少ない。
財務大臣 ドルトス 41歳 銀行員という感じのするオールバックで計算に強そうな感じがする。四人中一番若い。
と四人を紹介された。一番若い財務大臣のドルトスでさえ41歳なのだ。俺にみたいな25歳の若造が加わっていいものなのだろうか?
『タイラ・リュウと申します。年齢は25歳。Aランクのハンターです。若輩者ですが、どうぞご指導の程、宜しくお願い致します』
リュウが礼儀正しく挨拶を行った。
『いやいや、君の年齢でこの場に連ねるということは、それだけ優秀ということだ。気にせず大いにその能力を我が国のために振るっていただきたい』
そう言ったのは最年長の法務大臣のランドルフだった。他三人もその言葉に頷いていた。
『それでだ婿殿、いや、タイラ伯爵。国の発展は貴殿の考え通りに進めるとして、問題なのは隣国の動きだ。正確には隣のガゼル帝国が我が国に侵攻してこようとする動きがあるらしい。 今すぐにという訳ではないのだが、武器や人員の流れからしてそう遠くない時期と考えてもよいだろう』
リュウは領主の言う事を黙って聞いていた。
『そこでなのだが、儂は軍務大臣をやっておるが、作戦立案や人事面では自信があるのだが、兵士を鍛えたりというのには向いておらん。 我軍の兵士の増強に貴殿の力を貸してくれぬか。聞いたところによると貴殿は以前に軍の最前線で活躍していたそうではないか』
軍務大臣がリュウを見込んでの頼みであった。
『それには心配及びません。短期間で兵力を何倍にもしてみせましょう。新開発の兵器の配備もありますし。 それと、確認させていただきたいのですが、軍組織を私の思う様に配置しても構いませんか?』
『うむ、それが最善というなら貴殿の思う様にするがいい』
『ありがとうございます。それと、現在この国は2つの国と国境で接しています。もう一つの国は湖の向うで、湖には凶暴なサーペントが生息しているため攻めてくる対象として除外して、残る二国のそれぞれの国境に近い場所に軍事都市を作りましょう。敵が攻めてきてローグから対応していたのでは後手に回ってしまいます』
『都市を作るとはそんなに簡単にいかんだろう』
領主がもっともな質問をした。
『それが戦略なのです。ローグに近い場所に予め軍事施設を建設しておきます。敵が侵攻してくるタイミングを見計らって、敵との防衛ラインの背後にこの拠点を魔法で空間転移させるのです。もちろん、この拠点では最新兵器での洗礼も漏れなく行います。これを何度か繰り返せば敵も迂闊に我領土に足を踏み入れることはしなくなるでしょう』
『いつもながら貴殿の構想は我々の考えの斜め上を行っておるな』
軍務大臣が笑いながらリュウの作戦に頷いていた。
そんな感じで第一回目の大臣会議は無事終了した。
公邸を出てきたリュウをクリスが待っていた。
『お待たせ、クリス。無事終わったよ。これで正式に改革大臣と伯爵が決まったよ』
『ああ、リュウ様!おめでとうございます!!』
それを聞くや否やクリスはリュウに抱き付いた。 今日はハンターではないので防具は付けておらず、普通の服のクリスの胸が潰れるくらいにリュウの胸に押しあたる。
今夜は激しい営みになりそうだ。
『それと、伯爵になったから、そろそろ家を構えないといけないな。以前に話したと思うけど、今のローグの外周に新区画を設けるんだが、そこの一等地に俺たちの家を用意してもいいという許可ももらってるから、そこに屋敷を建てよう』
先程の会議の中でリュウは新区画の開拓の際に自分の敷地の確保の了解を得ていた。
『新居ですね!私はリュウ様とでしたらどこでも幸せですが、狭いより広いに越したことはありませんね! それではこれからは料理とかも覚えないといけませんね』
リュウはクリスの料理というものを知らなかったが、一体どんな料理が出てくるのか、期待半分、不安半分だった。
その夜、予想通り、クリスは凄かった。
一応、鈴鳴も一緒に暮らしているので最初の頃はこっそりと営んでいたのだが、そんな状況をあの淫魔が黙って見ている筈もなく何かと自分も参戦しようとしてくる。
クリスもその都度拒絶していたのだが、いつの間にか拒むことがなくなった。
どうやら、クリスとしては相手がどんなに尽くしてもリュウの心と身体は自分のものだという優越感に浸れるのと普通ではない状況に異常な興奮を覚えたのだった。
とはいえ、リュウはクリス以外とする気はなかったのでしばらくは抵抗をしていたのだが、いつの間にか鈴鳴とクリスがタッグを組む様になったので力では仙人と強化されたクリスの二人の合わせた力には敵わず、撃沈するのであった。
それ以降はリュウも抵抗するのが馬鹿らしくなり、クリスがそれでいいならと仲良く?
三人で営むようになったのである。
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