第18話 ランクアップのお祝い

クリスと共にウォーウルフの生息地へと向かっていた。

場所はコヨーテの居た場所よりも更に奥で、距離としては2倍程となる。 リュウの検知ではウォーウルフの縄張りの山には50匹程の集団が確認された。 山の麓には街道があるのだが、当然縄張りの範囲なのでよく商人や旅人が襲われる危険地帯だ。


街道とは離れた奥の山にも別のウォーウルフの集団がいるみたいなので、気の毒だがこちらの街道沿いの集団には消えてもらうことにした。一応、リュウにも絶滅危惧種になったり、食物連鎖が変わらない様にという配慮はあった。


瞬歩で向かったリュウ達は一時間程で現地に到着した。


『クリス、5km先に狼の集団がいる。数は50匹だ。クリスは討伐対象の5匹だけ狩ってくれ。残りは俺が片づける』


『問題ありません。承知しました!』


リュウの感知反応ではウォーウルフの戦闘能力はコヨーテの5割増しだ。 この程度ならクリスでも全く問題ない。

だが、集団での戦闘を得意とする狼達だ、油断は禁物だ。


『クリス、やつらは集団行動を強みとしている。囮に気をとられて背後から襲われないようにな』


『はい、気を付けます!』


リュウ達は麓の風下から奇襲を掛けることにした。

狼の群れにリュウが攻撃を仕掛け、態と逃がした数匹をクリスが仕留めるという作戦だ。


リュウはかなり遠くの位置から空間転移で狼達の心臓を抜き取って順番に屠っていった。

仲間が次々に倒れるのを見て異変に気付いたボスは周辺警戒の遠吠えをしたが、既に時遅しだった。

目の前に現れたリュウに狼が襲い掛かる。

リュウは蹴りだけで狼を10メートル以上蹴り飛ばし絶命させる。 適わないと感じた何匹かがボスの静止を振り切って逃げ出した。 もちろんその先にはクリスが待ち構えている。


最後に残ったボスは驚くことに人間の言葉を喋った。

長年生き永らえて魔物に変化したのかも知れない。


『人間、何故我らを虐げる』


『お前らが街道を通る人間を襲うからに決まっているだろう。何もしなければ手出しはしなかったさ』


”まあ、討伐の5匹は狩らせてもらったかもだけど”


