第13話 Aランクハンター

ギルドを出たリュウは朝から何も食べていない事に気づいた。

養仙桃は腹持ちが良いので空腹感がないのだ。

夜も養仙桃を食べてもいいのだが、せっかく街にいるし、大金も入ったことだから外食をすることにした。この世界の食べ物はまだ一度も口にしたことがなかったので楽しみだった。


ギルドは商業区の一角にあるため周辺には飲食店が多く並んでいる。 その中で店の雰囲気が明るめの洋食屋に入ることにしました。


『いらっしゃいませ~』


店員の女の子の元気のいい声が聞こえてくる。

リュウは窓際の空いている席に座った。

この世界の料理にどんなものがあるかわからないのでとりあえず店員に聞いてみることにした。


『この街の名物料理ってなんだい?』


『うーん、名物料理ですか?あんまり有名なものはないですねえ。無難なところでは猪肉のステーキでしょうか』


『じゃあ、それを。焼き加減は普通で』


『猪肉のステーキをミディアムですね!かしこまりました~』


元気がいいのはいいことだ。店員の態度ひとつで美味しい料理も台無しになることがある。


待つこと10分。鉄板に乗せられて焼きたてのステーキが湯気を出しながら運ばれてきた。


『お待たせしましたー!鉄板が熱くなっているのでお気を付けください~!』


見た目おいしそうなステーキだった。 見た目は・・・

ナイフとフォークで肉を切ろうとしたが、なかなか切れず、肉もソースで味付けするでなく塩と胡椒だけの味付けでどこか大味な大陸のわらじステーキを思い出した。


『この街には名物料理が無いって言ってたし、あまり食に拘る文化ではないのかな? これは改善の余地ありだな』


この後、元気のいい店員に調味料の類がないか聞いてみたが案の定、料理にはあまり使われてないらしい。

グルタミン酸ナトリウムを調味料として使ったら面白いことになりそうだな。 と食文化を変えてやろうとリュウの悪巧みははじまるのだった。


大味ステーキで腹も膨れたので洋食屋を出たリュウはギルド宿舎でチェックインを済ますことにした。

鈴鳴は今夜はナターシャと夜通しの宴らしいので恐らく帰ってはこないだろう。

ナターシャはリュウと鈴鳴は別々の部屋を用意すると言っていたのだが、鈴鳴がどうしても譲らず、同じ部屋がいいと駄々をこねたので仕方がないので賓客用のツイン部屋を用意することとなった。

リュウとしては一人で寛ぎたかったのだが、仕方ない。

部屋ではクロで居る様にさせようとリュウは思い付いた。


『いらっしゃいませ』


入口の自動ドアが開くと同時に客室係達が深いお辞儀をして出迎える。高級ホテルと間違うくらいの立派な造りの建物はギルドの賓客用宿泊施設だった。

格式ある施設であるため、服装も相応しくなくてはならない。

リュウはクエスト系RPGゲームで見た冒険者用の服装を少し豪華にした感じの服を生成した。素材は絹とコットンだ。珍しい服であったが、高級感があるので違和感はないと思う。


リュウはフロントでチェックインを行った。


『Aランクハンターのリュウです。今日からお世話になります』


『ギルド長からお伺いしております。ようこそ当施設へおいで下さいました。至らぬ点ございましたら何なりとお申し付けください』


流石要人を受け入れる施設だけあり教育が行き届いていて気持ちがいい。


ポーターの案内で最上階の5階の部屋を案内される。 ちなみにポーターの話ではギルド長も同じフロアに泊まっているらしい。 何か意図的なものを感じさせる。 鈴鳴といいギルド長といい気をつけなければ。


部屋に案内され寛いだ。 そういえば、この世界にはチップというものは存在しないらしい。元居た世界では国によってはこの煩わしいチップという悪しき風習が残っているところがあり面倒だった。 それなら一括でサービス料を取ればいい。


