第17話 ランクアップ

ギルドに着いた二人はクリスの見習い討伐依頼を請けることにした。

リュウは受付の女性に別の依頼の確認をした。


『初級から中級への昇格クエストは何ですか?』


『はい、中級昇格クエストは、ウォーウルフ(戦闘狼)の討伐になります。

ウォーウルフの皮5枚の納入です。あのう、こちらの女性が請けられるのでしょうか?』


クリスティーヌはハンター登録ではクリスとして登録しているのでギルド職員はまさか目の前の少女が領主の娘でハンター見習いをしてるとは夢にも思わなかっただろう。


『ええ、この見習い討伐が終わったら、すぐに請けようと思っています何か問題がありますか?』


『ご存知だとは思いますが、昇格クエストではパワーレベリングは禁止てれています。中級昇格は見習いとは違って同行者の支援は出来ない規則になっています』


『それなら問題ないですよ。彼女は既にBランク以上の実力がありますから』


受付の女性はこれから見習い討伐を受ける女性がBランク昇格試験をそのまま単独で請けれるとは思えなかったが、Aランクのリュウが言うのだから大丈夫なのだろうと思うことにした。何しろそのリュウ自身がたった1日で見習いから最上級のAランクに昇格した本人なのだから。


『それじゃ、クリス、見習い討伐のコヨーテを狩りにいこう』


『はい!』


ギルドを出たところでリュウは気が付いた。


『そういえばクリス、武器はあるけど防具がなかっただろう。一応事前に作っておいた。これを着けるといい。 合格の前祝いだ』


そう言いながらリュウは空間ポーチからローブと小手、バンダナを渡した。 ローブは着たあとで腰のところでベルトを締めて動きやすくするタイプだ。表面の素材は防刃の特殊繊維で肩や胸など急所の部分にはカーボン製のプロテクターが入っている。

バンダナは海賊が頭に被るような形で使う。髪を中に入れれば乱れることもなく戦闘の邪魔にならない。

小手は特殊繊維で防刃能力の高いものだ。


『ありがとうございます!大切にします!』


クリスは目を潤ませながらリュウを見つめていた。


”どうも最近クリスが妙に女っぽくなってきたような気がするんだよな。たまにドキっとしてしまうことがある”


リュウはその原因が自分だとは気付くことがなかった。よくある朴念仁だ。



街の外へ出た二人はコヨーテの生息地域へと向かった。

歩いて2時間といったところの場所だ。

先日10匹を狩ったが、この地域にはまだ多数生息しているみたいだ。

沢山狩っても絶滅することはないだろう。


『クリス、見習い討伐は支援が許されるが一人で大丈夫だな。中級昇格のウォーウルフの前哨戦だと思ってやってくれ』


『はい!大丈夫です!サクっと終わらせます』


クリスも自分の力量を測る機会がなくてストレスが溜まっていたのだろう。意気揚々としている。


リュウがコヨーテの位置を教えると、すかさずクリスがそちらの方向に掛けていく。 気配に気づいたコヨーテが散開して逃げていく。


『クリス、戦いの基本だ。敵に接近する場合は風下からだ。臭いや気配を悟られてはまたすぐ逃げられるぞ』


『はい、了解しました。次は慎重にいきます!』


クリスの良いところは素直にリュウの言うことを聞くことだろう。しかも頭がいいので自分なりに咀嚼して考えるのだ。一を聞き十を知るとは正に彼女のことを表している。


アドバイス通りに行動し、クリスはコヨーテ5匹を難なく狩った。皮を傷つけない様、槍の柄を使って撲殺している。

女性の腕力ではなかなか難しいのだが、特訓と養仙桃の効果のお蔭で彼女の腕力は並みの男性以上に力強くなっていた。


『それじゃあ、ここで解体をしていこう。一匹手本を見せるからそれに倣ってやってみるんだ』


『はい、やってみます』


動物の解体は綺麗ごとでは済まされない。ある程度のグロ耐性が必要だ。 だが、生死を掻い潜ってきた彼女は多くの人の死に様を目の当たりにしている。生きる為には心も強くあるべきと動揺することもなくリュウの動きを盗み取ろうと真剣に見て真似をした。


解体用のナイフもクリスに手渡している。これはリュウ愛用のコンバットナイフでなく、鞘が蓋になっている短刀タイプだ。


『ナイフの表面に薄く気を流して切るんだ。気が強いと素材が痛むから薄さ加減が難しいぞ』


最初は思う様に切れなかったクリスだが、一度コツを掴むとリュウ同様ナイフをバターで切るが如くあっさりとこなしていた。


5匹全部を解体するのに30分も掛からなかった。さすがに優秀な弟子だ。


『最後にこれを渡しておこう』


リュウは自作の新たな空間ポーチをクリスに渡した。


『これは空間ポーチといってポーチの中を無限空間が展開している。そのまま収納を念じればどんな大きなものでも収納されるし、取り出したい時は出したい物を念じて手を入れれば取り出せる便利なものだ。