『我は人間を襲うなと指示をしておった。こうなることは目に見えておったからな。我の統率不足だ』


『今後人を襲わないというのなら見逃してもいいぞ。俺も無駄な殺生はしたくない。出来れば最初に話が出来たら違っていたかもな』


済んだ事は仕方なかった。


『わかった。人に手出しせぬと誓おう。我の名はベガだ。お主からは神の気配を感じる』


『俺の名前はリュウ。そうか、神に仇なすものか?』


『いや、我は中立だ。神に歯向かうなど畏れ多い』


『その言葉信じるとしよう。それと仲間を殺生して悪かった。丁重に弔っておく』


『よろしく頼む・・・』


ベガはそう言うとどこかに消えていった。


『まあ、今の会話はクリスに聞かれなくてよかったな。あと、約束だからこいつらは弔ってやらないとな』


そう言うとリュウは狼達全員に聖属性の魔法を施し消滅させた。


クリスは無事5匹を仕留めたようだ。既に解体も済ませてあった。


『すまないクリス。こっちの残りは訳あって全部消滅させてしまった』


『そうですか、別に構いませんよ。討伐対象の5匹は確保出来ましたからね』


討伐達成が確定したから長居は無用。リュウとクリスは元来た方向へ向かった。



山から降りてすぐのところで進行方向より少し東側に検知反応があった。 盗賊とハンターだろうか? ハンターは知ってる気配の様だった。


『クリス、この先で盗賊とハンターが揉めてるらしい。ハンターは知り合いみたいなので様子を見るぞ』


『了解しました!』


リュウは視界に入る前に千里眼で状況を確認する。

どうやらハンター達は碧き大海のパーティみたいだ。

盗賊は30人ってところか。


『ソフィアさん達はどうやらトラブルに愛されてるらしい』


当人達がそのセリフを聞いたらお前が言うな!のツッコミを受けていただろう。



リュウはクリスの手をとり、瞬間移動で碧き大海パーティの背後へと転移した。


『どうやら、不味い状況みたいですね』


リュウが背後から声をかける。


『おおおわ!お前!どっからやってきた!!』


逸早くジョセフが反応したが、一同ビクっとして心臓が止まりそうになったのは間違いない。


『リュウさん!それに・・・お嬢様?? なんでここに?』


ソフィアはまったく状況が理解できないでいた。


『おや?どうやらカモネギの数が増えたみたいだな。取り分が増えるから大歓迎だせ!』


向うで盗賊が何かほざいている。


『あっちにいるクズ虫達は?』


『どうやら私達を街から着けていたみたいです。リュウさんにもらった魔道具や先日の大金の賞金があることを知ってるみたいなので』


『なるほど、ただのハゲ鷹ね。いや、ハイエナか』


ソフィアの説明でリュウがなんとなく理解できた。


『それじゃ、とりあえず回復しときますね。クリスはあいつら殺れる?』


『はい、問題ありません!』


見るからにボロボロの状態だった碧き大海の4人はリュウの回復魔法でノーダメージの状態に戻った。 それよりもリュウとお嬢様の会話が理解できずにいたのだ。


その直後、お嬢様は敵に向かって走っていったのだ。いや、走るというよりも飛んでいったと言った方が近い。 ソフィア達は彼女を止める暇もなかった。


しかしその心配は視線の向うで驚愕へと変わったのであった。お嬢様は軽々と槍を振り回し、その柄で盗賊達を叩きつける。

か弱い女性が叩いたとは思えない重い打撃音と共に盗賊達は次々と地面へと沈んでいく。 顔の側面から叩かれた者は有り得ない角度まで頭が回転している。恐らく即死だろう。


一瞬で半数以上を仕留めた頃、盗賊達は我先にと反対方向に一目散と逃げ出した。 逃げる盗賊にお嬢様は地面を蹴って飛んで追いつき、或いは槍から出る何かの力で遠くにいる盗賊をも屠った。 正に一方的だった。 そして盗賊は全滅したのだった。