部屋は赤い毛足の長いフカフカの絨毯と、白を基調とした品のある調度品が置かれていた。 なかなかのセンスだ。

リュウは左右に並べられたベッドの間隔を今の1メートルから最大の3メートルに引き延ばした。最初からこうなっていたことにすればいい。帰ってきても酔っ払いにはわかるまい。


流石に今日は朝からいろんな出来事があった。リュウも肉体的には問題なかったが精神的にというか気苦労といか程よく疲れていた。

その甲斐もあって、シャワーを浴びたあと備え付けのローブを着てベッドに潜り込んだリュウはそのまま深い眠りについた。


朝の陽差しと小鳥のさえずりにリュウは目覚めた。 

昨晩は流石によく眠れた。今まで修行の毎日で柔らかいベッドで眠れるなんて夢の様だった。 柔らかいといえば、何か右腕の感触が柔らかい。

右を向くと、すぐ目の前に鈴鳴の寝顔があった。


『おい!コラ!起きろ!!なんで俺のベッドにお前がいるんだよ!!』


リョウの体を抱きかかえる様に鈴鳴が眠っていたのだ。しかも服は何も着ておらず全裸の状態だ。 昨晩はリュウもシャワーを浴びてすぐにローブを羽織って寝たので下着も何も着けておらず、互いが密着して

いる状態だった。 この状態は非常に不味い。 


『おお、リュウよ、起きたのか。良く寝ておったの。 其方、朝からなんじゃ、こんなに大きくしおって、そんなに妾が欲しいのか?仕方ないのう』


『ちょっ!やめろ!!!』


リュウは飛び起きて慌てて服を着た。


『まったく、油断も隙もない奴だ!お前のベッドは向うだろ!』


『何をケチ臭いことを言うておる。妾が一緒に寝ておったのは、そこに温もりがあったからじゃ』


鈴鳴は登山家のセリフの様な訳のわからない理屈でベッドに入ってきたのだった。


『鈴鳴、お前実は仙人でなくサキュパス(淫魔)だろう!俺の精気を吸い尽くす気だな!』


『ふふふ、それも良い考えじゃのう。吸うなら口移しが良いのう』


何を言っても焼け石に水、いや、暖簾に腕押しか?


その時入口からノックが聞こえて誰かが入ってきた。 確か鍵が掛かっていたはずだが、犯人は目の前にいるこいつだろう。


『おはよう。昨晩はよく眠れましたか?よかったら下で朝食を一緒に食べましょう』


そう言いながら入ってきたナターシャは全裸でベッドに座っている鈴鳴を見つけた。しかもベッドは片側しか使われた形跡がない。


『貴方達!ひょっとして!!』


『ちがっ!朝起きたら鈴鳴が勝手にベッドに入っていて・・・』


『ふふふ、リュウはとても温かくて気持ちよかったぞ』


懸命に弁明するリュウに誤解をさらに重ねることをいう鈴鳴。


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なんとか誤解を説明して三人は一階にあるレストランで朝食を食べている。

ここは高級ホテル並みの施設だけあって朝食で出される食事も

一流の素材が使われている様だ。それ故に大味なのが惜しまれる。


『もう、この施設で変なことしないでくださいね』


『はい、鈴鳴さえ気を付ければ大丈夫です』


一応立場上釘を刺すナターシャに鈴鳴が変な事しなければ大丈夫とリュウが答えるが、ナターシャが”今度は私を仲間はずれにしないでよね”

と小声でボソボソ言ったのを超聴力のリュウの地獄耳は聞き逃さなかった。


『まあ、細かい事は置いといてじゃ、何か話をすることがあったんじゃろう、ナターシャよ』


お前が言うな!とリュウとナターシャがつっこみたかったがぐっと堪えた。


『ええ、そうよ。 やはり領主から貴方へ屋敷に出向く様に正式に通知が私のところに来たわ。 昨日の今日でかなり早い対応だとは思うけど、最愛の娘の命が救われたのですがら領主も早くあなたと話がしたいのでしょうね』