ポーチの中は時間停止の術も施してあるので食料なども腐ることがない』


『そんな貴重なものを私にくださって大丈夫なのでしょうか? これ一つで一生遊んでくらせる程の価値があると思いますが』


『珍しくて便利なだけで俺にとってはいつでも作れるもんだから気にするな』


リュウの言葉通りだ。この程度で驚いていてはリュウと付き合っていけないだろう。 クリスはこの先も驚かされる連続だとは知る由もなかった。


『さて、今からローグの街に戻るが、ただ戻るだけでは面白くない。これから軽く修行をしながら帰るとしよう。 クリスは脚力もついているから走っても普通の人よりも速く走ることが出来る。だが、疾走だと常に脚を動かす必要があり、効率も悪い。 そこで、足で地面を蹴る時に気を混ぜて地面と足を反発させるんだ。これを瞬歩という』


説明をしながらリュウが実際にやってみた。 一度踏み出すだけでリュウは100メートルくらい先まで飛んで行った。そしてまだ戻ってきた。


『リュウ様!すごいです!』


またクリスがウルウルで見つめてくる。


『コツさえ掴めば今のクリスなら簡単に出来る筈だ。やってみるがいい』


『はい!』


リュウのアドバイス通りに試すクリスだが、最初はなかなかタイミングが合わせられなかったが、一度出来る様になるとコントロールは簡単だった。


二人で瞬歩で街へと進む。走って1時間に30kmくらいの移動距離だが、

これだと10分で30kmは移動できた。


『ちょっと止まってくれ』


街まであと僅かというところでリュウが停止を指示した。


『せっかくだから瞬歩の応用も教えておこう』


クリスは何が出てくるのかワクワクしていた。


『今までは地面を蹴っていたが、熟練者は空気を蹴ることもできる。それで何が出来るかと言うと、空中移動が可能となる』


リュウはそのまま上空へ飛び、落下途中で宙を蹴り上空を往ったり来りしていた。 もちろん、見ているクリスはウルウルだ。


『これはただ移動するだけではない。例えば、壁や地面に叩きつけられる前にこの技を使えば衝撃吸収ができる。脚に限らず、全身で発せられるようになれば狭い場所でも発動させることが出来、攻撃と防御の両方に利用することが可能だ』


『本当にすごいです!』


その言葉の後に小さい声で”愛してます”と聞こえない程で囁いたの聞かなかったことにした。


失敗すると危ないので時間のある時に練習する様に言って、このままローグの街へと戻ることにした。


ギルドの受付に見習い討伐の報告を行った。朝と同じ女性だったが、もう戻ってきたのかという驚きでギョっとした反応をしていた。

当然、中級昇格の討伐を続いて請けたのだが、今度は何も言われなかった。


これでクリスは見習いを卒業して初級(C級)ハンターとなった。


達成報告と同時に部位の買取にも出しておいた。皮は見習い討伐達成後、成功報酬に皮の買取額も含まれる。 牙と肉も買取に出した。 5匹分で合計1金貨(10万円相当)にもなった。


『クリス、これはお前が自分で初めて稼いだお金だ。好きに使うといい』


換金した金貨をそのままクリスに渡した。


『二人で狩ったのに私だけ貰うわけにはいきません!』


『いや、狩ったのはクリス自身だろ?俺は解体のレクチャーをしただけだ。それに俺が金持ちなのは知ってるだろう? 見習いは見習いらしく貰っておけばいいのさ』


『わかりました。ありがとうございます!』


リュウの言った自分自身で稼いだお金という言葉が感無量だったのだろう。クリスはまたしてもウルウルだった。



もうすぐで昼という時間だったので近くで昼食にすることにした。

入ったのは以前に行ったのとは別の洋食屋だ。


昼のランチを頼んだら、パンとスープが出てきた。スープは野菜スープに申し訳なさ程度の鶏肉が入っていた。


『クリス、前にも言ったがこの国の料理は味付けに工夫がなくて大味なんだよな。これを何とかしたいんだ』


『具体的にはどの様にです?』


『例えば、このスープだけど普通に煮込んで塩胡椒で味付けしているみたいだが、牛乳やチーズを入れて、小麦でトロみを付けるんだ』


『なんだか聞いてるだけでコクがあって美味しいそうですね!』


『だろ?ステーキなんかの肉でもソースで味が全然違ってくる』


『それじゃあ、リュウ様が料理を作って商売すれば儲かりますね!』


『うーん、あまり稼ぐ気はないんだけど、毎日の食生活をとりあえずは何とかしたいかな』


『もちろん、私も協力させてもらいますよ!』


またキラキラ目を輝かせている。ほんとに素直でいい子だ。



食事の後、ウォーウルフの生息地に向かった。

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