『もういいだろう。全滅だ。クリスよくやった』


『はい!ありがとうございます!』


クリスはリュウに褒められて嬉しかった。いつものウルウルだ。


碧き大海のメンバーは全員口をあんぐりと開けて惚けていた。


『リュウさん、この方はあのお嬢様ですよね?』


『はい、そうですよ。先日我々で助けた領主の娘のクリスティーヌですよ。間違いありません』


リュウはソフィア達に領主に招待されてから今までの事を説明した。


『状況はわかりましたが、あれからまだ一カ月も経っていないのに先程の戦闘力・・・リュウさん一体何をすればあれ程までになると言うのです!』


『あはは、まあそこは企業秘密ということで』


必死にはぐらかそうと思っているリュウだった。


『リュウ様、そろそろ報告に戻りませんと』


『そうだったな。 すいません。ギルドに討伐報告があるのでこれで失礼します。盗賊討伐の報酬はそちらで分配してください』


『あ、でも私達は倒してませんけど・・・』


と言い返したのだが、気付けば二人はもう彼方まで飛んでいってしまった後だった。


『ほんとに、リュウも大概規格外だけど、弟子にした女の子まで規格外になっちゃうなんですごいよねえ』


ユリンがボソリと呟いた。


『おいおい、あの子の強さは尋常じゃなかったけど、リュウはもっと強いのか?』


ジョセフがソフィアとユリンに尋ねる。


『次元が違うよ。睨まれただけで瞬殺されちゃうくらいだから』


『ありえん』


前回の戦いぶりを思い出しながらユリンが語ったが、ゴードンは信じられないという口調で会話を締めくくった。



ソフィア達と別れて1時間も経たずにリュウ達はローグの街へと戻ってきた。


ギルドへ戻って受付で討伐達成を済ます。職員の女性はやっぱり本当に戻ってきたんだと顔を引きつらせていた。

報告が完了した頃、別の職員が声掛けに来た。


『リュウ様、ギルド長がお待ちです。お部屋にお越しください。クリス様もご一緒にとの事です』


『わかりました。それじゃ、クリス行こうか』


リュウとクリスは二階奥にあるギルド長の部屋へと向かった。


職員に案内されギルド長の部屋へと入る。


『まさか貴方、一カ月で本当に鍛えるとは驚いたわ』


部屋に入るや否やギルド長のナターシャはリュウに声を掛けた。


『いやあ、クリスに素質があったからですよ。 あ、そうだ、ここに戻る途中に碧き大海のメンバーが30人の盗賊に襲われてました』


『また盗賊が出たの!?それで?あの子達は無事なの?』


四人の安否を心配するナターシャだった。


『クリスが盗賊全員を殲滅しましたよ』


報告に安堵するが、すぐに驚きに変わる。


『全滅って、30人もクリスさんが一人で?』


『はい、全く問題ありませんでした』


今度はクリスが自ら自信を持って問いに答えた。


『領主もお可哀想に・・・諦めると思ってハンター見習いにさせたのにこれじゃ、逆効果だったわね』


『何れにしても自分の身を守れるというのはすごい事ですよ』


『そうねえ・・・領主が納得してくれるといいんだけど・・・』


約束の期日が明後日なので明後日に領主の館で1カ月間の成果報告をすることになっている。


まあ、この後の事については他人がどうこう言うことではない。親子間で話し合いをして決めればいい。

とは言うものの、この1カ月一緒に弟子としていたクリスが居なくなるのは少し寂しい気がした。


ナターシャとの話も終わり、一階のフロアに戻って、リュウは受付で何やら話をして戻ってきた。


『さあ、これで無事任務終了だ。Bランク昇格おめでとう!これがBランクのバッチだ』


そう言いながらリュウはシルバーのバッチをクリスの左胸に着ける。ピンで止めるタイプなのだが、着ける際にふくよかな胸が少しだけ手の感触でわかる。 どうやらクリスも気付いているのか顔が真っ赤で息遣いが粗い。 わざと戸惑うこともなく無事バッチを胸につけることができた。 シルバーが誇らしげに輝いている。


『あのう、リュウ様。Bランク昇格のお祝いなんですけど・・・』


『ああ、そうだったな。何か欲しいものがあるのか?』


『えっと・・・キ・キスをして下さい!』


クリスが顔を真っ赤にして恥ずかしいのを我慢して言い切った。リュウは子供がよくやる頬っぺにチュッってするやつだなと思い横に回って頬に向けてキスをしようと顔を近付けた瞬間、クリスはリュウの方をクルリと向いてそのまま唇に熱いキスをしたのだ。

リュウは驚いたが、このまま引き離してしまえば傷付けてしまうことになるし、それでトラウマになっても困るのでクリスに合わせることにした。 軽く終わるだろうと思ったら甘かった。

クリスはフレンチではなくディープなキスをしてきたのだ。

こんなのどこで覚えたんだ?恐らく初めてであろうキスの筈なのに大胆なことにリュウは驚いたが、覚悟を決めてクリスの腰に手を回し、力強く引き寄せた。


ちなみに二人の居た場所はギルドの入り口付近である。

当然ギャラリーは沢山いたのだ。 瞬く間に二人の噂は街中に広まるのであった。 それと同時に物陰から女性の奇声が聞こえたり何故か備品が破壊されまくっていたという謎の現象も起きていた。


”ああ、やっちまった・・・これって既成事実ってことになるのかな”


柔らかい唇の代償にこの先何が待ち構えているのか不安になるリュウであった。

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