『領主ってこの国で一番偉い人ですよね?また変なことに巻き込まれそうだ・・・』


『リュウよ、そこは考え方次第じゃぞ。力あるものに恩を売っておくのも事を構えるにおいて必要じゃからの』


『なるほど。そういう考え方もあるな。 で、服装とかはどうすればいいのです?』


『そうね、ハンターにも式典用の服装があるわ。約束の時間は夕方なので恐らく話が終わった後で晩餐もあるでしょうから、正装の方がいいわね。

この後でギルドに寄ってもらえるかしら。ギルドの担当に言って一式を用意してもらわ』


『それは助かります。よろしくお願いします』


『妾は何を着ようかのう』


鈴鳴はウキウキで迷っていた。


『貴方は今回の件では部外者だから部屋で留守番に決まってるでしょ!』


シュンといじけた姿の鈴鳴がなんとなく可愛かった。



朝食の後、すこし部屋で寛いだ後、ギルドへと足を運んだ。

宿舎はギルドから比較的近い位置にあり、歩いて5分程度の距離だった。

来賓用ということもあり、遠い場所にあると移動の馬車を用意したりと不都合があるからだろう。


昨日はギルドに入会したてで貰えなかったが、ハンターにはランク別に色分けされたバッチを着けなければならない。


見習い:黄緑

初級:ブロンズ

中級:シルバー

上級:ゴールド


となっている。受付に顔を出すと、職員がすぐさまハンターバッチを用意してくれた。 昨日とは全く態度が違っていて面白い。 それもそのはず。Aランクハンターは、なろうと思っても簡単になれるものではない。凶悪な魔物を退治したり、リュウの様にAランクの指名手配者を討伐したり、国政に左右する様な出来事から国を救った英雄にしか与えられないのだ。


Aランクハンターは尊敬に値する存在なので扱われ方も当然それに相応しいものであった。


リュウの場合、昨日来て見習い依頼を請けていきなり翌日にAランクハンターという異例というか常識の範囲で語れない大出世なので話も背ひれ尾ひれがついて街中の人達の話題の中心だったのだ。


『リュウ様、ギルド長から伺っております。こちらへどうぞ』


職員の男性が緊張気味に声を掛けてきた。

リュウにしてみれば男性職員に声を掛けてもらった方が気が楽なのでよかったのだが、女性職員は私がやると多くの候補者で喧嘩になってしまい、喧嘩両成敗ということでこの男性職員が代わりに案内することとなったことは知らない舞台裏だった。


『こちらが正装用のお召物となります。色は何色がよろしいでしょうか?』


『出来ればダーク系でお願いします』


『それではこの深い青色などいかがでしょうか?』


『いい感じですね。それじゃあ、それでお願いします』


『かしこまりました。これから仕立てて午後に宿舎にお届けする様に

致します。夕方の領主様のご招待には十分間に合います』


ギルドのハンターが功績を認められて領主に招待されるという名誉は彼らギルドの職員にとっても誇らしいことであった。


ギルドで用事を済ませたリュウは少し時間を潰すことにした。まだ昼間では数時間あり、時間としては中途半端だからだ。


リュウは商業地区にある商店をチェックしていた。 流通している品物と相場を見るためだ。 

武器・防具屋、薬局、魔法具店、食材屋、生活道具屋、いろいろ見て周ったが、どうやらこの世界の文化レベルはあまり高いものではないらしい。元の世界で言うと西暦数世紀といったところだろうか。

その分、文化改革の遣り甲斐がありそうだ。 またしてもリュウの悪だくみが顔を出す。


何にしても、料理が美味しくないのは良くない。調味料の開発が必要だ。果物や野菜を発酵させてソースを作ったり、大豆を発酵させて醤油や味噌を作るのもいいだろう。 時間加速のポーチに入れればすぐに

発酵させることができる。 今日は時間がないので材料だけ仕入れておいて後日試してみることにした。

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